スープラはここから厳しいか……予測不能なスーパーGTにおける確定事項と“変数”【主要モータースポーツ2023年上半期振り返り】

2023年スーパーGTシリーズ Niterra MOTUL Z
スーパーGT第4戦富士終了時点ではNiterra MOTUL ZがGT500クラスのランキングトップにつけている。
日本国内における“ハコ車”レースの頂点君臨するスーパーGTシリーズ。2023年シーズンもちょうど折り返し地点に到達している。シーズン後半戦がスタートする前に、今一度勝負をわけそうな要素を整理してみる。

スーパーGTシリーズは日本のモータースポーツにおいて、全日本スーパーフォーミュラ選手権と並び国内最高峰に位置づけられている。特に上位クラスのGT500クラスのマシンは、現在のツーリングカーカテゴリーで世界最速と称されることもある。

2023年スーパーGTシリーズ

現在のGT500クラスに参戦するのはトヨタ、ニッサン、ホンダの3ブランド。それぞれGRスープラ、Z、NSXを投入している。
同クラスの現行レギュレーションでは、車体の背骨とも言えるカーボンモノコックをはじめ、一部の外装や駆動系、足まわりといった部品が共通化されている。特定のエリアにおける空力パーツとエンジンについては開発が認められているが、マシンの大部分は同じと言っても差し支えない。

それでも、独自の開発が認められていることで、各車種にそれぞれの特徴が生まれている。空力の観点から言えば、スープラは空気抵抗が少なく、NSXはダウンフォースが多い。そしてZは低ドラッグ(空気抵抗)と高ダウンフォースを高次元にバランスさせている。
現状では、昨シーズンにデビューしたZが優位に立っているという声も多いが、総合的なパフォーマンスはかなり拮抗していると言える。

「降ったらミシュラン」

そんなスーパーGT GT500クラスにおいては、タイヤが勝負を分ける重大な要素のひとつとなっている。
スーパーGTはいまや世界的に見ても珍しくなった、タイヤの開発競争が存在するシリーズだ。今季はブリヂストン、ミシュラン、ヨコハマ、ダンロップの4ブランドが参入している。ドライコンディションでの総合的な競争力はブリヂストンとミシュランが一歩リードしており、それにヨコハマ、次いでダンロップが続いているという構図である。

だが、ひとたび雨が降れば、パワーバランスは一変する。レインタイヤのパフォーマンスは、ミシュランが他社を圧倒しているのだ。ミシュラン装着車両はライバルたちよりも1周あたり1秒以上速いということもあり、まさに「降ったらミシュラン」である。

Niterra MOTUL Z
開幕戦岡山で2位、第4戦富士で優勝し、ランキングトップでシーズンを折り返したNiterra MOTUL Z。どのクルマよりも重い状態で後半戦を迎えるが、雨が降ればもう一勝もありうるか?

GT500でミシュランタイヤを装着しているのはNiterra MOTUL Z(千代勝正/高星明誠)とMOTUL AUTECH Z(松田次生/ロニー・クインタレッリ)の2台で、雨となると存在感を発揮する。今シーズンの開幕戦岡山では、雨の予選でこの2台でフロントロウを独占すると、複数回の赤旗中断もあった決勝においてもワン・ツー・フィニッシュを飾った。また、第4戦富士でもNiterra MOTUL Zがウェットコンディション下で光る速さを見せて優勝。ランキングトップに浮上した。

スープラは後半戦がキツい?

