謎が多すぎるマツダ “ICONIC SP” を、あくまでも推測ながらデザインから読み取る【ジャパンモビリティショー2023】

ジャパンモビリティショー2023の華,MAZDA ICONIC SP。2ローターロータリーエンジンを搭載したRE-EVシステムのスポーツカーだ。このクルマ、デザインの観点から分析してみよう。

かっこいい……だけではないカタチ

ジャパンモビリティショーの会場でひときわ美しさを見せているのがICONIC SP。このモデルのデザイナーの人たちに話を聞こうと思っても、重要なことはなにひとつ語ってくれない!! 個人的は、謎が多すぎるのだと思う。今回のマツダのテーマは「『クルマが好き』が、つくる未来。」そうした表現のためにマツダブースには、かつてクルマが憧れだった昭和の時代に代表されるデザイナーやエンジニアたちの経験=原体験が表現されながら、そこに最新のICONIC SPも鎮座する。

マツダのコンセプトカー、ICONIC SP。全長を4.2m以内に収めること、ルーフを限りなく低くすることで往年のスポーツカーのフォルムを手に入れた。

昭和という時代には1967年に、量産初といえるロータリーエンジンを搭載したコスモスポーツが登場。1978年に初代RX-7が登場し、そして1989年には初代ロードスターが登場。マツダはロータリーエンジンという前人未到のエンジンの実用化に成功した。このコンパクトでパワフル、そして低振動のエンジンがマツダのスポーツカーやラグジュアリーカーを育んできた。他方、レシプロエンジンのロードスターの登場は、本来のマツダからは異なる方向性ではあったが、クルマが好きという文脈からは、外れることのないマツダにとっての大きな一歩であった。このロードスターは平成の幕開けのモデルとはなったが、これらは多くの人たちがクルマに憧れを持った「昭和」というマインドの中で生まれてきたものであることは間違いない。

1978年に登場したマツダ・サバンナRX-7。コスモスポーツより採用され続けたロータリーエンジンを本格スポーツカーにあらためて採用。ここからRX-7の歴史が始まった。

なぜこんな話からスタートしたかというと、このICONIC SPにはロータリーエンジンが搭載されているのだ。そしてこのエンジンで発電して電動モーターを駆動するシステムを、マツダでは2ローターRotary-EVと称する。レンジエクステンダーであったとしても、ロータリーエンジンを搭載するスポーツカーを復活させたい、という思いも込められている。

それらのクルマに対する情熱、愛情を普遍のものと捉え、もう一度原点回帰をしてみるという試みが、このICONIC SPのデザインテイストに取り入れられていることは間違いないだろう。インタビューの最中にもデザイン本部長の中山さんは、ターンテーブルが動きだしたICONIC SPを眺めて、「ここ! いいなぁ」「あーいい」を繰り返す。併せてエモーショナルな話はたくさんしてくれるのだが、もっと核心に迫れないものか・・。

最後のロングノーズなのか・・

とはいえ、まずは全体のプロポーションなどで気がつくことを記してみよう。まずこのICONIC SPは内燃機関がなくなる未来が来るとするならば、最後のロングノーズモデルとなるのではないか。その長さは2ローターのロータリーエンジンをフロントミッドに搭載するためのもので、フロントセクションの長さはRX-7に似ている。しかしより低くされたボディシェルは短い全長にもかかわらず、極めて伸びやか。そう感じられる理由は、低いルーフによるものとリヤピラーからリヤウインドウ周辺をコンパクトにまとめてテールエンドを低く下げているためだ。全幅は1.8mという現代的なサイズであるものの、全長、全高は昔のスポーツカーのそれであり、1960年代や70年代のライトウエイトスポーツのプロポーションに近づいている。

また、サイドビューでピラーやウインドウのラインの延長線が1点に交わるようなバランスが、極めて安定感あるプロポーションを見せている。それもその交点が少し前寄りとなることで、リヤエンドが緩やかに下がっているにもかかわらず、前傾するような「走る姿勢」を見せている。

ピラーやウインドウが上部で1点に集まるような造形なので、極めて安定感がある。また交点がやや前よりのためか、前傾姿勢が感じられる。加えてドアのオープニングラインはフロントピラーの流れを受けており、足入れ性の高さも魅力。

