20代の頃2台乗り継いだ初代カリーナをもう一度! 古いクルマが生み出す友情も大事! 【ノスタルジックカーフェスタGOSEN2023】

古いクルマはオリジナルが一番でカスタムするのは邪道。このような意見は根強いものだが、補修部品がなければ満足に走らせることができなくなる。楽しく安全に走ることを優先して仕上げたカリーナオーナーのお話からは、旧車を自由に楽しむスタイルが感じられた。
PHOTO&REPORT●増田 満(MASUDA Mitsuru)
1973年式トヨタ・カリーナ2ドアセダン1600GT。

トヨタの名エンジンと呼ばれる2T-G型を載せたクルマといえばセリカやレビン・トレノが真っ先に思い浮かぶ。当初は初代セリカ用として開発されたDOHCエンジンで、セリカは日本初のスペシャルティカーという分野を切り拓いた存在でもある。スペシャルティカーとは2ドアクーペながら専用設計されたわけではなく、量産車とコンポーネンツを共有することでコストを下げられたモデルのこと。開発コストを抑えることは新車価格の抑制が可能になり、スタイリッシュなクルマが欲しい若者にとってはうれしい設計でもある。

縦長のテールランプが初代の特徴。

では主要コンポーネンツを共有するカリーナはどんなクルマだったのかというと、最近はあまり語られることがなくなったように感じる。セリカに人気が集まるあまりカリーナをおろそかにしてしまう傾向が強いためだが、シャーシ設計はセリカと同じだから想像以上にスポーティな走りができることに再注目したいもの。さらに1970年の発売後、半年も経たないうちにセリカ1600GTと同じ2T-G型エンジンを搭載する1600GTが追加されている。ちなみに71年当時セリカ1600GTは87.5万円の新車価格だったが、同じ仕様のカリーナ1600GTは2ドアセダンというスタイルながら81.8万円で買えた。高性能DOHCエンジン車が6万円近く割安で買えたのだ。

純正GTホイールをワイド加工している。

セリカがクーペであるのに対してカリーナは2ドアセダンということがミソ。派手好きな若者ならクーペを選ぶのが自然だし、ある程度年齢を重ねてファミリーカーとしても使いたいスポーツユーザーならカリーナを選ぶことだろう。この傾向は中古車になってからも変わらず、70年代中盤以降の排ガス規制後はさらにセリカの人気に拍車がかかる。するとカリーナの相場は下がる一方で、72年に追加設定された2ドアハードトップ以外は部品取りにされてしまう個体が多かった。そのため現在まで残存している初代カリーナは非常に希少。旧車イベントの会場へ行っても見かける機会は少ない。

5速ミッションが誇らしげなエンブレム。

6月4日に新潟県五泉市で開催されたノスタルジックカーフェスタGOSENの会場でも、定番の車種がやはり多い印象だった。このイベントは80年代のモデルが参加可能なため、展示されたネオクラシックカーのシティターボⅡやR31スカイラインGTS-Rを取材した。そのGTS-Rを取材中、オーナーが十日町クラシックカーミーティングの実行委員を務める方だと判明した。さらに取材中、GTS-Rオーナーと長く歓談している方がいる。実に楽しげに旧車談義を続けているので、自然とお話が耳に届く。どうやらお二方は地元・新潟で開催される旧車イベントに参加しては再会を楽しまれているようなのだ。

エンジン本体はノーマルのまま吸排気系を変更して楽しむ。
青い塗装が特徴だったトラスト製タコ足を装着。
ソレックスキャブレターはファンネル仕様でセッティングしている。
点火コイルは新しいトヨタ車のものを流用した。

GTS-Rは以前の記事で紹介したようにほぼノーマル状態で楽しまれている。年式が比較的新しく低走行のまま保管されてきた個体だから可能なことだろう。それに反してお話しされている宮越保男さんが乗っている初代カリーナは、オーナーが1/1のプラモデル感覚でカスタムを進められている個体だった。今年で63歳になる宮越さんは、若い頃に続けて2台も初代カリーナに乗った経験がある。今から40数年前のことで、初代カリーナは前述したように中古車の人気が高くなく手頃に買える存在だった。宮越さんも友達のお兄さんが乗っていたカリーナを譲ってもらいオーナーになった。

オーナー自ら配線を引き直して各種装備を使えるようにしたインテリア。

ところがこのカリーナは若気の至りでクラッシュ・廃車の運命を辿る。そこで近所の中古車ショップへ行くと、事故をしたのと同じボディカラーの初代カリーナが置いてある。何かの縁だろうと2台目のカリーナはこうして宮越さんの手元へやってきた。2台目は定番の1750ccへとエンジンをボアアップして週末の夜を楽しんだ。ただチューニングエンジンは寿命が長くないため、2年ほど乗り回しているとエンジンがブローしてしまった。これ以降、宮越さんはカリーナではないもののトヨタ車を数台乗り継ぐことになる。

オリジナリティより快適・安全に走ることを優先している。
純正シートが破れたためレカロのリクライニングシートに変更した。

40代になっていた2002年、何気なくヤフオク!を見ていると、なんと初代カリーナが出品されている。しかも2ドアセダンの1600GTで、まさに若い頃乗っていたのと同じタイプ。出品価格が安かったこともあり衝動的に入札してみたところ、ライバルが現れずそのまま落札できてしまった。それがこのカリーナで入手時はエンジンの補機類やサスペンションが傷んでいたものの、ボディの塗装は美しく今もその当時のまま。比較的程度の良い個体だったため、コツコツと程度の回復と同時にカスタムを開始。ただ若い頃のようにエンジンをボアアップすることは避け、吸排気系のチューンで済ませている。チューニングより安全に走り曲がり泊まれることを優先して他車用パーツを流用しながら路上復帰させている。

外観はノーマルであることにこだわる。

安全と同時に快適な走りにもこだわった。電動パワステやクーラーを増設したほか、カーナビやオーディオをDIYで装着している。けれどルックスはオリジナルにこだわっているため、ヘッドライトがLEDである以外は極力ノーマルを維持している。そんな宮越さんのお気に入りは純正スチールホイール。GTに採用された独特のデザインが特徴で、何もアルミホイールに変えなくてもデザイン次第でスチールホイールでいいと感じさせてくれる。この純正ホイールのリムをワイド加工して純正よりサイズアップしているのだ。そこへ履かせたのは復刻されたアドバンHFタイプD。古くから楽しんできたカリーナだから当時のスタイルを盛り込みつつ、新しいパーツで快適性を両立している。オリジナル主義ばかりが旧車の楽しみ方ではないと、改めて感じさせてくれた宮越さんなのだ。

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著者プロフィール

増田満 近影

増田満

小学生時代にスーパーカーブームが巻き起こり後楽園球場へ足を運んだ世代。大学卒業後は自動車雑誌編集部…