ランキング2位につけているのは、au TOM’S GR Supra(坪井翔/宮田 莉朋)。同車は、セーフティカー導入などのないガチンコ勝負の展開となった第2戦富士において、2位に30秒近いギャップを築いて完勝。さらに第4戦富士ではサクセスウェイト72kgと一番重い状況下で4位に食い込む力走を見せた。

au TOM'S GR Supra
au TOM’S GR Supraの坪井と宮田はコンビ結成一年目。GT500クラスでは昨年まで6年連続で新コンビがタイトルを獲得しており、坪井と宮田はこの条件に当てはまる一組だが果たして……。

トヨタ陣営では今最も勢いのある若手コンビだが、シーズン後半戦は苦しい戦いを強いられるかもしれない。
スーパーGTでは獲得した選手権ポイントに応じて課されるサクセスウェイト制度を採用。GT500クラスでは1ポイントあたり2kg、GT300クラスでは同3kgのウェイトがハンデとして課されることになるため、特定のチームが連続で大量得点したり、選手権を独走したりしにくくなる方策がとられている。なお、GT500では、サクセスウェイトが50kgを超えると、エンジンへの燃料供給を制限する燃料リストリクターによるハンデ調整も併用される。
そのため、現状でランキング2位に立っているau TOM’S GR Supraは、第5戦鈴鹿を2番目に厳しい条件で戦わざるを得ないのだ。ただ、それは他のチームも同じであるため、このルールは彼らだけに不利に働くことはありえない。

au TOM’S GR Supraをはじめとしたトヨタ勢にとってネガティブな要素となりうるのは、シーズン後半のカレンダーだ。
というのも、スープラは低ドラッグなマシンだが、それと同時にトータルのダウンフォース量もライバルよりも低いと見られているのだ。
低ドラッグな特性は最高速が求められる富士では大きな武器となるため、デビュー当時からスープラは富士戦を得意としてきた。対照的に、SUGOやオートポリスといったダウンフォース量がタイムにつながるサーキットはZとNSXが得意としており、実際それらのステージではこれまで厳しい戦いを強いられてきた。
そして、これらのコースは今季もシーズン後半に組み込まれており、苦手なコースを“重いマシン”で戦わざるを得ないというのは、まさに苦境といえるものだろう。

“中団”にも可能性あり

現状でランキングで上位に食い込めていないチームにタイトル獲得のチャンスがないかといえばそうではない。
前述の通り、タイヤはスーパーGTにおける大きな要素である。雨が降ればミシュランが強いというのは間違いないが、レースが行われる週末の気温や路温を読み切り、それにマッチしたタイヤを持ち込めば“一発逆転”は起こりうる。

STANLEY NSX-GT
ライバルたちより強力なダウンフォースを得ていると言われるNSX-GTだが、GT500を戦うのは今年が最後になっている。現時点でホンダ勢のトップはSTANLEY NSX-GT。

また、今季後半戦には第5戦鈴鹿と第7戦オートポリスが450kmの長距離戦として組み込まれている。これらのイベントは2度のピットストップが義務付けられており、チームが採れる戦略の幅が広くなっている。展開に応じて臨機応変に対応しつつ、ギャンブル的な作戦で一気に上位進出を図るチームが出現することも予想される。
さらに、車種ごとに得意・不得意なコースがあり、シリーズを面白くするサクセスウェイトもある。

スーパーGTの2023年シーズンはちょうど折り返し地点。今季後半戦は今先行しているチームが逃げ切るのか、あるいは沈んでいるチームの急浮上があるのか。スーパーGTの戦いは今年も予測不能である。

