愛車が憧れのワークスマシンに変身! 不動の人気を誇るグループAラリーカー「ランチア・デルタ」をマルティニカラーにする!【WRCレプリカのススメ】

WRC(世界ラリー選手権)におけるグループA時代は、その前後のグループBやワールドラリーカーに比べラリーカーと市販車の境が最も薄かった時代である。ワークスチームがWRCに投入するベースマシンは5000台(後に2500台)の生産が義務付けられており、競技参加者だけでなく多くの“一般ユーザー”の手に渡り、今なお多くのオーナーに愛されている。そのオーナーの中には、愛車をWRCで走ったカラーにしたいという人も少なくない。そこで、WRCグループAラリーレプリカについて、ちょっと詳しく紹介していこう。
PHOTO:井上 誠(INOUE Makoto)/MotorFan.jp/Prototype

WRCにおけるグループAといえばスバル・インプレッサWRXや三菱ランサーエボリューションシリーズが、WRCを戦うためにエボリューションモデルを毎年のようにリリースして鎬を削ったことからベース車両の台数も多く、コリン・マクレーやトミ・マキネンら名ドライバーの活躍と相まって今なお根強い人気を誇り、愛車をレプリカするオーナーも多い。

スバル初のWRCタイトルは1995年、コリン・マクレーのドライバーズチャンピオンと合わせてのダブルタイトル獲得となった。以降、日本車初のマニュファクチャラータイトル3連覇を達成する。
三菱は1998年、念願のマニュファクチャラーズチャンピオンに。トミ・マキネンは1996年からドライバーズタイトルを3連覇し、三菱もついにダブルタイトルを獲得した。

しかし、「インプ」「ランエボ」以前のグループのAの主役は1987年からグループA「デルタ」シリーズを投入してWRCを席巻したランチアであり、そのランチアの牙城に挑みチャンピオンを手に入れたトヨタ・セリカだった。
それだけにWRCにおいてランチアとデルタは日本車に立ちはだかった巨大な壁であり、その強さは圧倒的だった。その存在感をより高めたのが、グループB時代(加えて言えばそれ以前のサーキットレースにおけるグループ5)から続く「マルティニ」カラーによるところが大きい。

1982年から1985年までランチアワークスがWRCで使用した「ラリー037」。1982年のランチアワークスのWRC復帰からまとったマルティニカラーはワークスが撤退する1992年いっぱいまで使用され、サーキットでのグループ5/6やグループCと合わせてランチアのレーシングイメージを大いに高めた。

特にWRCがグループAとなってから使用された「デルタ」シリーズは、1987年から1992年までWRCのマニュファクチャラータイトル6連覇を達成したことで、日本車のライバルとして特に印象付けられたことから日本にも多くのファンがいる。加えて量産車であることが義務付けられるグループAで、しかも生産期間が長い車種だけに多くのオーナーの手に渡っている。そして、そんなデルタオーナーの中には愛車をこの栄光のマルティニカラーにする人も少なくない。

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レアカラー「赤マルティニ」レプリカを再現する

今回取材したオーナー、氷室豊さんもそんなデルタ乗りのひとり。レースゲーム「セガラリーチャンピオンシップ」にハマり、当時乗っていた“流面形”セリカ(ST162)から、1991年式のランチア・デルタインテグラーレ16Vに乗り換えたのが1999年のこと。

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自分で整備もする氷室さんだが、長年手を入れてきた愛車もメンテナンスがひと段落。次なるステップとして、かねてよりの夢であった「レプリカ化」を実現することに決めた。もちろん、デルタのレプリカといえばマルティニで決まり! セガラリーチャンピオンシップはもちろん、その元ネタであるWRCにおけるランチアワークスのカラーだ。

グループAデルタの最終進化形、デルタHFインテグラーレ(エヴォルツィオーネ)。1992年、ランチアワークスの後を継いだマルティニレーシングの手により、ランチアにマニュファクチャラータイトル6連覇をもたらした。マルティニカラーはこの年が最後になる。

氷室さんのデルタはインテグラーレ16V。デルタHF4WD (1987)、デルタインテグラーレ(1988)、デルタインテグラーレ16V(1989)、デルタHFインテグラーレ(エヴォルツィオーネ/1992)と続くシリーズの第三世代にあたり、WRCでも最も活躍したモデルでもある。

ランチア最初のグループAマシン、デルタHF4WDからインテグラレー16Vまでを詳細に扱う。
デルタの最終進化形であるHFインテグラーレを掘り下げた上記の続編。

ちなみに、このマルティニカラー。ひと口にマルティニと言っても、年やモデルによってストライプのパターンが異なっており、デルタをレプリカ化するにあたってオーナーのこだわりポイントになってくるのだ。
氷室さんもこの点にはこだわっており、愛車のカラーが赤であることとインテグラーレ16Vであることから、1989年のWRC第11戦ラリーサンレモのウィナーカーをセレクトした。

1989年のWRC第11戦ラリーサンレモを走る1988年のチャンピオン、ミキ・ビアシオン。インテグラーレ16Vは同戦でビアシオンの手によりデビューウィンを飾り、自身のドライバーズタイトル連覇とランチアの3年連続ダブルタイトルを決めた。

