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ラリー界の最高峰、世界ラリー選手権(WRC)。1月に始まった2023年シーズンも、全13戦のうち9戦を終え、いよいよシーズン終盤戦に入る。
今日のWRCにおける最上位クラス『WRC』は、ラリー1規定車両によって争われる。
この規定は、従来のWRカー規定に代わって2021年に導入されたもの。エンジンはWRカー時代末期と同様に、1.6L直列4気筒直噴ターボが採用されているが、それに全車共通のハイブリッドシステムを組み合わせ、合計で500PS以上の出力を発揮する。
その一方で、駆動系はWRカーよりも簡素化されており、ギヤボックスは5速の機械式シフトで、パドルシフトは禁止に。機械式デフによる四輪駆動はそのままだが、アクティブセンターデフが禁止され、コスト抑制が図られている。
シャシーはスペースフレーム構造となったほか、カナードなどの一部外装パーツは廃止されている。
参戦しているマニュファクチャラーはトヨタ、ヒョンデ、Mスポーツ・フォードの3つ。2021年の新規定導入以来、トヨタがドライバー選手権、マニュファクチャラー選手権ともに制している。
フィンランド戦で緊張感が急上昇
2023年シーズンの第9戦フィンランド終了時点で、ドライバー選手権をリードしているのは昨年の世界チャンピオン、カッレ・ロバンペラだ。
トヨタのエースであるロバンペラは今季開幕前の下馬評も高く、チャンピオンの最有力候補のひとりに挙げられていた。開幕戦モンテカルロで2位となると、その後3戦連続は4位と表彰台を逃すも、第5戦ポルトガルでシーズン初優勝。第8戦エストニアではシーズン2勝目を挙げて選手権のリードを広げた。22歳と若いロバンペラだが、同イベントまですべてのラリーで4位以上に入るという、ベテラン勢を凌ぐ凄まじい安定感を見せて170ポイントを獲得。その時点でランキング2位に55ポイントもの大差をつけて、自身WRC2連覇へ向けて順調に突き進んでいた。
ところが、地元フィランドでの第9戦はデイ2でクラッシュ。車体の損傷が激しくリタイア。無得点に終わった。
その一方で、トヨタのチームメイトでありながら、ライバルのひとりでもあるエルフィン・エバンスはその第9戦フィンランドで優勝。エバンスはさらに、ステージの結果次第で最大5点のボーナスポイントを獲得できる『パワーステージ』でトップタイムをマーク。1イベントで獲得できる最大ポイントである30点を稼いだ。
その結果、選手権首位ロバンペラと同2位エバンスの差は一気に25ポイントまで縮小。フィンランド戦のようにロバンペラの無得点とエバンスのフルマークが重なれば、一気に逆転する点差になった。
ロバンペラから36点ビハインドのランキング3位にはヒョンデのエースであるティエリー・ヌービルがつけている。ヌービルは今季、第6戦イタリアで優勝するなど、2位となった第9戦フィランドも含めて6度表彰台を獲得している。
だが、第7戦ケニアでは無許可でステージを走行した人物からの支援を受けたとして失格処分に。8位でフィニッシュしたほか、パワーステージで勝利して合計9ポイントを稼いだはずだったが、その得点を無効とされる事件を起こしていた。
ランキング4位には、Mスポーツ・フォードのオィット・タナックがつけている。2019年にトヨタとともに世界を制したタナックは、2020年から昨年までヒョンデに所属。今年、古巣のMスポーツ・フォードに復帰した。今季は第2戦スウェーデンで優勝。その後もしぶとくポイント圏内フィニッシュを重ね、ここまでに104ポイントを稼いでいる。
今シーズン最多勝を挙げているのは、トヨタのセバスチャン・オジエだ。39歳の元世界チャンピオンは、トヨタで8度目の戴冠を果たした2021年を最後にWRCフル参戦を“引退”。今年はここまで5戦のみの出場だが3勝をマーク。98ポイントを獲得し選手権5位につけて高い存在感を見せている。
