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ニッポンの冬は非常に厳しい
「アイス・ゼロ・アシンメトリコ(ICE ZERO ASIMMETRICO)」は、日本の非常に厳しい冬のニーズに対応するために開発されたスタッドレスタイヤだ。コンパクトカー、ミニバン、SUVと幅広いクルマにマッチする。世界最高峰のモータースポーツ、F1にタイヤ供給を行なっているピレリは、およそ20年前からスタッドレスタイヤの開発を続けている。アイス アシンメトリコ(2014年~)、アイス アシンメトリコ プラス(2018年~)、そしてアイス・ゼロ・アシンメトリコと進化を続けているのだ。アイス・ゼロ・アシンメトリコの「ゼロ」は、ピレリP-ZEROから由来している。ここからもピレリがアイス・ゼロ・アシンメトリコにかけた想いが伝わってくる。
アイス ゼロ アシンメトリコのキーテクノロジーは次の5つだ。
1)低ポイドレシオ:接地面に対する溝の割合を低くして接地面積を増加させ、アイスグリップ性能とドライハンドリングを向上
2)新3Dサイプ:接地面圧の向上とトレッド剛性を増加させ、アイスブレーキング性能とドライハンドリングを向上
3)ダブル サイド to サイド グルーブ:接地面の均等分圧で、スノー&ウエット性能を向上
4)スクエアブロック:ショルダー部の最適化との相乗効果による効果的な接地面を実現し、アイス性能を向上
5)新リキッドポリマー:トレッドコンパウンドの柔軟性で、寿命末期までの性能の維持やアイス&ウエット性能を向上
そのアイス・ゼロ・アシンメトリコをマツダCX-5とスバル・インプレッサに装着。雪上でジャーナリスト斎藤 聡さんがテストした。
雪上での実力をチェック by 斎藤 聡(モータージャーナリスト)
アイス・ゼロ・アシンメトリコは、乗用車、SUV用の新しいピレリのウィンターラインであり、日本の厳しい冬のニーズに対応するように特別に開発されたスタッドレスタイヤだ。ウィンタータイヤにとって日本の冬は最も厳しい環境のひとつ。気温0度付近の氷と水が混在する環境は、例えば―20度以下の極寒時よりも滑りやすく、グリップ性能を発揮するのは難しい。そのため日本でのウィンター性能の評価はピレリのスタッドレスタイヤの重要な指標となっているのだという。
トレッドデザインの特徴は、3本の縦溝を基調に広い接地面積を取ったトレッドデザインとなっており、アイス・ゼロ・アシンメトリコの名前とおり、アイス性能を重視した左右非対称パターンであることが見て取れる。
トレッドアウト側にややオフセットした幅広のリブ(=縦のブロック列)が配置され、これが接地面積を広くして氷上グリップ性能を高める役割を果たしている。と同時に幅広リブにはダブル・サイドトゥサイド・グルーブと名付けられたジグザクの中細溝が設けられ、これが雪上性能やウエット性能を高めるのに役立っている。
コンパウンドには新リキッドポリマーというトレッドコンパウンドの柔軟性を、寿命末期まで保つ材料が配合されており、同時にアイス及びウェット性能にも貢献している。
テスト車はマツダCX-5とスバル・インプレッサ。いずれもAWDを用意した。
試乗してまず感じたのは、コンパウンドがしなやかでよく仕事をしているということだ。つまりコンパウンドが氷雪路面でどのくらい柔軟性を発揮してベースグリップ性能を作り出しているかということ。特にツルツルに磨かれた圧雪路や雪がはがれて氷が露出した凍結路面を極ゆっくり走らせた時にゴムがヒタッと路面をとらえている感触にコンパウンドの基本性能を感じることができた。
CX-5で凍結路に足を踏み入れると、ベースのグリップの良さに加え、手のひらを広げた感じのグリップ感が感じられる。サイプで細かく切り分けられたブロックが適度な柔軟性を発揮して氷の路面に追従し、あるいは変形してエッジを立てて路面をとらえているのだ。
ブレーキの効きもよく、踏み出しからABSが効きだすまでのコントロールの幅が広く、滑りやすい半凍結路でもブレーキコントロールが効き、しっかり止まれる安心感があった。
加速側も同様で、(4WDであるということも考慮する必要はあるが)特に凍結路での発進で、アクセルコントロールの余地が十分にあるし、ホイールスピンし始めても、引掻き性能が残っており、クルマがスルスルと加速してくれる。ホイールスピンが起こらないようコントロールする幅も十分にある。
接地面積を広げアイス性能の比重を大きくしたアイス・ゼロ・アシントリコだが、じつは雪の性能もよかった。重心の高さや車重からくるネガティブな感覚は一切なく、当たり前のように車重を受け止め素直に曲がってくれる。トレッドセンター部のリブ(縦のブロック列)を幅広にして、接地面を広く取ったデザインだが、走らせてみると路面の様子をよく伝えてくれるし、コーナーではタイヤの縦溝がエッジを効かせ、安心感と安定感を与えてくれる。
雪上でも重心の高さや車重の重さは感じられなかった。それどころかコーナーでは縦溝成分が作り出す、スキーでいうエッジを立てているようなグリップ感と手応えがある。
氷雪上路を走って感じたのは、感覚的に走りやすく緊張が少なくて済むこと。考えてみれば、ピレリのスタッドレスタイヤの最初の開発は日本で始まっていて日本の冬を良く知っているし、WRC(世界ラリー選手権)のタイヤサプライヤーとしてターマック、グラベルだけでなくウインタータイヤも開発・提供しているから、数値で現れる性能だけでなくドライバーが安心できる性能を作り込むのは得意分野。バランスのいいスタッドレスタイヤが生み出されるのは、そんなノウハウがバックボーンにあるからなのだろう。