BEVの性能を向上させるのは、バッテリーだけではない。モーターやギヤトレーン、インバーターなどのeAxleの基幹部品の性能向上は極めて重要だ。そのなかでも、インバーター用SiCウェハを用いた次世代パワー半導体は、電費向上に欠かせない。
TOYOTA TECHNICAL WORKSHOP2023の会場に展示されていたのは、「黒いホットケーキ」のような形状のSiCの結晶だ。
SiC(シリコンカーバイド=炭化珪素)は、炭素(C)と珪素(Si)の1:1の化合物で、ハイブリッド車やEVの走行用モーターを制御するためのインバーターなどに必要なパワー半導体に用いる新しい材料だ。パワー半導体で使用するSiCは、高純度・単結晶で生産が非常に難しい。
現在パワー半導体に使用されているのは、Si(シリコン)を使ったタイプだ。Siパワー半導体に電流を流すと電力の一部は熱で失われる。またスイッチのON/OFF時のテール電流でスイッチング損失も大きい。HEVの電力損失の20%がパワー半導体によるものだ。これに対してSiCパワー半導体は、熱による定常損失も小さくテール電流がほとんど流れないためスイッチング損失も小さい。
SiCパワー半導体の研究は、トヨタグループであるデンソーと豊田中央研究所が1980年代から基礎研究を始めていた。
SiCパワー半導体は、徐々に普及が始まっており、トヨタもレクサスRZに採用している。とはいえ、まだまだ高価だ。
今回トヨタが見せてくれたSiCウェハを使ったパワー半導体は、電力損失を5割減らせるという。つまり損失が半分になるわけだ。
高純度・単結晶のSiCの生産は依然として難しい。以前、デンソーの研究所で見せてもらったときは、「昇華法」という製法でSiCの結晶を造っていたが、今回は「ガス法」によって精製するという。今回展示されていたのは、デンソーとトヨタが出資して設立した車載半導体を開発するミライズテクノロジーズによるもの。
以前の取材(2010年代)では、昇華法で6インチ(152mm)のウェハの成長は0.3mm~0.5mm/時間だった。今回のトヨタのものは、ガス法で3mm/時間だという。また、今回は業界最大の8インチ(203mm)だから「業界比10倍以上の速度での結晶成長速度」を謳うだけのことはある。
次世代BEVの航続距離を現世代の2倍を目指すトヨタ。そこには、SiCパワー半導体が、当たり前のように採用されているのかもしれない。