ホンダ新型N-BOXデザイン評

ホンダ新型N-BOX。日本一売れているクルマの三代目デザインはどうだ!

先日ティザーが公開されたHonda新型N-BOX(右)
ちょっと見で「なるほどキープコンセプトね」と思われるだけのN-BOXだが、新型になってまでホームランを打ち続けるのは並大抵の努力ではないはず。このキープコンセプトとは一体どういうことなのか、そしてじつはかなり違うデザインの秘密を、新型・三代目と旧型・二代目の写真から解き明かしてみよう。

TEXT:松永 大演(MATSUNAGA Hironobu) PHOTO:Honda

日本一売れているクルマ・Honda N-BOXがフルモデルチェンジ! ティザー公開!

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大物プレーヤーのフルモデルチェンジ、いかに?!

クルマが新型になるのには、どんな理由があるのか。端的にいえば、ネガな部分や他車に負けそうな部分を変える必要があるために行なうのだと思う。それほど大がかりではないものはマイナーチェンジ(MC)で、パッケージや全体のコンセプトに関わる大がかりなものをフルモデルチェンジ(FMC)で、という具合だ。そんな定義では夢がないと思われてしまうかもしれないが、独占市場でない限り、N-BOXのような超人気モデルであってもそれは必須だ。

現行の二代目N-BOXはモデル「末期」となる2023年上半期ですら、売り上げナンバーワン。初代の大人気をしっかりと受け継ぎ、ホームラン王となり続けていた。だからといって、新型にせずに販売し続けるのも冒険だったりする。

新型開発にあたっては、将来を見据えて技術的に変更したい部分もあるし、商品的にネガな部分を潰しておかなければならないこともある。なにしろライバルはその弱点を突いて新型モデルを登場させてくるわけなので、トップを守るのも容易なものではない。とはいえ二刀流かどうかはわからないが、大谷翔平級の「大物プレーヤーのフルモデルチェンジ」。
新車販売台数2年連続・第1位(登録車含)、軽四輪車販売台数8年連続で第1位を守り抜く。これが新型に課せられた、恐ろしく重大なミッションなのは間違いない。

ということで、新型・三代目と旧型・二代目のデザインを比較していけば、大物プレーヤーのデザインがどう変わりなにを改善していったのかがわかってくるはずだ。

エクステリアデザイン「どこが変わった?」

まずエクステリア。一見すると、どこが違っているのか? と思うほど大きな違いがないように思える。
しかしそれは、このデザインが好評だったことの証。軽自動車であっても広い室内が欲しい、それでもクルマとしての見え方はあまりバンのように見えないで堂々としていて欲しい……という思いを実現したカタチだ。

それはかっちりと角張って高さのあるボンネットや、威風堂々としたグリルなどで表現されている。また、サイドウインドウの荷室部分を小さくすることで、リヤピラーをがっしりさせて頼もしさを見せる。サイドウインドウ全体が後方まで伸びていないことで、生活感を見せずにどっしりとした印象を作っているのだ。

初代、二代目ともに持たれているポジティブな感想は、「駐車場で大きな外車の間においても、堂々とした存在感がある」ということ。ここは絶対に外せないポイントとなっている。

ところで、二代目のテーマとなったのは「セレブリティ・スタイル」。軽自動車のなかでも高級感のあるカタチを目指したというのも、本物の存在感の創出にあった。またその実現にあたり、初代の特徴であったボディサイドのウインドウとボディの比率に黄金比を見出しており、ウインドウ:ボディ=1:1.61を二代目でも継承しているのもポイントだ。これは一般的なこのクラスのモデルに対して、小さめのウインドウサイズということになる。これがN-BOXらしさのもうひとつの要素となっている。

では新型の三代目は、そこからナニをしたのだろうか。フォルム(全体の形)は好評であっても、その時代なりのカタチになっていなければ、「なんか古いな」と感じさせてしまうものになる。いまはそう見えなくても、あと2年とか3年過ぎた段階で、どう見えてしまうかという点は重要だ。

