ホンダWR-Vは「250万円以下なんだから、そこは我慢してくれなくちゃ」と訴えてくるところがひとつもない

ホンダは2023年12月21日に新型SUVのWR-Vを発表した。パワートレーンは1タイプのみの設定。1.5L直列4気筒自然吸気エンジンとCVTの組み合わせで、駆動方式はFFである。X、Z、Z+の3タイプを用意し、全国メーカー希望小売価格は209万8800円から249万9300円となっている。3グレードとも200万円台前半に収まる価格設定が大きな魅力だ。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)PHOTO:Honda

堂々とした外観だが、乗り降りしやすい

ホンダWR-V Z+

WR-Vの発売は2024年3月22日なので、発表からだいぶ間がある。その理由を聞くと、「全国の販売店に試乗車を配備したいから」との回答が返ってきた。乗ればWR-Vの良さがもっとわかるということだろう。そのWR-Vにひと足早く乗せていただいた。試乗のステージは栃木県にあるホンダのテストコースだ。

WR-Vはボリューム感のある堂々とフォルムをしているので大きく見えるが、全長×全幅×全高は4325×1790×1650mmで、実はヴェゼルとそう変わらない。細かく記すと、5mm短く、全幅は同じで、70mm背が高い。フィット(1515〜1565mm)より当然背は高いけれども、運転席に乗り込むのに苦労するほど着座位置は高くない。座面が腰の位置に近いので、むしろ乗り降りしやすいと感じる人のほうが多いかもしれない。

シートの前後スライドと高さ、シートバックの角度、ステアリングの前後と上下の調整機構を使うと、自分に合ったポジションが決まる。落ち着いたところで前方に目をやると、見晴らしがいいことに気づくはずだ。本格的なオフロード車に通じる見晴らしの良さである(もちろん、絶対的な高さでは負けるが)。

本格的オフロード車っぽい見晴らしの良さを感じさせる理由は、長くスクエアな形状のボンネットフードが視界に入る影響が大きい。あまり長く見えすぎると、実際のサイズ以上に大きく感じてしまうし、見えすぎないように処理すると、車両感覚がつかみづらくなってしまう。そのバランスをとるのに苦労したそうだ。

ドライバーからは長くスクエアなボンネットフードが視界に入り車両感覚が掴みやすい

ボンネットフードの見え方は適度だと感じた。見晴らしのいい視界と車両感覚をつかむガイドとして機能するボンネットフードのおかげで、狭い路地を模したコースへもためらうことなく入っていくことができた。

1.5L直4+CVTで力不足なし

試乗時は常に成人男性が3名乗った状態だったが、動力性能に不足を感じるシーンはなかった。パワートレーン系がギクシャクしないし、アクセルペダルの踏み込みに対してじんわり力を出してくれるので、広い駐車場内で移動するときのような、微低速での車速のコントロールはしやすい。一般道を模したコースでは、発進から40〜50km/hに至るまでに緩加速するシーンを試したが、エンジン回転が徐々に高まりながら車速が上がっていく。エンジン回転が急に上昇して大きな音を立て、後から車速がついてくるようなことはない。

エンジン 形式:1.5L直列4気筒DOHC 型式:L15D型 排気量:1496cc ボア×ストローク:73.0mm×89.5mm 圧縮比:10.6 最高出力:118ps(87kW)/6600pm 最大トルク:142Nm/4300rpm 燃料:レギュラー 燃料タンク:40L

高速道路の料金所、あるいはサービスエリアから本線に合流するシーンを想定してフル加速を試みたところ、当然ながらエンジンは大きなうなり音を上げる。だが、遮音や吸音が徹底していることもあるし、音のチューニングが施されていることもあって、耳障りには感じない。むしろ、「お、エンジン頑張ってるな」とエールを送りたくなる印象だ。

全開加速の際はステップATのような段付きの加速をする制御を取り入れている。人にもよるだろうが、個人的には、アクセルを長時間べた踏みして加速するシーンはそう訪れないだろうという印象だった。アクセルを深く踏み込まなくてもエンジンは頼もしい力を出してくれるので、騒々しくならず、思い通りにクルマを動かしてくれる。