1989年のラリーサンレモに投入されたデルタのマルティニカラーは通称“赤マルティニ”と呼ばれ、WRCの実戦ではこの1戦のみで使用されたレアカラー。それだけにデルタファンの中でも特別視されているカラーでもある。

「FCA Heritage Hub」の“赤マルティニ”デルタインテグラーレ16V。ゼッケンやクルー名は再現されておらず、ホイールを含む足回りはターマックステージ仕様で展示される。
「FCA Heritage Hub」は、アルファロメオ、フィアット、ランチア、アバルトの名車を収蔵するフィアットグループの博物館で、所在地はトリノ(イタリア)。

ラリーレプリカに強いプロショップ「Prototype」

氷室さんが「赤マルティニ化」を依頼したのが埼玉県春日部市にあるプロショップ「Prototype(以下、プロトタイプ)」。カラーリングやオリジナルパーツ製作、競技車両製作、カスタム、メンテナンス、一般整備と幅広く対応するが、そのカラーリングやレプリカ化の技術は特に支持されており、これまで多くのレプリカモデルの製作を引き受けてきた実績がある。

店長のセリカGT-FOURとスタッフのランサーエボリューションIVもレプリカ化されている。
Prototype
所在地:埼玉県春日部市梅田本町2-37-5
営業時間:11:00~19:00
定休日:毎週水曜日、第一・三木曜日
電話/FAX:048-753-1240
http://www1.odn.ne.jp/prototype/

プロトタイプではすでにデルタのマルティニカラーレプリカを手がけた経験があり、その点も氷室さんが同店を選んだ理由でもある。特にストライプパターンこそ異なるものの、赤マルティニの製作実績もあるという(同社サイト参照)。

■打ち合わせ
事前にレプリカ化の内容や費用についてはプロトタイプと氷室さんの間である程度は進められており、入庫日にあたためて実車を前に打ち合わせが行われた。

打ち合わせ中の様子。マルティニストライプのカラーパターンも複数用意して比較検討が行われた。
資料となる書籍も用意して、配置やカラーを検討。
ボンネットのエアアウトレットダクトなど、細かいボディパーツの処理を検討。
氷室さんが資料として持ち込んだミニカー。

特に色味の確認と細かいボディパーツの処理について確認が行われた。色味については赤色がボディカラーと調和するか、ストライプカラーの再現度、何より氷室さんがこだわったのがマルティニロゴのゴールドの縁取りである。
氷室さん曰く、デルタをマルティニカラーにレプリカしているケースはままあるが、このゴールドが黄土色っぽいカラーになっているケースが多いというが、より本物に近い輝く金色の再現を強く希望していた。

打ち合わせ用に仮に出力したマルティニロゴ。こちらはよくある黄土色だが、実際には上のゴールドのシートを使用することで、氷室さんの希望に沿う輝きを実現する。

■実作業〜マルティニストライプ
打ち合わせ当日から、施工可能なパートから作業に入るが、主にストライプからスタート。サンプルとなる画像を側に置いて慎重に位置を決めつつ張り込んでいく。
ちなみに使用するカッティングシートは3M製で、やはりレプリカ用として使い勝手はもちろん、発色や耐久性、耐候性を考えるとこれが一番だという。

実はストライプはブリスターフェンダーで分割されており、連続していない。
そのため、ブリスターフェンダーのラインで一度カット。
別のカッティンシートを貼り付ける。手間はかかるが再現度は高くなる。

赤マルティニの難しいところは、ストライプが直線的なデザインの割に、その直線がボディのプレスラインや凹凸で綺麗に繋がっていないところ。そのため、カッティングシートも細かく分割しており、手間もかかるし再現も難易度が高くなっている。また、図面や資料写真では凹凸がはっきりとわからないので、現物合わせで作業を進めるケースもある。

比較的サイズの大きいサイド周りのストライプ。微妙なズレが違和感を生むため、資料画像を近くに置いて慎重に位置を決める。

また、ドアやボンネットといったボディパネルの分割ラインでは、その分割ラインの内側までカッティングシートを織り込んで貼り付け、仕上がりの美しさはもちろんのこと、剥がれにくさにも留意して施工している。

ボディパネルの分割線(写真はフェンダーとボンネット)に沿ってカット。
フェンダーのエンジンルーム側に織り込む。
シートはボンネット側も内側に織り込んでいる。
ボンネットは開くことができるので作業しやすいが、フェンダーやドアの分割線の折り込みは手間がかかる。
これらの工程を経て、分割線の中までストライプが続く美しい仕上がりに。

■実作業〜スポンサーロゴ
氷室さんが特にこだわったゴールド縁取りのマルティニロゴはゴールドのシートにマルティニロゴを重ねる形で作成し、それをボディに貼り付けるという手順。

ゴールドのシートをベースにし、その上にマルティニロゴを載せる。
貼り付け用のクリアシートを重ねて固定する。
クリアシートごと貼り付け。後でクリアシートを剥がす。

マルティニロゴはメインスポンサーだけに両サイド、ボンネット、ルーフに大きく入るほか、リヤゲートにはそのサイズ違いが2箇所、別パターンのロゴがさらに2箇所ある。もちろんマルティニだけでなく、ランチアのロゴや各テクニカルスポンサー、ラリーサンレモのゼッケン、左右フェンダー上のクルーネーム(ドライバー/ナビゲーターと各血液型)などを実車を再現する形で貼り付けていく。

ルーフ上はランチアロゴとマルティニロゴ。
バンパー左右にはギャレット(ターボ)のロゴ。
ボンネットの左右前端にはミシュランのロゴ。

そしてついに、氷室さんのインテグラーレ16V“赤マルティニ”レプリカは完成した!