2023年スーパーGTシリーズ GT500クラス ドライバーズランキング(第4戦富士終了時点)
Rank.No.DriverCarPts.SWTyre
13千代勝正/高星明誠Niterra MOTUL Z4998MI
236坪井 翔/宮田莉朋au TOM’S GR Supra4488BS
3100山本尚貴/牧野任祐STANLEY NSX-GT2754BS
423松田次生/R.クインタレッリMOTUL AUTECH Z2550MI
519国本雄資/阪口晴南WedsSport ADVAN GR Supra2244YH
617塚越広大/松下信治Astemo NSX-GT2142BS
714大嶋和也/山下健太ENEOS X PRIME GR Supra2142BS
81平峰一貴/B.バゲットMARELLI IMPUL Z1836BS
964伊沢拓也/太田格之進Modulo NSX-GT1632BS
1016福住仁嶺/大津弘樹ARTA MUGEN NSX-GT1632DL
1138立川祐路/石浦宏明ZENT CERUMO GR Supra1326BS
128野尻智紀/大湯都史樹ARTA MUGEN NSX-GT1122BS
1337笹原右京/G.アレジDeloitte TOM’S GR Supra816BS
1439関口雄飛/中山雄一DENSO KOBELCO SARD GR Supra816BS
1524佐々木大樹/平手晃平リアライズコーポレーション ADVAN Z510YH
BS:ブリヂストン、DL:ダンロップ、MI:ミシュラン、YH:ヨコハマ
SW:サクセスウェイト。1ポイントあたり2kg。サクセスウェイトは100kgを上限とし、この上限を超える分は積載を免除されるが、数値上の累計は行われる。
ポイントシステムは以下の通り
決勝……1位:20点、2位:15点、3位:11点、4位:8点、5位:6点、6位:5点、7位:4点、8位:3点、9位:2点、10位:1点
予選……1位:1点
2023年スーパーGTシリーズ GT300クラス ドライバーズランキング(第4戦富士終了時点)
Rank.No.DriverCarPts.SWTyre
17荒 聖治Studie BMW M440100MI
256J.P.デ・オリベイラ/名取鉄平リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-R38100YH
37柳田真孝Studie BMW M435100MI
42堤 優威/平良 響muta Racing GR86 GT3090BS
552吉田広樹/川合孝汰埼玉トヨペットGB GR Supra GT3090BS
611富田竜一郎/石川京侍GAINER TANAX GT-R2678DL
765蒲生尚弥/篠原拓朗LEON PYRAMID AMG2472BS
818小林崇志/小出 峻UPGARAGE NSX GT32060YH
96片山義章/R.メリ・ムンタンDOBOT Audi R8 LMS1545YH
1010安田裕信/大草りきPONOS GAINER GT-R1339DL
11244佐藤公哉/三宅淳詞HACHI-ICHI GR Supra GT1133YH
1261井口卓人/山内英輝SUBARU BRZ R&D SPORT1133DL
1331嵯峨宏紀/小高一斗/根本悠生apr LC500h GT927BS
1427岩澤優吾/伊東黎明Yogibo NSX GT3824YH
1588小暮卓史/元嶋佑弥JLOC ランボルギーニ GT3824YH
1660吉本大樹/河野駿佑Syntium LMcorsa GR Supra GT824DL
177B.スペングラーStudie BMW M45100MI
1887松浦孝亮/坂口夏月Bamboo Airways ランボルギーニ GT3412YH
1930永井宏明/織戸 学/上村優太apr GR86 GT39YH
204谷口信輝/片岡龍也グッドスマイル 初音ミク AMG26YH
2196新田守男/高木真一K-tunes RC F GT326DL
2225菅波冬悟/野中誠太HOPPY Schatz GR Supra GT13YH
2320平中克幸/清水英志郎シェイドレーシング GR86 GT13DL
BS:ブリヂストン、DL:ダンロップ、MI:ミシュラン、YH:ヨコハマ
SW:サクセスウェイト。1ポイントあたり2kg。サクセスウェイトは100kgを上限とし、この上限を超える分は積載を免除されるが、数値上の累計は行われる。
ポイントシステムは以下の通り
決勝……1位:20点、2位:15点、3位:11点、4位:8点、5位:6点、6位:5点、7位:4点、8位:3点、9位:2点、10位:1点
予選……1位:1点
2023年スーパーGTシリーズ 残りの日程
Rd.DateCircuit
58月26-27日鈴鹿サーキット
69月16-17日スポーツランドSUGO
710月14-15日オートポリス
811月4-5日モビリティリゾートもてぎ

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