三代目と二代目を眺めてみると、果たしてウインドウとボディの黄金比は保たれている。違いは造形で、二代目の方に少し躍動感が強めに感じられないだろうか。

新型N-BOX「ファッションスタイル」

これが二代目N-BOXのキモの部分だと思えるのだが、「四角いカタチなのだけれども動きのあるフォルム」になっているのと同時に、ともすると道具感や面白味に走ってしまう軽自動車に本物の乗用車としてのエモーショナルな存在感を与えている。寸法制約の厳しい軽自動車にこうした抑揚のある造形を与えるのは難しく、フェンダーの特徴である削ぎ落として創るオーバーフェンダー形状は、二代目デザインの注目ポイントだ。

しかしこうした躍動感は、異なる視点で見れば「獣(けもの)感」にも通じてくる。生々しい生き物的な感触で、いまのデザイントレンドは、そのフィールドから少し離れようとしているものもある。

そのひとつが、機械然としないシンプル化の方向に進むもの。バルミューダなどがその例と言えるかもしれないが、カメラのライカまでもがその方向に舵を切り始めた。二次元的ともいえ、ともすると味気ない製品を想像しがちだが、面の造形や触感といったもので風格を感じさせなければならないピュアな手法だ。

そして三代目N-BOXも、その手法に進んでいるように思う。ノイズと思われるラインや造形を消し去り、よりシンプルに本質を表現する。勝負は面質であり、モデラーの力が問われるものともなっている。こうした製品の場合、写真で見るのと実物の印象が大きく変わる場合も少なくない。今後はEVの増加などもあり、インテークの大きさが小さめとなることもあり、クルマのデザインもノイズレスの方向に向かうのもひとつの方向性だ。

そしてカスタムの仕様は、それをベースにあまり盛りすぎない端正なスタイル。標準モデルとの乖離がなく、明らかなファミリー感が醸し出されている。標準、カスタムともにフロントバンパー部分の低い位置のインテークをワイドにすることで、安定感もある。

新型N-BOX CUSTOM ターボ「コーディネートスタイル」

インテリアデザイン「リビングルーム」へ進化

インテリアは、シンプル化の傾向はこちらでも顕著だ。変更されているのはネガだった部分としてみると、メーターパネルはステアリング内にみるコンベンショナルなタイプに。それも、もはや大きさを誇るのではなく必要最小限のサイズ。メーターパネルがステアリングの上にあると、背の低いドライバーにとってはやや見えにくいとの声もあったという。

面白いのは助手席側のエアコンのルーバーで、ふたつが隣同士に並んでいる。確かに助手席のパッセンジャーの両脇にある必要がなぜあったの? と気づかされた。

全体の仕立ても、これまで高級車とミニバンを併せ持ったような盛りだくさんのインパネだったものがシンプルに整理された。とはいえ、センターモニターには物理的なスイッチが新たに配され、正確でわかりやすい操作性に関しても存分な配慮が見られる。また、シートに関してもこれまでセパレートを意識したデザインのものから、前後ともふたりがけのソファーを意識した仕立てに変わっているのも印象的。

これら総括すると、三代目のインテリアは “クルマの室内” から、“リビングルーム” へと転換しているように思える。二代目のややメカニカルで、広いけれどもやはりクルマ然としていた印象からすると、ドラスティックな革新ポイントとなっていると思う。

小さな高級車をイメージとして、二世代連続の大人気を誇ってきたN-BOXだが、ここまでくると三代目は「よりN-BOXであること」に力が注がれたように思う。三代目のやや力を抜いたたおやかな存在感にこそ、「ゆとり」という贅沢を感じることができるのである。

Honda N-BOX 特設サイトはホンダ公式HPからどうぞ(外部リンク)

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著者プロフィール

松永 大演 近影

松永 大演

他出版社の不採用票を手に、泣きながら三栄書房に駆け込む。重鎮だらけの「モーターファン」編集部で、ロ…