そのオジエとトヨタのサードカーをシェアするかたちで参戦しているのが勝田貴元だ。今年はトヨタワークスの一員として、複数のラウンドでマニュファクチャラー選手権のポイント計算の対象ドライバーに選ばれている。
ドライバーとして試行錯誤をしながらの参戦となっているとのことだが、第9戦フィンランドでは、ヒョンデのテーム・スニネンとガチンコ対決を制して3位表彰台を獲得。さらにパワーステージでも4位となって合計17ポイントを稼ぎ、ランキング7位に浮上している。
次戦の出走順はトヨタのふたりに不利
2023年シーズン残り4ラウンドの内訳は、グラベル(未舗装路)とターマック(舗装路)が2戦ずつとなっている。
9月7~10日に行われる第10戦ギリシャは「アクロポリス」の名で知られる伝統あるラリーで、荒れたグラベル路面が一番の特徴。2021年にWRCのカレンダーに復帰してからは、路面は比較的スムーズになり、耐久性だけでなく純粋な速さも問われるようになっている。
グラベルラリーということで基本的には出走順が早いほうが有利。WRCでは本格的に競技が始まる金曜日はランキング順、土曜日と日曜日は当該イベント順位の逆順で出走することになるため、ロバンペラとエバンスはライバルよりも不利な戦いになるだろう。
ちなみに、ギリシャ戦では2021年にロバンペラが優勝しているが、サバイバルラリーの様相を呈した昨年はヒョンデが表彰台を独占している。
2023年のチャンピオン争いは依然としてロバンペラが優位に立っている。しかし、現在のランキングなどを考慮すると、ライバルたちの逆転戴冠の可能性も十二分に残されていると言える。
第9戦フィンランドを経て、ドライバー選手権、マニュファクチャラー選手権ともに一気に緊張感が高まってきた。
最終戦であるラリー・ジャパンを最も有利な状況で迎えられるのは誰になるのだろうか。
2023年世界ラリー選手権ドライバーランキング (トップ10/第9戦フィンランド終了時点)
Rank. | Driver | マニュファクチャラー | Pts. |
1 | K.ロバンペラ | トヨタ | 170 |
2 | E.エヴァンス | トヨタ | 145 |
3 | T.ヌービル | ヒョンデ | 134 |
4 | O.タナック | Mスポーツ・フォード | 104 |
5 | S.オジエ | トヨタ | 98 |
6 | E.ラッピ | ヒョンデ | 87 |
7 | 勝田貴元 | トヨタ | 58 |
8 | D.ソルド | ヒョンデ | 46 |
9 | T.スニネン | ヒョンデ | 34 |
10 | P.ルーベ | Mスポーツ・フォード | 28 |
1位:25点、2位:18点、3位:15点、4位:12点、5位:10点、6位:8点、7位:6点、8位:4点、9位:2点、10位:1点
パワーステージ……1位:5点、2位:4点、3位:3点、4位:2点、5位:1点
2023年世界ラリー選手権マニュファクチャラーランキング (トップ10/第9戦フィンランド終了時点)
Rank. | マニュファクチャラー | Pts. |
1 | トヨタ | 378 |
2 | ヒョンデ | 311 |
3 | Mスポーツ・フォード | 205 |
ポイントシステムは以下の通り
1位:25点、2位:18点、3位:15点、4位:12点、5位:10点、6位:8点、7位:6点、8位:4点、9位:2点、10位:1点
パワーステージ……1位:5点、2位:4点、3位:3点、4位:2点、5位:1点
2023年世界ラリー選手権 残りの日程
Rd. | Date | Event |
10 | 9月7-10日 | ギリシャ(グラベル) |
11 | 9月28-10月1日 | チリ(グラベル) |
12 | 10月26-29日 | セントラルヨーロッパ(ターマック) |
13 | 11月16-19日 | 日本(ターマック) |