2024年以降予想される物流問題は日本産業界の危機! トヨタは得意の“カイゼン”で乗り越える! 目指すはトラックドライバー、環境、トヨタの三方良し!

( PHOTO:日野自動車)
トラックドライバーの不足から来る物流能力低下の危惧は以前から叫ばれている。
特に2024年から実施されるトラックドライバーの残業時間上限規制は輸送能力の低下をもたらすことが予想され、それに伴う産業活動の停滞は日本経済を危機的な状況をもたらすのではないか……。
トヨタ自動車はそのような状況を見越し以前から物流体制の見直しを図っており、このたびその経過と今後の展望が報告された。

“ホワイト物流”と2024年問題と環境負荷低減……課題は多い

トヨタは2019年に「2030年には2015年比でトラックドライバーは26%減少する」と試算。全国的なトラックドライバー不足が以前から予測されていた。少子化と現役世代の高齢化による労働人口の減少、加えて、長時間労働やなどトラックドライバーの大きな負担が物流業界の課題として挙げられてきており、トラックドライバーの働きやすい環境の整備が急務とされてきた。トヨタもこうした“ホワイト物流”推進に賛同し、環境づくりをおこっている。

“ホワイト物流”とは?
国土交通省、経済産業省、農林水産省が推進する運動で、
・トラック輸送の生産性向上と物流の効率化
・女性や60歳以上の運転者にも働きやすい、よりホワイトな労働環境の実現
この2点を荷主や輸送会社が協力して対応していく。
賛同企業は公表されており、トヨタも参加している。

“ホワイト物流”を目指す施作の一つとして、2024年4月からこれまで物流業界では上限なしだった年間残業時間を960時間に制限されることが決定しているが、これを単純に実施すれば輸送能力が低下し、必要な輸送力を得られないのは目に見えている。

■2024年の規制内容
・改善告知
1年間の拘束時間:3516時間→原則3300時間(3400時間まで延長可)
1日の拘束時間:上限16時間(15時間超は週2回まで)→上限15時間(14時間超は週2回まで)
・労働基準法
1年間の時間外労働(残業):上限なし→960時間

加えて、トラックドライバーの賃金は全産業平均より1割ほど低く、それを残業が補っているという面もある。残業で得ていた賃金が960時間規制で減少するとなると、トラックドライバーからの離職が進み輸送能力のさらなる低下を生む可能性も危惧されている。例えば、年間1100時間の残業で稼いでいたドライバーからすれば、単純にその分の年収が下がってしまうことになるのだ。

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また、国の中期目標として2030年には2013年比でマイナス26% の二酸化炭素排出量削減が求められており、前述のホワイト物流と合わせて物流の効率化は積極的に取り組まねばならない課題となっている。

“引き取り物流”で効率化を進めるが、まだ足りない

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トヨタは2016年から九州エリアで、2018年から東北エリアで、2019年からは東海エリアで“引き取り物流”をスタートさせ、物流の効率化とトラックドライバーの負担軽減を図ってきている。

引き取り物流とは、これまで輸送会社が適宜行っていた輸送手配(お届け物流)を、トヨタが一括して手配、複数の部品メーカーを1台のトラックが効率的に集配して回る“ミルクラン”方式としたもの。これにより輸送計画立案・オペレーションをトヨタが実施することで、全体最適な輸送体制を構築でき物流の効率化を実現した。
現在、先行した九州と東北ではほぼ引き取り物流化を完了しており、2023年4月の段階で東海エリアでも約4割まで移行が進んでいるという。
加えて、これまで1社ごとに編成していたトラックを複数社合積みして高積載化するなど荷物量に合わせた最適な編成で効率を高めている。

“引き取り物流”による効率化で総走行距離を削減しただけでなく、荷物積み降ろし場を整備して、これまでスペースの都合で不可能だった積み下ろし時のリフト使用も可能となり、荷役作業時のドライバーの負担低減に加え安全性も向上。物流効率はもちろん、環境も改善しているのである。

また、国の試算では2024年問題で不足する輸送力は約14%とされるが、トヨタの実施している効率化ではまだこの14%完全に補完するには至っていないという。東海エリアの引き取り物流化を進めると共にさらなる物流効率の改善を図っていくという。

なお、2030年までにマイナス26%を目指す二酸化炭素排出量削減は、この引き取り物流により約8%の改善効果と見積もられている。まだ時間があるとはいえ、こちらも道半ばと言えるだろう。

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ダイムラートラック、三菱ふそう、日野自動車、トヨタ自動車の発表でにわかに注目を集める商用車。その中心にあるのは、「水素」だ。大型商用車+水素。どんなものなのか? これが水素トラックだ。 TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

効率と環境だけでなくドライバーの収入も改善する価格改定

残業時間規制による年収の絶対値の減少がトラックドライバーの離職に繋がる可能性があることから、トヨタは輸送価格を改定し、その分をトラックドライバーの賃金向上に繋げたい狙いだ。
最終的なトラックドライバーの給与額は輸送会社が決めることなので、トヨタの一存でトラックドライバーの給与が即上がるというものではないが、トヨタは輸送会社各社にその意向を伝え協力を仰いでいる。すでに完成車を輸送するキャリアカーでは2022年度下期から改定を進めており、部品輸送トラックでも2023年下期から改定される予定となっている。この価格改定原資は効率化による物流改善から捻出され、車両価格に転嫁されることはない。

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“カイゼン”による効率化で2024年問題をクリアし、さらにその先へ

間近に迫る2024年問題では輸送力は減少し、必要な輸送力に対し輸送力不足となることが予想される。それに対し輸送効率の向上で物流を改善し、必要な輸送力自体を減らすことでこの問題をクリア。
2024年問題で減少するトラックドライバーの収入は、輸送価格を改定することで現状並を維持できるようにする。それにより収入減によるトラックドライバーの離職を防ぎ、ひいては輸送力の減少を押しとどめる。
価格改定原資は効率化と改善による輸送費の圧縮を原資とし、製品価格には転嫁せず競争力は現状を維持する。
これらがトヨタが今、取り組み、推進している物流の“カイゼン“なのだ。

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トラックドライバー不足は何もトヨタの物流だけに限ったことではない。宅配サービスにより生活はとても便利になったが、この便利さを今後も維持していくのは容易ではなくなっていくということだ。便利さの負担を全て企業に任せ切るのではなく、ユーザーとしてもその利用方法を考えた方がいい局面にきているのではないだろうか?

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