ブレーキの感触は好印象だった。イメージどおりに減速してくれるので、ワインディングロードのコーナー進入時はもとより、交差点の角を曲がるときも車速のコントロールがしやすく、操作に気を使わない。ステアリングの切り込みと、その操作に対するクルマの動きのつながりがよく、動きはしなやかだ。背が高いクルマでありながら、グラリと大きく揺れて乗員を不安にさせたり、常時細かく揺れて落ち着かないといったこともない。しなやかさとしっかり感が同居していて安心だし、快適だ。

後席は厚いシートクッションのおかげで座り心地がいい。快適だ。
後席から前席を見ると、フロントシートの肩部の形状が「なで肩」になっているので、視界がいい。

後席にも乗ったが、至極快適だった。足元も、頭上空間も広々としている。前方の抜けが良く、前席と後席で遮断された空間になっていないのがいい。聞けば、ポイントのひとつはなで肩形状にした前席シートバックの形状にあるそう。上体を支える部分はしっかり確保しつつ、必要のないところは大胆に削った。結果、抜け感が生まれ、前席と後席のコミュニケーションが作りやすい空間となっている。Bピラーと前席シートの間の抜けを良くすることで、酔いの低減にも効いているのだそう。

前席同様に乗り降りしやすい後席はクッションが厚く、そのおかげもあって乗り心地がいい。もちろん、車体やサスペンションのチューニングによるところ大ではあるが、内臓に響くような衝撃とは無縁。前席と同様にしなやかな乗り味が印象的だった。シートバックは腰の押さえが利いていることもあり、長時間ドライブでも快適に過ごせそうだ。

試乗会場にはシートの上にテントやシュラフなどのアウトドア用品が並べてあった。積載能力を示すサンプルであることは気づいたものの、後席シートバックを倒さずに積み込めると聞いてびっくり。WR-Vは競合に対して寸法的に余裕があることはわかっていたので、複雑なシートアレンジを設定しなくても、ラフに荷物を放り込めるような設計としたそう。ホイールハウスの張り出しをスクエアな形状とすることで、使いやすそうな空間に見せている。

リヤシートを畳まなくてもこれだけの荷物が積める

ホンダWR-Vは全グレードを200万円台前半に収めるのが企画・開発のターゲットであったけれども、「価格を低く抑えたんだから、そこは我慢してくれなくちゃ」と訴えてくるところがひとつもない。とくに、クルマとしての基本性能である走る・曲がる・止まるがしっかりしつけられており、運転に際して特別な気配りを必要としないのがいい。助手席あるいは後席に乗って過ごす際も、荷物をたくさん積んで出かける(あるいは帰ってくる)にあたっても、気楽につき合えそうだ。

生産はホンダのインド工場。ホンダの工場のなかでも新しい工場だから、品質にはまったく問題がない。
ホンダWR-V Z

ホンダWR-V 車両価格

タイプ乗車定員エンジントランスミッション駆動方式車両価格
X5名1.5L直4DOHCi-VTECCVTFF209万8800円
Z5名1.5L直4DOHCi-VTECCVTFF234万9600円
Z+5名1.5L直4DOHCi-VTECCVTFF248万9300円
ホンダWR-V Z
全長×全幅×全高:4325mm×1790mm×1650mm
ホイールベース:2650mm
車重:1230kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rトーションビーム式
駆動方式:FWD
エンジン
形式:1.5L直列4気筒DOHC
型式:L15D型
排気量:1496cc
ボア×ストローク:73.0mm×89.5mm
圧縮比:10.6
最高出力:118ps(87kW)/6600pm
最大トルク:142Nm/4300rpm
燃料:レギュラー
燃料タンク:40L
燃費:WLTCモード 16.2km/ℓ
 市街地モード:12.3km/ℓ
 郊外モード:17.2km/ℓ
 高速道路モード:18.0km/ℓ
トランスミッション:CVT
車両本体価格:234万9600円

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…