ホンダ・プレリュードの開発エンジニアにインタビュー!22年ぶりに復活の理由は?【ジャパンモビリティショー2023】

2023年10月25日の「ジャパンモビリティショー2023(旧:東京モーターショー)」プレスデイ初日、東京ビッグサイトの東6ホールにあるホンダブースに突如姿を現した「プレリュードコンセプト」。22年ぶりに車名が復活したスペシャリティスポーツの開発を手がけた、本田技研工業四輪事業本部四輪開発センター・パワーユニット開発統括部の齋藤吉晴チーフエンジニアに、気になるそのコンセプト、デザイン、そしてメカニズムを直撃インタビュー!

REPORT&PHOTO●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)

遠藤:今回「プレリュード」の名が20数年ぶりに復活することになりますが、この車名に込めた想いは?
齋藤さん:クルマの開発として「プレリュードを復活させよう!」としてコンセプトを構築したわけではなく、現代に「走る歓び」と「常用域の気持ち良さ」を両立させるにはどういうクルマを作ればいいか……というところからコンセプトを作っていきました。

車両後部の「Prelude」エンブレム

その根幹にあるのが「グライダー」です。その対照となるのは戦闘機であり、それがタイプRになるわけですが、速さのために機能美をそちらの方向に振り分けています。グライダーは空気抵抗が少ない形ですので、プレリュードコンセプトでは流れるようなデザインを構築しています。
もうひとつ、グライダーは、滑空している時はフリクション少なく飛んでいくイメージですが、転舵時には非常に俊敏な動きを見せるんですね。そういう両面を持っているのが、グライダーの特徴です。そういうことをクルマでも表現したいということで、昨日社長の三部(敏宏さん)が説明した通り、「どこまでも行きたくなる気持ちよさと、非日常のときめきを感じさせてくれる」、両方を表現したクルマを作っていきたいということですね。そうしてデザインができあがったわけでですが、その中で「現代のプレリュードとしてふさわしいのではないか」という意見がありました。また、この先電動車を展開していく中で、「走る歓び」を体現するための「前奏曲(プレリュード)」、先駆けの存在としてホンダの中で位置づけたい。その車名として非常に適合性が良いということで、「プレリュード」と命名することにしました。

遠藤:エクステリアデザインは昨今のホンダさんらしい、シンプルな造形でフォルムの良さを出していく方向性で作られたのでしょうか? 王道のクーペという印象を受けます。
齋藤さん:はい。このクルマは0-100km/h加速のタイムを短縮するような価値には全然重きを置いていません。むしろ日常の中での……それはワインディングの日常ではなく、まっすぐ大人しく走っている時の気持ち良さだったり、休日にワインディングで気持ち良く走ったり……そういう部分を表現したいクルマです。デザインもスリークでワイドスタンスで、面の美しさを表現しています。

「グライダー」をモチーフとしたシンプルなフォルムのエクステリア

遠藤:メカニズム的にはアコードのプラットフォームがベースになるのでしょうか?
齋藤さん:今日の時点では詳しいことをお伝えできませんが、ハイブリッドであることまでは皆さんにお伝えしています。

遠藤:展示車両はインテリアをあえてうっすらと見せるような作りになっていますが(笑)、インパネの形状を見ると……シビックもアコードも似ていますが……車格的にもアコードクーペの後継モデルに位置付けられるのではないかと。
齋藤さん:その辺のポジショニングにはなると思いますし、今回アコードやシビックで提案している、ドライバーにとって非常に運転しやすい環境という部分は、ある意味普遍的ですので、似ているようなイメージに感じられたのはその通りだと思います。

窓越しにうっすらと見えるインテリア。新型アコードやシビックとの共通性が強く感じられるが……?

