非大気依存推進(AIP)システムとはなにか?
海上自衛隊の通常動力型潜水艦「そうりゅう」型の1番艦は2009年に就役した。以降、同型艦が相次いで建造、就役している。本艦の主機にはディーゼル・スターリング・エレクトリック方式を採用している。非大気依存推進(AIP)システムと呼ばれる方式の機関部を搭載した潜水艦だ。AIPとは「Air-Independent Propulsion」の略称だ。
AIPシステムとは、ディーゼルエンジンの稼働に必要な大量の大気を必要としない方式だ。ディーゼル機関に必要な大量の酸素を獲得するためのシュノーケリング航行(浮上して吸気すること)をせずに、長期間潜航したまま活動することができる技術の総称である。言葉の意味合いでは、原子力潜水艦の核動力を含まず、非核・通常動力のディーゼル機関を補う技術や設備を示すものだという。
AIPシステムは、水中航行時間の延伸を狙ったもので、あくまでも補助動力としての運用となるため、使用は低速での省エネ航行に限られるという。一方で、高速域を受け持つのは従来通りのディーゼル機関発電機が担う。つまり「そうりゅう」型潜水艦は通常動力のディーゼル機関発電系統とスターリング機関発電系統を併せ持つことで、長期間の潜航活動を実現している潜水艦なのだ。
AIPシステムの中核は液体酸素とディーゼル燃料(ケロシン)を使う外燃機関のスターリング機関発電機が担う。スターリング機関とは、シリンダー内のガスや空気を外部から加熱・冷却し、その体積変化(加熱膨張と冷却収縮)から運動(仕事)を取り出す機関を指す。
ちなみに本艦を含めた潜水艦は、推進器であるスクリュープロペラを回す主動力を電力(蓄電池)で賄っている。ディーゼル機関などの内燃機関や、その他の外燃機関など、いわゆるエンジンは発電装置であり、そこで生み出した電力を蓄電池に貯め、その電力を推進力に使用している。水中での静粛性を狙った結果だ。静かに対象へ接近して監視や偵察、情報収集したりするなど、隠密行動を主任務とする潜水艦に電動力は最適なものだ。
通常動力型と呼ばれる潜水艦の主機の多くはディーゼル機関が主流だ。内燃機関であることから燃料や大気の補給が必要で、潜航活動期間は短くなる。もうひとつが、米海軍などにみられる原子力潜水艦だ。原潜は稼働期間の長さが最大の特徴で、原子力機関を起動させれば長期間の潜航が可能だ。理屈上、潜りっぱなしも可能だ。
しかし原潜は騒がしい。活動中の原潜の原子力機関は止めることができないから、静音化技術で対策されているとはいえ、稼働中の機関部からの騒音をなくすことはできない。一方、通常動力艦は機関を完全停止することが可能だ。機関部の騒音を完全になくすこともできる。海自潜水艦の乗員は隠密潜航中に音を出さないで活動する。トイレの排水も控えるだろう。こうしたスキルを持った海自サブマリナーたちが動かすステルス通常動力艦の存在は大きい。
潜水艦「そうりゅう」型は、1番艦「そうりゅう」から10番艦「しょうりゅう」までがスターリング機関を搭載している。2020年就役の11番艦「おうりゅう」ではAIPシステムにリチウムイオン蓄電池を採用した。従来の鉛電池より各要素で高性能であり、潜水艦での使用特性に合っている。蓄電池技術の進化にともなって水中連続航行性能も向上している。