2024年春に発売が予定されているホンダWR-Vは、タフさを愚直に表現したぶ厚いノーズが象徴するダイナミックで力強いエクステリアが特徴だ。ノーズがぶ厚いと気になるのは運転席の視界である。エクステリアデザインと視界のバランスはどのようにして落としどころを見つけたのだろうか。といったことを含め気になるポイントを、パッケージを担当した株式会社本田技術研究所デザインセンターの黒崎涼太氏に聞いた。
──運転席に座ったときにボンネットが見えすぎると、必要以上にクルマを大きく感じてしまいそうです。
黒崎さん:WR-Vは初めてクルマを買って運転される方も多いと思うので、大きなクルマを動かしている感じを抱かせたくはありません。といって、見えないのも困る。デザイン部門には小柄な人から大柄な人までいろんな体格の人がいるので、(モックアップ)モデルに座りながら、「ここまで見えてしまうと大きく感じてしまう」などと、ボンネットフードの見え方をミリ単位で調整し、車両感覚をつかみやすいフードのバランスをとりました。
──パッケージ面でとくに苦労したところはどこでしょう?
黒崎さん:荷室と居住空間のバランスです。充分に広い荷室と後席の居住性を両立させたい。じゃあ、どこに人が座るのが一番いいのかと。後席の前後方向の広さと乗り降りのしやすさを両立させるのが難しい。高いアイポイントはSUVとしての基本要素ですが、あまり高くするとお尻の位置(ヒップポイント)が高くなってしまい、小柄な人が降りる際、地面に足が届かなくなってしまう。また、地面までの距離が遠すぎるとフランジ(ホイールハウスの張り出し部分)に服が触れて汚れたりします。後席に座ったときの見晴らしの良さと乗り降りのしやすさについては、かなり気を使って両立させました。
──荷室を狭くすれば後席は広くできる?
黒崎さん:荷室を狭くするとヒップポイントが後ろに下がることになるので、フランジに対してお尻がもぐり込む格好になります。そうすると、どこかをつかみながらでないと降りにくくなります。フランジに対してヒップポイントは前にあったほうが降りやすいのです。
──逆に降りやすさを考えてヒップポイントを前にすると、今度はひざ前が窮屈になる。
黒崎さん:そうなんです。そのバランスをどうとるか。WR-Vは後席に座るシチュエーションが多いと想定しています。結婚したてのカップルが購入されたとしても、ライフステージの変化でお子さんが生まれたりすると、チャイルドシートを付けるケースが出てきて、隣にお母さんが乗る。チャイルドシートの載せ降ろしのしやすさにも気を配るべきだと、一歩踏み込んだところまで考えて設計しました。
──SUVだと、後席の着座位置を高くして見晴らしを確保する手法も見られます。
黒崎さん:このクルマでは、前席シートの肩を削いで前方視界の抜けを良くしています。ヒップポイントを上げすぎると頭の上が狭くなるし、降りるときに足がつかなくなるので、そこまで上げていません。見晴らしと足着きのバランスをとっています。WR-Vはベルトラインが水平に近いので、後席のヒップポイントをあまり上げなくてもパッケージは成立します。ベルトラインがウエッジして後ろが上がっていると、もぐって座る感覚が強くなるので、高い位置に座らせたくなる。WR-Vはその必要がありません。
──ベルトラインの位置が座らせ方に影響するのですね。
黒崎さん:そうです。乗降性の観点での限界値を示し、そこに合わせてベルトラインを通してほしいというリクエストをエクステリアデザイン側に出しました。
──後席の足元がふくらんでいますが、これはセンタータンクレイアウトのシャシーを使っているからですか?
黒崎さん:センタータンクのプラットフォームを使ってはいるのですが、実は燃料タンクはリヤにあります。なるべく早く市場に投入したかったのと価格重視だったので、この選択になりました。リヤに燃料タンクがある関係で、後席はダイブダウンしません。ダイブダウンのシートはきれいに折りたたまないといけないので、クッションの厚みが規制されます。このクルマはその制約がないので、クッションの厚みがしっかりとれている。きちんと後席に人が座り、快適に移動できるようなシートになっています。
──足元のふくらみは足置きにちょうどいい。
黒崎さん:そうなんです。ちょっと高い位置に座ると足がいい位置にくるので、そのまま使おうということになりました。
──なるほど。興味深い話、ありがとうございました。