国産車初のスペシャルティカーとして知られる初代トヨタ・セリカ。カリーナの兄弟車として開発することでコストを抑えた2ドアクーペは、モータリゼーション高まる当時の日本で大人気となった。販売方式に特徴があったこともセリカの人気を支えた。最上級モデルであるGTを除くグレードでは、注文時に内外装のほかエンジンやトランスミッションを自由に組み合わせることが可能だった。自分だけのセリカを作ることができるとあって、GT以外のグレードも大いに売れた。と言っても、やはり人気は1.6リッター直列4気筒DOHCである2T-G型エンジンを搭載するGT。
2T-G型エンジンはヤマハとの共同開発により実現した一連のトヨタ・ツインカム第4段として登場した。トヨタ2000G、同1600GT、マークⅡ1900GSSに次ぐDOHC。名機として知られていて、2T-Gをベースにチューニングを進めたエンジンはF3用にも採用されたほど。だが時代は排ガス規制が強化されつつある1970年代。70年代中盤以降、各メーカーからスポーティなエンジンがラインアップから姿を消していくなか、2T-Gだけはインジェクションや三元触媒などを装備して80年代初頭まで生き延びた。
初代セリカは2T-Gエンジンを使い続けたが、73年にはリヤをファストバック風に改めたセリカLB(リフトバック)が追加され、同時に2リッターDOHCである18R-G型もラインナップに加わる。排気量で圧倒的に有利な18R-Gだが、2T-Gのような軽い吹け上がりでなかったため、あえて1.6リッターを選ぶマニアもいたほど。
さらに74年のマイナーチェンジではクーペにも2リッターエンジンがラインナップされ、同時にフロントノーズがLBと共通のデザインに変更された。従来のスラントノーズからボンネットとフェンダーを前へ突き出し、バンパーラインと揃えたのだ。好みは分かれるものの、こちらのデザインにも固定ファンがいる。その翌年に昭和50年排出ガス規制へ適合させると、さらに翌76年にはエンジンの吸気系にインジェクションを装備して昭和51年規制へ適合する2T-GEU型へ進化する。
排ガス規制への対応に追われた70年代半ば、まさに1975年式のセリカ1600GTに乗る堀内俊明さんは、現在59歳。70年代半ばを多感な10代として過ごした世代であり、その後のスポーツカー冬の時代も当然知っている。だから80年代初頭に運転免許を取得、20歳の時に憧れだった初代セリカを手にれた。
もちろん選んだのは1600GTで、この時期のオーナーの多くがしたようにエンジンのチューニングを開始する。2T-G型は前述のようにモータースポーツで使用されることが多く、セリカの後に初代レビン・トレノであるTE27にも採用されたからアフターパーツに事欠かない。堀内さんもチューニングに手を染め定番の1750ccを経て2リッターにまで排気量を拡大。ノーマルとは比較にならない加速力を堪能されてきた。
年齢とともに初代セリカは手放して一般的なクルマを乗り継いで来られたが、やはり楽しかったのは20歳の時に手に入れたセリカ。そんな思いが積み重なってきたのだろう、2012年になってもう一度セリカを手に入れることにされた。当時すでに48歳であり、いろいろな意味で余裕が生まれてきたこともある。手に入れたのは75年式のクーペ1600GT。キャブレター時代のモデルを当然のように選んだのは、こだわりだ。
当初はノーマルのまま乗っていたが、やはり2リッターへの思いが募る。当時のようにチューニングパーツが豊富ではない状況だったが、ネットオークションで2リッター化された2T-G型を落札。入手が困難な3T型用クランクシャフトがお目当てだったが、個体は海が近い倉庫で長年保管されていた。不安に思いつつエンジンを分解すると、意外にもサビや固着はなくクランクシャフトは無事だった。また作用角256度の理想的な純正カムシャフトが組まれていて、こちらも使用可能な状態。だがピストンは低圧縮比向けのものだったので、ハイコンピピストンを新たに入手した。
部品が揃ったところでレースメカニックをしている人の元へエンジンを運び、チューニングを依頼する。実に1年がかりでエンジンが組み上がりボディへ戻すことにしたが、当時と違う改造を施すことも同時に進めた。さすがにクーラーがなくては夏場に乗れないし、ワイドタイヤを履かせたことでパワーアシストのない純正ステアリングでは厳しい。
そこでエアコンメーカーであるサンデンに直接電話してセリカに装着できるクーラーユニットを手配してもらうことに成功。ただし取り付けには苦労され、ラジエターの位置を変更しつつクーリングシュラウドを製作してコンデンサーを追加しても冷却性能を向上させることに成功した。
さらにパワーステアリングは油圧ではなく簡単に追加できる電動パワステを選んでいる。ユニットは個人で製作している人を見つけ、シャフトを加工せずに装着できるものを手配した。シャフトを加工すると改造公認車検を取得しなければならなくなるからだ。部品が届くと装着は堀内さん自ら行っている。
こうしてノーマルとは比較にならない速さと快適さを実現したが、排気量が大きくなったことに対してストラットタワーバーへ原付のモンキー用リヤショックをダンパー代わりに装着するなど、快適さへの追求はまだまだ止まらない。自分であれこれDIYする楽しさも旧車のある生活を潤してくれるのだろう。