脱・温暖化その手法 第71回 ―世界的に太陽光発電と電気自動車を普及させることで考えられる懸念点とその解決法 その1―

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパー電気自動車セダン"Ellica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日に電気自動車の権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開している電気自動車事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。

良いことばかりでなく懸念点について考えてみる

本連載の趣旨は新しく生まれているフレキシブル太陽電池と自動運転を装備した電気自動車の普及は技術的に可能であるということである。その結果、カーボンニュートラルが実現でき、温暖化の進行を食い止めることが可能となる。貧困ということをなくすことができ、一様に豊かな生活ができるようになる。新たな巨大産業が生まれ、経済が活性化するということを述べてきた。

1830年頃からとされる産業革命のおかげで、多くの人々の生活は豊かになり、過酷な労働からも解放され、平均寿命も延びてきた。同時に科学も進歩し、1900年までに電磁気学が生まれ、1900年以降量子力学が発見された。その結果、新たな発明とその産業化がなされた。

電磁気学の成果として電気に関する、あるいは電気と磁気の関係に関する多くの技術が生まれた。典型例は、発電と照明及びモーターである。量子力学は、原子と分子の中身と光の関係を理解する科学だった。その応用として、20世紀最大の発明として半導体が生まれた。これは、トランジスタとダイオードを生んだ。トランジスタはコンピュータを始め、多くの電子機器の基本部品となり、ダイオードからはLEDと太陽電池が生まれた。おかげで、人類はさらにその恩恵に浴することができた。

しかし、その副作用として経済格差、自動車によるおびただしい事故、公害問題が発生し、極めつけは次第に影響が深刻になっている温暖化であった。

人々は困った時に新しい知恵を生む。温暖化は逃れられない全人類に影響を及ぼす大きな問題である。その解決策として太陽電池で、しかもフレキシブルで軽量な製品が生まれようとしている。電気自動車はリチウムイオン電池と、強力なネオジム鉄ホウ素磁石のおかげで、世界的視野で普及の時代に入ったように見える。センサー類の発明と、そこからもたらされる情報処理技術のおかげで自動運転も実用化が進んでいる。技術的容易さの順にレベル1から5の定義がなされ、運転者が乗っているという前提でのレベル3までは実用の段階に入り、制限付きながら、まったく人の運転を介さないレベル4、制限なしの自動運転のレベル5を目指した開発が進められている。

なおかつフレキシブル太陽電池と電気自動車の主要技術は日本人の手により発明がされ、産業化が始まるか、産業化がすでに行われている。このことは極めて誇るべきことである。

本連載はこのような現実的な技術の有効利用により、冒頭で述べた温暖化を初めとする諸問題の技術による解決ができることについて理解を得ることで、それがより早く普及することを促すことが目的であった。

一般的に想定できる懸念の列挙から

その上で、良いことの裏には必ず悪いことがあると考えるのが人々の常である。

今回は、まず、指摘されうる問題についてあげることを行なう。

太陽光発電の大量普及には次のようなことが懸念点として挙げられる。

  1. 広く太陽光パネルを設置することによる生態系への影響。

2. 太陽光発電に限らず、再生可能エネルギーはいずれにしても発電が不安定なものであるからそれのみに頼ることができないだろうということ。

3. パネルで起こした電力を消費地まで届けるための送電線が整備されていないので、せっかく発電しても消費者に届けるのがむずかしいこと。

4. 景観を悪くすること。

5. 設置する人々が専門家でなければ、高電圧が発生する太陽光発電での感電が発生し、最悪の場合死者を出すことになりかねないこと。

電気自動車の大量普及については、次のような懸念点が考えられる。

  1. 電池や磁石の資源が枯渇するのではないか。

2. 充電の不便さで、多くの人々が購入することをためらうのではないか。

3. 電力が不足するのではないか。

4. 航続距離を中心にした性能不足が続くのではないか。

5. 自動車が大きく増えたら、走れる道路がなくなってしまうのではないか。

自動運転については

  1. 自らの車が事故を起こさなくても他の車から衝突される危険があるので、安全とは言えないのではないか。

2. 機械任せにしてもし事故を起こした時、だれが責任を取るのか。

3. 機械に運転を任せるのは怖くてできない。

4. インフラ整備に、とてつもなく大きな費用がかかるのではないか。

5. 自動運転が実現するのは限られた場所のみで、広く使われることはないのではないか。

が挙げられる。

 それ以上に根源的なこととして、

  1. そもそも、温暖化は起こっていないのではないか。

2. 人間がこれ以上自然に対して手を加えるべきではないのではないか。

3. 少子高齢化、内向きの思考、政治への関心の低さから日本の力が劣化しているので、何かを実現しようとしてもその力は残ってはいないのではないか。

4. 現在すでに影響が出始めている温暖化により引き起こされている水害等の被害の対応で手いっぱいで、新しいことを考える余裕などないのではないか。

5. 電力事業、自動車産業ともに確立した事業になっていて、多くの人員も抱えている中で、その体制から外れることを実現しようとしていること自体に無理があるのではないか。

ということも考えられる。

 これ以上に問題は、挙げようとしたら、さらに数多くあるだろう。今回はひとまず思いつく問題を列挙することにしたい。4つの分野で、それぞれ5項目ずつである。 

 次回からは、これらについての回答ないしは対応策を検討することとしたい。

2020年に開発したプラチナカーと
名付た移動用小型車のスケッチ
全長1.2m、全高1.2m、全幅0.7m の空間内で、時速6㎞/h以下の
速度であれば免許なしで歩道を走れるという条件で開発を始めた
0号車と名付けた車両のためのスケッチ。車体全体に覆いがあり、
これまでの電動車いすに比べ安全、安心、快適を目標にした車両。

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著者プロフィール

清水 浩 近影

清水 浩

1947年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部博士課程修了後、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入る。8…