「H」マークも変えるホンダの本気 独自開発のBEVは2026年グローバル投入へ

「Honda 0(ゼロ)シリーズ」見参! ホンダ、2026年投入の独自開発の本命BEVコンセプトをラスベガスで公開

HONDA 0シリーズ
ホンダは、新しいグローバルBEVシリーズを米・ネバタ州ラスベガスで開催されているCES2024で発表した。「Honda 0(ゼロ)シリーズ」である。そのコンセプトモデルとして、「SALOON(サルーン)」「SPACE-HUB(スペースハブ)」を世界初公開した。0シリーズは、2026年からグローバル市場に投入される。

ホンダが未来を賭ける「0(ゼロ)シリーズ」

新グローバルBEVシリーズの「Honda 0」のロゴマーク
0シリーズの開発アプローチは「Thin, Light, and Wise.」

ホンダがCESで発表した「Honda 0(ゼロ)シリーズ」には、「ホンダのクルマづくりの出発点に立ち返り、ゼロからまったく新しいEVを創造していく」という決意が込められている。ホンダのクルマづくりの出発点には、「M・M思想(マン・マキシマム/メカ・ミニマム)」と「操る喜び」「自由な移動の喜び」がある。では、「まったく新しいEV」とはなんだろうか?

ホンダは2024年にGMとの共同開発モデルであるPrologue(プロローグ)とアキュラZDXを北米に投入する。中国ではすでに、e:Nシリーズを発売。2027年までにBEV10機種を投入、2035年までに全モデルをBEV化する。

ホンダが0シリーズにかけた想い
井上勝史氏は1963年生まれの60歳。1986年にホンダ入社後、ホンダの欧州法人、四輪事業本部事業企画統括部マーケティング企画室長、ホンダのインド法人、欧州法人の社長を経てホンダの中国法人の総経理3年務め、2023年4月に執行役専務・電動事業開発本部長に就任した。

しかし、本命は「その次」である。じつはホンダは、GMと共同開発する予定だった量販価格帯の中小型BEVの開発中止を明らかにしている。0シリーズこそが、本命だ。独自開発するBEV専用アーキテクチャーによるグローバル戦略BEVシリーズで勝負をかけるわけだ。

この0シリーズ開発のリーダーが井上勝史氏(本田技研工業執行役専務電動事業開発本部長)だ。2023年4月に発足した電動事業開発本部は5000人弱の陣容で生産チームまで含めて一気通貫で開発できる体制が整えられた。0シリーズの開発モデルは、すでにテストコースを走っているという。「これまでのクルマとは一線を画すクルマになる」(井上氏)という。

南 俊叙氏は、1967年生まれの56歳。1990年に本田技術研究所入社。ホンダ/アキュラのデザイン統括を経て、2020年にデザインセンター・センター長に就任。2022年4月から本田技術研究所デザインセンター担当常務取締役。
假屋 満氏は、1967年生まれの56歳。1986年にホンダ技術研究所に入社。シャシー設計に携わったのち、シビックタイプRのLPL、CR-VのLPLを担当。2021年にアメリカンホンダに赴いたのち、2023年4月に電動事業開発本部四輪事業戦略統括部BEVビジネスユニットオフィサーに就任した。

電動開発本部四輪事業戦略統括部BEVビジネスユニットオフィサーの假屋 満氏は「0のコンセプトについては、かなりイケルと思っている」と自信を見せた。

デザインは、南 俊叙氏(ホンダ技術研究所常務取締役デザインセンター担当)が新時代の「M・M思想」をカタチにする。この3人が、ホンダのBEV開発のキーマンであることが明らかになった。

中国市場を熟知している井上氏は
「中国では一度BEVを購入したユーザーは二度とエンジン車に戻ってこないという調査結果がある。BEVが技術進化を遂げて、完全に市民権を得た。この動きは国によって濃淡はあるが、グローバルで広がってくるのではないか。長期的にはEV100%の時代が来るのではなかろうか、と思っている。ホンダは2040年を目標にしている。EV市場が踊り場にあることは事実だが、長期的に見たらEV化していくのは間違いない。もうひとつ言えるのは、我々はEVではあくまでも後発になってしまったので、キャッチアップするためにも大至急グローバルモデルを出して、効率を追求しなくてはいけない。そのモデルが0シリーズだ」と語った。

