トヨタ2000GTの純正ホイールはマグネシウム製だった!【TOYOTA 2000GT物語 Vol.29】

速さを追求する一部のレーシングカーの除くと、アルミホイールより圧倒的に少数派のマグネシウムホイール。非常に軽量であることはよく知られているが、その性質上の扱いづらさと高額になることから、純正装着する乗用車は今では皆無。ところが、半世紀以上も昔のTOYOTA 2000GTの純正ホイールは、なんとマグネシウム製だったのだ。
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国産車における超合金ホイールのパイオニア

進行方向右側のホイールは緩み防止のため逆ネジになっている。ハブロックナットには「UNDO RIGHT SIDE」の表記がある。

国産車初のマグホイール純正装着

国産車として初めてマグネシウムホイール(マグホイール)を標準装備したTOYOTA 2000GT。当時の国産車はマグホイールどころか、アルミホイールを装着したクルマさえほとんど例がない時代だった。

アルミニウムより比重が軽いマグネシウムを使用すれば、より軽くて強いホイールが作れることは当時でもわかっていた。限られた時間で速さを競うレーシングカーでは、マグホイールを採用する例はあったが、長期間の使用が前提の乗用車での実用化は難しいと考えられていた。

そもそもマグネシウムという素材は、酸化しやすく腐食が始まると強度が低下し、その上、一旦火が付くと激しく燃える性質がある。車両火災になった場合のことを考えると非常に厄介な素材だったのだ。

試作車のワイヤーホイールから実用的なマグホイールへ

今でこそTOYOTA 2000GTのアイデンティティともいえるマグホイールだが、1965年10月の東京モーターショーに初めて展示されたプロトタイプの足元には、マグホイールではなくオートバイのようなスポークを持つワイヤーホイールが装着されていた。当時のスポーツカーは、英国車を中心に優美なワイヤーホイールを採用する例が多かったためだ。

しかし、TOYOTA 2000GTの試作1号車が完成し、開発テストを進めていく過程で、ワイヤーホイールに重大な問題が発生した。横Gのかかる激しいコーナリングを繰り返すと、ワイヤーが緩んでしまったのだ。これにはトヨタの開発陣だけでなく、自社オートバイに長年スポークホイールを使い続けてきたヤマハ発動機の技術者も驚きを隠せなかったという。

この剛性不足を解消するため、新たにホイールを製作することになり、当時の先進素材であった超軽量マグホイールの採用が決まった。そのデザインは、デザイナーの野崎喩が短期間で仕上げ、神戸製鋼所に製造を依頼した。この経験により生まれた神戸製鋼所製の乗用車用マグホイールは、のちに日産フェアレディZ432(1969年)にも純正採用された。

試作1号車には、センターロックのワイヤーホイールが装着されていたのだが…。
1969年に登場したフェアレディZ432にも神戸製鋼所製のマグホイールが標準装備された。こちらのデザインはかなりシンプルなもの。

凝った素材と作りがアダとなり…

TOYOTA 2000GTのマグホイールで特徴的なのは、レーシングカーのようにセンターロック式を採用していたこと。4本あるいは5本のスタッドボルト&ホイールナットで取り付けるのではなく、1個の大きなハブロックナットでホイールを固定しているのだ。

ホイールのセンターに5本のナットの頭のようなものが見えるが、これは位置決めをするためのキーシャフト。緩み防止のために進行方向右側のハブロックナットは逆ネジになっている。

マグネシウムは性質上、空気に触れるとすぐに酸化が始まるので、TOYOTA 2000GTのマグホイールは腐食防止表面処理を施した上に塗装されている。しかし、半世紀以上の経年劣化はいかんともし難く、オーナーを悩ませてきたという。そるのため、オリジナルと同じデザインのアルミホイールをオーナーズクラブで復刻製作した。

開発テストドライバーを担当した細谷四方洋は、「私がTOYOTA 2000GTで唯一心残りだったのは、マグホイールを採用したことです。アルミホイールにしておけば大切にしているオーナーさんたちに苦労をかけずに済んだかも知れません」とのちに語っていた。(文中敬称略)

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