2023年12月に埼玉県上尾市で開催された「2023アリオ上尾クリスマスファイナル クラシックカーミーティング」では、1960年代や70年代にかけてのいわゆる旧車よりネオクラシックカーと呼ばれる新しい年式のモデルが数多く展示された。とはいえ往年のキャブレターモデルも数多く展示され、相変わらずの人気ぶりを博していた。そのなかでも希少車と呼べるモデルが数台あり、見る人が見れば唸ってしまうような発見があったはず。今回紹介するのもそんな1台で、旧車イベントでも滅多に見ることができない初代日産バイオレットだ。
バイオレットは1973年に発売された新型車。新型車として開発された理由は従来のブルーバードが上級移行したことを受けてのもの。大ヒットした510型ブルーバードに代わる610型はブルーバードUという名前になり、1.6リッターから2リッターエンジンを搭載するようになる。これはライバルであるコロナがコロナ・マークⅡを加えたことに対する処置で、2リッターはブルーバード初となる直列6気筒エンジンが採用され、従来からの1.4リッターエンジンなどが廃止された。そのためブルーバードの後継車として新たに1.4リッタークラスの新型車が必要とされていた。
そこで開発されたのがバイオレットだったというわけ。ブルーバードの後継らしく、初代バイオレットに与えられた型式は710型。搭載エンジンは1.4リッターから1.6リッターのL型4気筒とされ、上級モデルの1600にはブルーバードで用いられたスポーツグレードの象徴であるSSSの名が冠された。このSSSにはフロントこそストラット式で他グレードと共通だが、リヤサスペンションにはセミトレーリングアーム式の独立懸架が採用された。ボディタイプは4ドアセダンのほかに2ドアセダンと2ドアハードトップを用意。後に5ドアのライトバンも追加されている。
実質的にブルーバードの後継車らしくSSSはラリーに参戦する。素性の良さから国内ラリーで活躍するが、印象に残ったのはなんといっても1977年のサザンクロスラリー。エンジンをDOHC16バルブのLZに変更していたということもあり、総合優勝を獲得しているのだ。さらに2世代目であるA10型バイオレットはその後のサファリラリーで連続優勝するなど、ラリーでの強さを見せつけた。
ところが市販車は大きくシェアを伸ばすこともなく、比較的地味な存在だった。70年代といえば排ガス規制が強化された時期であり、同時にオイルショックが重なって自動車市場にとって試練が続く。そんな時代だからスポーツカーは悪と見なされたほどで、高性能より環境性能や燃費性能が重視された。L型4気筒エンジンのバイオレットも順次強化される排ガス規制に適合させていき、スポーティさは影を潜めてしまう。さらにユーザーの意識も上級思考へ移りつつあり、開発意図が裏目に出てしまう。
そのため中古車人気も芳しいものとはいえず、年を経るにつれ数を減らしてしまう。SSSであれば需要があったものの、シングルキャブレター仕様や排ガス規制モデルは早々に姿を消していった。ところが2ドアハードトップの1400DXという非常にレアなバイオレットが生き残っていた。今回紹介する個体のオーナーは53歳になる廿楽尚さん。意外にも50代と若いオーナーだが、なぜバイオレット、しかも1400だったのだろうと思ってお話を聞いた。
廿楽さんも好んで選んだわけでなく偶然にもバイオレットを手に入れた。というのも義理のお父さんが長く維持してきた個体で、年齢的に維持するのが困難になったため引き継ぐこととなったのだ。こうしたケースでない限り、なかなか生き残る例は少ないだろう。ただし廿楽さんも入手後は大いに気に入っているそうだ。今はなき2ドアハードトップの流麗なスタイルや、1.4リッターながらスムーズに回るL14エンジンは意外にも乗っていて楽しいそう。同じL型4気筒でもツインキャブレターのL16などは人気だが、L14も高回転が苦手なわけではなく軽快なフィーリングが楽しめる。また走行距離が伸びていないことも好調さを維持している理由で、なんと3万キロ台でしかない。乗る機会が多かったわけでもないのに長いこと車検を継続してきたのはお父さんの愛情を受けてのもの。
廿楽さんが乗り始めてから、ブレーキとクラッチのマスターシリンダー、さらにはイグニッションコイルを新品に交換している。今後も楽しく乗り続けるには事前整備が大事だということ。しかもフルノーマルを保っているから、社外品を使ってしまうと価値が半減してしまう。貴重な純正部品を探して維持するには苦労もありそうだが、今のままの姿で残してほしいと思える個体だ。