遠藤:展示車両にはカーボンのルーフやリヤスポイラー、大型のブレーキが装着されているので、そういう走りの方向性を期待してしまうのですが、市販化された時にもこれらのパーツは設定される予定でしょうか?
齋藤さん:全てではありませんが、走りの基礎を支える部分はしっかり仕様に入れて、直線が速いだけではない、骨太な「走る歓び」を実現したいと思っています。このクルマはハイブリッドではありますが、エンジンが搭載されています。BEVに対し、エンジンが付いているのは捉えようによっては振動などのネガティブな面がありますが、エンジンが付いていることそのものが利点になるようなハイブリッドを目指しています。

渋滞のなかではBEVのような静かさや快適さ、郊外路やワインディングに行くと「エンジンがあって良かった」とお客様に言っていただけるようなクルマにしたいですね。それも先ほどの、二面性の話と結びついていて、大人しく走るのも気持ちいい、ステアリングを切っても楽しい。パワートレインも、静かな時はすごくスムーズかつ快適で、エンジンが回っている時もエンジンの鼓動を感じられてすごく楽しい。その両方を得られるようなクルマにしたいと思っています。

フロントにはブレンボ製対向ブレーキキャリパーを装着。タイヤは245/35ZR20 XLのコンチネンタル・スポーツコンタクト6

遠藤:ということは、現状あるハイブリッドのパワートレインよりもエンジンが主体になる、エンジンのパワーや官能性を強調した仕様になると考えてよろしいでしょうか?
齋藤さん:そうですね、詳しい内容はもう少しお時間をいただきたいですが(笑)、そのような形で、燃費もしっかり取れ、舞台を移せば走っていることそのものが楽しいクルマにしていきたいと思います。

遠藤:ターボを使う予定はありませんか?
齋藤さん:そこは、今回は……(苦笑)

遠藤:ターボ車としてはシビック・タイプRなどがありますが、ホンダさんからNA(自然吸気)の高回転高馬力型のユニットがなくなって久しいので、そういうエンジンが搭載されると、私個人は嬉しく思います。
齋藤さん:「エンジンの鼓動を感じられる」と言ったのは、モーターの力を借りるとまさにNAのエンジンのようなフィーリングを生み出せるのではないかと。しばらく後になりますが、それを実車で提示できるように開発していきたいと思います。

遠藤:ーある意味モーターが電動の過給器という言い方もできますよね。
齋藤さん:昨今の状況ではエミッション規制が本当に厳しくなっていて、電動の補助のないターボ車が非常に走りにくくなっていて、ヨーロッパの各メーカーもマイルドハイブリッドにしています。ホンダのストロングハイブリッドの強みとしては、元よりしっかりした力が出せますので、それをさらに磨いて、あとはエンジンが回っているからこそ得られる良さを表現したいですね。

遠藤:ということは、高回転まで回ると期待していいのでしょうか? 私はむしろそれを期待したいですが(笑)
齋藤さん:今日のところはご想像にお任せします(笑)

遠藤:こういう電動スペシャリティスポーツカーとはいえ、3ペダルのMT車があったら嬉しいと思うのですが……。
齋藤さん:詳しいことはお答えできませんが、それに遜色ない楽しみを味わっていただけるようなクルマにできると思っています。

リヤブレーキがフロントに対し小ぶりなことからも駆動方式はFFと推測できる。タイヤはフロントと同じく245/35ZR20 XLのコンチネンタル・スポーツコンタクト6

遠藤:市場投入は2025年頃でしょうか?
齋藤さん:表現としては「2020年代半ば」に留めていますが、その辺りになると思います。

遠藤:日本市場への投入は?
齋藤さん;日本への投入を目指す方向で考えています。

遠藤:発売を楽しみにしています。ありがとうございました!

カーボン製のルーフとスポイラーを装着したリヤまわり

キーワードで検索する

著者プロフィール

遠藤正賢 近影

遠藤正賢

1977年生まれ。神奈川県横浜市出身。2001年早稲田大学商学部卒業後、自動車ディーラー営業、国産新車誌編…