リトラクタブルライト復活の秘密

さらに絶妙なアイデアと思えるのが、ドアのオープニングラインでフロントピラーからの延長線としてフロアまで傾斜を伸ばすことで、足入れ性を高めていると思われる。また、この傾斜があるからこそドアがやや上にはね上がるような設定が必然となり、ICONIC SPに特別な存在感を与えている。フロントに回ると驚くのが、リトラクタブルヘッドライトの復活だ。異形ヘッドランプが認可されたことによって、ボディに沿ったヘッドライトを装備できることから、もはや絶えてしまた技術だった。ここについても、「リトラクタブルって、かっこいいじゃないですか」としか教えてくれなかったのでここは推測に過ぎないが、何かの目的があっての設定であることは間違いないはずだ。推測として当初は下から発光させ、リトラクタブル部分で反射させ照射させているのかと思った。しかし、一般公開日も日参して確認したところそうではなかった。光源はアウター部分に装備されていた。だとするなら、推測できるのは、今まで以上のワイドな配光ではないだろうか。ライトを車体の前面に出すと配光は有利。その仕組みをなめらかな美しいボディ主体の中で実現しようとするには、リトラクタブルはひとつの答えだったのかもしれない。(あくまでも推測だが……)

久々に採用されたリトラクタブルヘッドランプだが、光源は上下するフラップ部分のついている。そのため光源がより前方にせり出すことができ、より周囲を照射できるように見える。

加えて、大きく変更されたグリル構造も大きな特徴だ。奥行きのあるボディ同色の構造が特徴だが、空力のコントロールをしているようにも見える。また、ドアを開けた時のサイドシルにある空気の流れて行きそうな隙間も気になる。

ただし推測ばかりでなく、少しわかったこともある。全長を4200mm以内とすること、びた一文も超えてはならぬ、とのお達しがあったのだというのだ。ロードスターは4000mm未満、RX-7は4200mmよりも少し長い。となるとこのモデルがRX-7に近い方向性を持つことには、間違いないようにも思える。しかしホイールベースは2590mmとRX-7よりも100mm以上長い。そして全高は1150mmというから、RX-7は言うに及ばすロードスターより低い。この寸法が見せるサイドビューのプロポーションは、極めて優雅だ。比較してみると全長が同等でもホイールベースの短いRX-7は、はるかに戦闘的に見える。

シートポジションはフロアの底上げも感じられず、極めて低い。バッテリーを敷き詰めている気配はなく、エンジン車のようだ。そんなことを考えていると、ふと思い出したことがある。それはこのロータリーエンジンが、カーボンニュートラル燃料を使用するということだ。以前よりマツダは水素ロータリーエンジンの開発を行なっており、カーボンを含まない水素は大きな選択肢となるはず。

どんなエネルギーを、どこに収める

ところがそうなると大きな問題は、発電のためのエネルギー密度の低い水素をどこに積むのか? ということだ。ご存知の通り、FCEVでは水素は高圧のボンベに収められ、その状態でもパッケージの中で大きな場所を必要とする。さらにハイブリッド程度のバッテリーも必要となれば、そのパッケージはかなり難しい。あるいは水素ではなく、水素と二酸化炭素からなる合成燃料で、二酸化炭素のリサイクルを想定しているのだろうか・・?

しかし考え直してみると、ロータリーエンジンをフロントミッドに搭載しているスポーツカーということで、完全にスルーしていたがエンジンは発電用であるとすればプロペラシャフトは必要ない。つまりセンターコンソールは必要ないはずだ。それでも大きなセンターコンソールを持つのは、そこにものを入れることができる。それが水素ボンベであったり、新燃料であったり、バッテリーなのではないか?

3代目RX-7(FD)のレイアウト。2ローターのロータリーエンジンをフロントミッドに搭載する。今回のICONIC SPもエンジン位置はこれに近いのではないか。ただし、プロペラシャフトがない分、搭載位置を低くしたりもっとキャビンに近づけられる可能性はあるかもしれない。またプロペラシャフト部分は、燃料などを収めるストレージに利用できるはず。

もしこのボディスキンを剥がすことができるのならば、そこには誰も口にしてくれなかった驚異のパッケージが隠されているのではないだろうか。そはまた、このビーナスのように美しいボデイを覆いながら、そのせめぎ合いで成立しているのだ。それも究極の空力を纏いながら……。

あくまでも、個人的な推測なのだが。

 

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著者プロフィール

松永 大演 近影

松永 大演

他出版社の不採用票を手に、泣きながら三栄書房に駆け込む。重鎮だらけの「モーターファン」編集部で、ロ…