右から南氏、井上氏、假屋氏、そして電動事業開発本部 四輪事業戦略統括部BEV開発センター BEV商品企画部部長の中野弘二氏。2023年12月にホンダ青山本社で開催された説明会での様子。

0シリーズを象徴するコンセプトモデル2台をワールドプレミア

SALOON 0(ゼロ)シリーズのフラッグシップコンセプト

Honda 0シリーズ「SALOON」

今回、ラスベガスでお披露目された0シリーズのフラッグシップコンセプトがSAOON(サルーン)だ。BEV時代にホンダのM・M思想を昇華させたデザインは、「THE ART OF RESONANCE」がテーマで、「個々の感性を共鳴させ、独創を生みだす」という。ひと目で他のクルマとまったく似ていない低全高でスポーティなスタイルとなっている。具体的なボディサイズは未発表だが、明らかに低い全高と極限まで切り詰められたフロントオーバーハングが特徴的だ。

南氏は「クルマ好きのかたにも納得していただけるようなスポーティでダイナミックなクルマをデザインした」と語る。スタイリッシュな外観からは創造できないほどの広い室内空間も両立しているという。また、インパネはシンプルで直感的な操作が可能なHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)を採用。洗練されたシームレスなUI(ユーザー・インターフェース)を実現した。「目指すのは世界一美しいHMI」(南氏)だ。

低い全高、切り詰められたフロントオーバーハング、他のどのクルマにも似ていないプロポーションだ。
0で目指す「Thin, Light, and Wise.」を表現したSALOON。他とは圧倒的に違う大胆なプロポーション。「クルマ好きのかたにも納得していただけるようなスポーティでダイナミックなクルマをデザインした」(南)という。
SALOONの前方視
ホンダの基本思想「M・M思想」を新EV専用アーキテクチャーで実現する。BEV専用だからエンジンルームが不要。低全高で独創的なプロポーションで、高い空力性能を達成。そのうえで、ボディは水平方向に拡張され、視界と空間を両立できるという。ステアリングはステアバイワイヤーになる。
SALOONの後方視
SALOONのインパネはシンプルで直感的な操作が可能なHMIを採用。全高は低いがルーフは調光ガラスになっていて、解放感も高く室内は驚くほど広くできるという。内外装はサステナブルな素材をこれまでないアートな次元で使う。

SPACE-HUB 人と人、人と社会をつなぐハブ

ホンダ0シリーズ共通のデザイン言語(つまりSALOONとデザイン言語は同じ)のもと、「人々の暮らしの拡張」を提供することをテーマに開発したのがSPACE-HUBだ。「ユーザーの『やりたい』に即座に応えるフレキシブルな空間を備えるSPACE-HUBが人と人、人と社会をつなぐハブとなり共鳴を生み出すという思い」が込められている。

SALOONとSPACE-HUB、どちらのデザイン/パッケージングも、ホンダ独自開発の新しいBEV専用アーキテクチャーなしには成立しない。

SPACE-HUBの室内空間
圧倒的な広さの空間

ホンダ独自開発のBEV専用アーキテクチャー

新規開発するEアーキテクチャーは、RWDがベースとなる。ここに載るビークルOSもホンダが独自開発する。BEVとしては少ないバッテリー搭載量で300マイル以上の航続距離、急速充電は15分以内を目指す。0には、2020年代後半に自動運転レベル2+を全モデルに適用する計画だ。

今回お披露目された「SALOON」と「SPACE-HUB」はどちらもホンダが独自開発するBEV専用アーキテクチャーを採用する。開発アプローチは「Thin, Light, and Wise.」(シン・ライト・アンド・ワイズ)だ。これまでのBEVが「Thick, Heavy, bus Smart」であることのホンダ流のアンチテーゼだ。「厚くて重い」から「薄くて軽くて、賢い」へ新しいBEVの価値の創造を目指す。

