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来年初頭に12年ぶりに日本導入
新型トライトンは2023年7月26日にタイ・バンコクで発表された。新型は6代目で、2014年以来約9年ぶりのモデルチェンジとなる。日本では2006年から2011年の間、3.5L・V6ガソリンエンジンと4速ATを組み合わせた4代目が導入されていた。国内導入は約12年ぶりとなる。
新型トライトンは(モノコックボディを採用せず)ラダーフレーム構造を継続採用した。ただし、耐久性や信頼性、運動性能を高めるため新開発している。フレームの断面積は65%増やし、曲げ剛性を40%、ねじり剛性を60%強化したという。これにより、路面から大きな入力が入った際もフレームの変形が抑えられ、走行性能が向上。サスペンションが狙いどおりに機能しやすくなるので、乗り心地の向上も期待できる。
サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン式、リヤはリーフリジッドだ。形式は前型を踏襲するが、フレーム同様に新開発。フロントはアッパーアームの取り付け位置を上方に20mm移動させることで、ストローク量を20mm増やした。接地性と乗り心地の向上が期待できる変更だ。リヤはリーフスプリングの強度を維持しながら軽量化。ショックアブソーバー(ダンパー)は大径化することで容量を増やし、乗り心地の向上を狙った。
エンジンは2.4L・直列4気筒ディーゼルを搭載。「新開発」との触れ込みだが、エンジン名称は4N16なので、実質的に先代トライトンが搭載していた4N15のアップデート版だろう。3タイプ用意されている仕様のうち最上位版は、最高出力150kW/3500rpm、最大トルク470Nm/1500-2750rpmを発生する。2ステージターボを適用し、応答性を高めたのが技術的なハイライトだ。トランスミッションは6速ATと6速MTを設定。試乗車は6速ATだった。
4WDシステムは3代目パジェロ(1999年)に起源を持つスーパーセレクト4WD-II(SS4-II)を搭載する。パートタイム式とフルタイム式の長所を合わせ持つ三菱自動車独自の4WDシステムだ。センターデフはトルセン・タイプCで、フロント40%、リヤ60%の前後不等トルク配分を行なう。
新型トライトンのSS4-IIは2WD/4WDの切り替え機構に加え、Hi/Lowの切り替え機構を持ち、2H(後輪駆動)、4H(センターデフ付き前後不等配分)、4HLc(直結4WD、センターデフロック)、4LLc(ローギヤ直結4WD、センターデフロック)の4種類の駆動モードが選択可能。
これら4つの駆動方式に対してNORMAL(全4WDモードで選択可)、ECO(2H)、GRAVEL(未舗装路、4H)、SNOW(氷雪路、4H)、MUD(泥濘/深雪路、4HLc)、SAND(砂地、4HLc)、ROCK(岩場、4LLc)の各ドライブモードを設定。路面状況に応じてパワーの出し方やトラクションコントロール、スタビリティコントロールを適切に切り換える。
新型トライトンは旋回内輪に軽くブレーキをかけることで旋回性を向上させるアクティブヨーコントロールシステム(AYC)を適用したのが特徴だ。砂利のワインディングロード(未舗装路)を走る際は、AYCが入るGRAVELモードを選択して走ると修正操舵が減り、平均車速が上がることがテストコースでの評価で確認できているという。ヨーレート(車両重心点まわりの自転運動の速さ)の変動が抑えられるのが、修正操舵が少なくて済む理由だ。ステアリング操作のアクションが少なくて済むのに加え、車両姿勢が安定するので、ハイペースで走ることができるというわけだ。
トライトンを鍛えたTOKACHI Adventure Trail
TOKACHI Adventure Trail(十勝アドベンチャートレイル、TAT)で対面した新型トライトンは、堂々とした体躯が印象的だった。TATは三菱自動車・十勝研究所内にあるオフロードコースである。もともとは1997年に一般ユーザー向けに開業したが2005年に閉鎖。2022年9月にリニューアルオープンした。ダカールラリー総合優勝ドライバーの増岡浩さんが自ら重機とチェンソーを使って切り開いたコースで、大小のうねり、キャンバー、ロック、モーグルなど難所ぞろい。7月には新型トライトンで「アジアクロスカントリー2023」に参戦したが(増岡さんが総監督を務めた)、トライトンの競技車両を鍛えたのもTATだった。
全長×全幅×全高が5360mm×1930mm×1810mmなのだから、堂々として見えたのも無理はない。走破性の高さが佇まいににじみ出ている印象だ。ホイールベースは3130mmで、車両重量は2140kgである。オフロードが似合うピックアップトラックだから、実用性重視。インテリアは色気とは無縁。そう決めつけると、見事に裏切られることになる。新型トライトンのインテリアは機能的でモダンだ。水平基調かつ幾何学的な構成でまとめられている。センターコンソールにはスマホのワイヤレス充電機能があるし、USBソケットはAタイプとCタイプが用意されている。荷室ではなく荷台なだけで、室内空間はSUVと変わらない印象だ。
快適性の向上は新型トライトンを開発する際の大きなテーマだったらしく、静粛性にも配慮が行き届いている。エンジン回転を上昇させるような使い方をすればさすがにディーゼル特有のエンジン音は耳に届くが、低回転で巡航しているときは静粛性の高さが印象に残る。大人しく、快適に過ごそうと思えばドライバーの要望に忠実に応えてくれるクルマだ。
増岡浩さんのドライブでトライトンの真価を体験
大小のうねりや、岩場や、急な上り下りがあるような未舗装路では、新型トライトンの頼もしさばかりが印象に残る。まず、ステアリングホイールの握り心地がしっかりしているし、切り込んだ際の手応えがしっかりしており、それが安心感につながる。石を踏んでも、段差を乗り越えてもブルブル、ガタガタといった振動を伝えないのはステアリング(電動パワーアシストで、操舵機構はラック&ピニオン式だ)だけでなく、ボディも同様。まるでくり抜いた岩の中にいるような絶大な安心感がある。
インパネも水平基調だし、ボンネットフードも見切りのいい形状になっているおかげで、車両感覚はつかみやすい。路面の不整に足をとられてあらぬ方向に動いてしまいそうな素振りは見せないので、大柄のボディを持て余すこともない。欲しいときに欲しいだけ力を出してくれるのは、2ステージターボを適用して応答性を高めた恩恵だろう。まるでストレスを感じない。感じるのは頼もしさと力強さ、そして楽しさだけだ。
1周目はおっかなびっくり、2周目はクルマを信頼してリラックスした状態で、TATに設定されたトライトン推奨コースを周回した。増岡浩さんいわく60%に抑えてコースを走ってくれるというので、お言葉に甘えて助手席に座った。
さっきまでの自分の走りはいったい何だったんだろう。同じクルマを走っているのが信じられないくらい、異次元の走りだった。自分の走りを等倍だとすると、増岡さんの走りは10倍速である。目で状況を認識するのがやっとだ。このコーナーをこのスピードで進入していくの? で、そのスピードで曲げる?と心の中でつぶやきながら(いや、震え声で叫びながら)の5分間だった。
その間、増岡さんはといえば、「乗り心地がいいですよね。ほら、安定しているでしょ。スッと出口向いてくれるので運転していても楽ですよね。ディーゼルですけどレスポンスいいし。ラリーで使えるっていうのがわかりますでしょ」と、まるでソファに腰を下ろしてくつろいででもいるような風情で話をする。
「クルマってね、テストドライバーの技量以上には作れないんですよ」の言葉が印象に残ったが、増岡さんのドライビングについてくるトライトンって何? というのが、同乗しての印象だった。とんでもない実力の持ち主としか言いようがない。