プロトタイプのガレージがまるでランチアワークスのファクトリーのような雰囲気を醸し出している。
フロントと違い変哲のない2ボックスハッチバック車だったリヤまわりも一気に戦うマシンの佇まいに。

ついに完成! インテグラーレ16V「赤マルティニ」レプリカ!

約1ヶ月弱の入庫期間でインテグラーレ16Vのレプリカ化は完成した。その再現度は極めて高く、こだわりポイントだけでなく細かいところまで作り込まれており、氷室さんも大満足の仕上がりとなった。

完成したランチア・デルタインテグラーレ16V、1991年WRCラリーサンレモ(ミキ・ビアシオン車)レプリカ。
細かく区切られたストライプが赤マルティニの特徴。ゼッケンの「DIESEL」はファッションブランド。
今後はラリーカーではボディ直付けとなっているマッドフラップまで再現するかどうかが悩みの種に。

もちろん、ルーフベンチレーターやマッドフラップなど実際のワークスカーと異なる部分はあるが、カラーリングはもうワークスカーとほとんど同じと言って過言ではない。なお、フロントウインドウへのステッカー等の添付は違法になるため、フロントウインドウ上端の通称“ハチマキ”は施されていない。

特にこだわったのがマルティニマークのゴールドの縁取り。このゴールドを再現したマルティニレプリカは少ない。
氷室さんの希望通り、輝く金縁を実現。細かいダクト周辺の処理も手間を掛けた素晴らしい仕上がりになっている。
テクニカルスポンサーのステッカー再現度も高く、「STEYR PUCH」や「speedline」の細かいラインも完全に再現されている。
ラリーサンレモのゼッケン。
ゼッケン左上のラリーサンレモ統括団体である「サンレモ自動車クラブ」のロゴは、デザインはもちろん細かいロゴの綺麗に出力。
ゼッケン右上は冠スポンサーであるファッションブランド「DIESEL」。ロゴの再現度は極めて高い。
さらにゼッケンの下端にかなり小さく記されているラリーサンレモ(開催事務局)の電話番号まで再現されている。ゼッケンのサイズからこの細かさを想像してほしい。

お披露目ツーリングにはホモロゲーションモデルが集合

早速、仲間を集めお披露目ツーリング開いた。このツーリング、氷室さんの赤マルティニを筆頭に、限定デルタ「ジアラ」のマルティニレプリカや、プロトタイプスタッフのランサーエボリューションIV、GRヤリスにメルセデスベンツ190E2.5-16というなかなかマニアックな集まりとなった。

ツーリングに集まったクルマはいずれもWRCやグループAに縁のあるマシンだ。

氷室さんがこの赤マルティニレプリカに乗っていると、都心では外国人観光客から称賛のハンドサインをも向けられたり、買い物に行ったスーパーの駐車場で奥様が右側の席に乗り込むことに驚かれたり(デルタは当然左ハンドル)、撮影の許可を求められたりと、明らかに目立ち度がアップしていることを実感しているという。
「もう目立つことはできませんね」とは他ならぬ氷室さんの言葉だ。

右からデルタインテグラーレ16V、ランサーエボリューションIV、GRヤリス、メルセデスベンツ190E2.5-16、デルタHFインテグラーレエボルツィオーネIIジアラ。

今は仲間内でのツーリングを楽しんでいるが、これをきっかけに、グループAホモロゲーション車両のオーナーやレプリカマシンのオーナーと交流を深めていきたいとのこと。プロトタイプの店長も協力して、アットホームなミニイベントなどもできればと考えているとか。

赤マルティニのデルタインテグラーレ16Vが駆け抜けると、秩父のワインディングもラリーサンレモのターマックステージに。

1990年代の市販車ベースのモータースポーツを席巻したグループAカテゴリーだが、市販車ベースで多くの人の手に渡ったホモロゲーションモデルもすでに30年以上が経過してその数は着実に減りつつある。
純正部品の枯渇から維持管理の難易度も上がり、一方で、近年のネオクラシックブームで残る個体も価格が高騰。以前に比べてそのハードルは高くなっているだけに、こうした楽しみ方ができるのは貴重なことと言えるだろう。

プロトタイプ製作によるWRCグループAカーのレプリカ。

逆に、当時モノの車両に拘らず、今あるクルマを往時のレプリカにしてみるのも面白いかもしれない。プロトタイプはそういった方向でのレプリカ化にも対応できるし、その経験も技術も備えている。愛車を憧れのマシンのレプリカにしてみるのはいかがだろうか?

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