新アーキテクチャーは、後輪駆動(RWD)をベースとする。各社が開発する次世代BEVの多くはRWDを採用しているから、次世代BEVのスタンダードはRWDベースで、AWD化する際はフロントにモーターを追加搭載することになるようだ。

ハンドリングについては、現行HEV比デフロントの応答性(重心点スリップ角の外向きピーク値×立ち上がり時間=deg/s)が50%以上向上するという。前後重量配分は、リヤ寄り。ステアバイワイヤーも採用する。詳細は不明だが、「3Dモーション統合制御」によるモーションマネジメントシステムでドライバーの思い通りのコントロールを実現するという。

今後、SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)の世界で重要となるビークルOSもホンダは独自開発する。

少ないバッテリー搭載量で300マイル(約482km)以上の航続距離

バッテリーの取り組み BEVの最も重要な要素であるバッテリーについては、北米ではGMとのアライアンスで「Ultium(アルティウム)バッテリー」を使うほか、韓国LGエナジーソリューションと合弁でバッテリー生産をする。日本ではAESCから供給を受けるほかに、GSユアサとの共同開発も進める。中国ではバッテリー最大手のCATL(寧徳時代新能源科技)との連携を強化、バッテリー調達合弁会社を設立し、e:Nシリーズ向けに123GWh分を調達する。2020年代後半の投入を目指す全固体電池は、現在独自開発中で2024年に栃木県さくら市に430億円投資し、実証ラインを立ち上げる。

0シリーズでは、コンセプトの「Light」を実現するために、少ないバッテリー搭載量で300マイル(約482km)以上の航続距離を実現する。具体的は電気変換効率やパッケージングに優れたe-Axle(イーアクスル)、軽量で高密度なバッテリーパック、高い空力性能により、最小限のバッテリー搭載量で充分な航続距離を目指す。

具体的な搭載量については明かされなかったが、少なくとも航続距離は500km程度として、100kWhオーバーのようなバッテリーは積まないということだろう。Prologueがバッテリー85kWhで航続距離が300マイルだから、少なくともそれ以下、資料のグラフを見ると、大幅に少ないバッテリー搭載量で可能にする目標のようだ。

充電時間については、2020年代後半に投入する0シリーズではSOC15%~80%の急速充電時間を10~15分程度に短縮する。また、使用開始から10年後のバッテリー劣化率10%以下を目指す。バッテリーの劣化率が低ければBEVの残存価値を高水準に維持できるわけだ。

新「H」マークに込めた覚悟

これがホンダの新「H」マークだ。0シリーズから採用される。

ホンダの覚悟は「H」マークの刷新にも表れている。44年間使い続けてきたHマークを0シリーズから新マークに変えていく。

現在の「H」マークは1981年に改訂されて以来、微調整を受けながら使い続けられてきた。今回、ホンダの四輪車の象徴である「H」マークを新たにデザインすること、変革への思いを示す。両手を費遂げたようなデザインは、モビリティの可能性を拡張し、ユーザーに向き合う姿勢を表現している。

こちらが現在の「H」マーク
1963年のホンダT360
0シリーズの新「H」マーク

あらためてホンダ最初の四輪車T360や、初期のモデルの「H」マークを見てみると、新しいHマークとの共通点があるように思える。このあたりも「原点に回帰し、勝負をかけるホンダ」の覚悟が読み取れる。

この新「H」マークは、0シリーズから採用になる(つまり、現行ホンダ車には付かない)。2040年にEV/FCEV販売比率100%を目指すホンダだから、2040年には新Hマークがホンダ全車に付いていることになる。

0シリーズは2026年の北米市場を皮切りに、日本、アジア、欧州、アフリカ・中東、南米と、グローバル各地域へ投入される。ホンダの本気、期待せずにはいられない。

キーワードで検索する

著者プロフィール

鈴木慎一 近影

鈴木慎一

Motor-Fan.jp 統括編集長神奈川県横須賀市出身 早稲田大学法学部卒業後、出版社に入社。…