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2024年春に発売が予定されているホンダの新型SUV「WR-V」は、タイを拠点に開発され、インドで生産されるホンダのグローバル戦略車だ。コロナ禍で生まれたコンパクトSUVの開発に際しての苦労やその立ち位置などを、同モデルの開発責任者を務めた金子宗嗣氏に聞く。
──あらためて「WR-V」という車名の意味について教えてください。
金子さん:WR-Vは「Winsome Runabout Vehicle」の頭文字を組み合わせた車名で、「Winsome」は「活動的」だとか「活気がある」という意味を含んでいます。開発中はコロナ禍の最中でしたので、さまざまな制約条件があったのですが、そのなかでも自由さや快活さといったエネルギッシュなものを表現したいと思いました。とくに日本においては、WR-VはホンダのSUVのフォーメーションで、一番最後に出すコンパクトSUVになります。ですので、お客様がすぐに車名からホンダのSUVであることをイメージできる、わかりやすさを重視したネーミングになっています。
──WR-Vはタイを拠点に、日本とインドで開発されました。その過程において難しいところはありましたか? リモートでの開発はスムーズだったのでしょうか。
金子さん:最初はやはり戸惑いましたね。そういったところはまったく慣れておらず、いきなりそういう状況に放り込まれた感じだったので、当初は本当に手探りでした。セキュリティやシステムの関係で最初はカメラでお互いの顔を見ながらというのも難しい状況でした。データやCGのアニメーションなどを見ながらディスカッションしたり、デザインにしてもライブでタイからインドや日本に中継しながら進めていたのですが、相手側にちゃんと見えてるのか見えてないのかよくわからず、確認しながらやるような状況で、本当に手探りで……(苦笑)。「これで大丈夫かなぁ」って最初は不安だったのですが、やっぱり慣れってすごいもので、やってるうちにだんだんコツが掴めてきたんです。「相手側にはこういったことが届きにくいんじゃないのか」とか、お互いに配慮しながらやれるようになりました。そうなったのは、元々同じ職場で一緒に働いてるところもあって「通じ合えるんだな」というのを感じながら開発しておりました。
──開発チームにはタイの方もインドの方もいて、皆さん英語で話しながら連携していた。
金子さん:そうですね。基本的には英語で話していました。
──言葉の壁以外にも、時差もありますね。
金子さん:タイから日本に対しては-2時間、インドに対しては+1.5時間あります。ですから、最大で3.5時間の時差があることになります。たとえば、こちら(タイ)が午後だとインド側がお昼休憩に入っていて、こちらが夕方だと日本はすでに夜という感じです。
──そうなると、コアタイムが自ずと決まっていく感じになるわけですか。
金子さん:なかなか、そこも合わせていくのは大変でした。
──生産を担うインド工場は新しくてきれいだと聞いています。
金子さん:2014年にできた、ホンダのなかでは比較的新しい工場になりますので、基本レイアウトはグローバルで作っている生産工程、生産拠点の基本性能を踏襲し、最新鋭の設備になっています。ここがWR-Vのマザー工場になります。
国が変わればポジションも変わる
──WR-Vはインドでは「エレベイト」として販売されています。このクルマのインドにおけるポジションはどういったものになるのでしょうか。
金子さん:インドにおいては現状、ホンダのラインアップでは唯一のSUVになります。価格帯で言いますと「シティ」とほぼ同じくらいになるのですが、ホンダのプレゼンスでいうとプレミアム寄りになるんです。なので、このクルマもどちらかというと、コンパクトでありながらプレミアム寄りのSUVという位置づけになります。日本とはポジショニングが実は少し違うかたちですね。
──インドネシアでは、違うクルマが「WR-V」として販売されています。インドネシアのWR-Vと日本のWR-Vは、どういう関係になるのでしょうか。
金子さん:まず、インドネシアで出ているWR-Vはアジア地域専用モデルになっています。日本のWR-Vよりもひと回り小さなSUVになるのですが、日本のWR-Vはセミグローバルモデルです。インドを中心にして、各国に輸出するかたちになります。日本の位置づけは先進国になりますので、新興国であるインド、先進国である日本の両方を包含する共通モデルがこのWR-Vです。
──WR-Vはどこから見てもホンダに見えるし、SUVに見える。メインターゲット層である若年層には「ちょうどいい」選択肢になりそうです。
金子さん:「ちょうどいい」というと弊社ではフリードという感じではあるのですが(笑)、SUVとしてのちょうど良さというのは、居住性を含めたSUVらしい使い勝手ですよね。それから、なんといっても価格。これらのちょうど良さというのは、企画が始まった当初から我々が考えていたところですので、うまくハマったという実感があります。
──価格的にはヴェゼルのガソリンモデルとすこしオーバーラップするというのは、商品企画の段階で決めていたことなのですね。
金子さん:そうです。
──そうなると「この価格は絶対に下回らなければならない」というミッションもあった?
金子さん:もちろんありました。我々の手持ちのコスト、投資、開発費などの枠があります。その一方で安く抑えなければいけないということで、とくにコストは気を遣いました。ヴェゼルと価格がクロスしているところ、スタイリッシュで快適なヴェゼルと、SUVらしくアウトドアでアクティブに使えるWR-Vが商品として棲み分けられるギリギリのところを狙っていこう点も、開発のなかでのコンセプトのひとつでした。そういう意味では当初の狙い通りにできたと思っています。
「SUVらしさ」が絶対的なウリ
──金子さん自身は空力開発に従事していたと伺っています。WR-Vには“空力屋”ならではのこだわりもあるのでしょうか?
金子さん:立場変われば……で申し訳ないのですが(笑)。見ていただければわかるとおり、SUVはやはりスクエアな印象になりますので、空力的にはそれほど突っ込めるものではありません。しかし、角張って見えるんだけど、空力もギリギリのいいところになっている。バンパーの下の部分にあるエアダムだとか、そういったところの処理もしっかりやっていますし、床下にも空力デバイスがついておりますので、空力面からもきちんと燃費には配慮しています。
──最低地上高は195mmとかなり高く設定されていますが、これはインドの市場からの要請によるものではなく、日本のマーケットも考えたうえで決めたことですか?
金子さん:インドのお客様の地上高に対する要望は高いので、そこにも合わせて基本のディメンションは決めています。日本でも道路が冠水することはありますし、また林道などを走っても大丈夫なような設定にしています。インドでは競合他社さんのSUVに対しても優位性があり、日本でも充分な地上高を取ったこともひとつのポイントになります。
──「ここを見てほしい」という注目ポイントはありますか?
金子さん:エクステリアで申し上げますと、何と言っても顔ですね。ヴェゼルやZR-Vのようなスタイリッシュな顔もありますが、WR-Vはひと目見てSUVを感じさせる造形になっています。あとはサイドビューでのスタンスの良さ。きちっと張り出しながら、地上高もありますが腰高感はない、水平基調でバランスの取れたスタンスは私自身、気に入っています。全体を見たときのSUVらしい塊感、ダイナミック感をとくに提案していきたいと思います。