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ヘルメットを被ってもルーフに頭がつかえない(身長184cmでも)
今回発表されたGRヤリス(発売は2024年春頃を予定)は「進化型」を名乗るだけあり、従来からある6MT車も含めて進化を遂げている。エンジンの最高出力は200kW(272ps)から224kW(304ps)へ、最大トルクは370Nmから400Nmに向上。よりハードな走行に耐えうるシャシー&ボディとするため、スポット溶接打点数と構造用接着材の塗布部位を増やしてもいる。
サーキット(袖ケ浦フォレストレースウェイ)ではまず、進化型GRヤリス・プロトタイプ“RZ High Performance”の6MT車を試乗した(現行型の同仕様と比較試乗もした)。乗り込んですぐに現行型との変化を体感する。ヘルメットがルーフに当たらないのだ。
進化型は着座位置が25mm低くなっている。おかげでヘルメットがルーフに当たらずに済み(ちなみに、筆者の身長は184cm)、快適なドライビングポジションがとれるようになった。この変化は大きい。不自然な姿勢を強いられるとドライビングに集中できないからだ。聞けばドライビングポジションの改善を求める声は市場から多くあったらしく、その声に応えた格好である。
インストルメントパネルは全面的に変更されており、クリアな視界が前方に広がっている。上に突き出していたセンターディスプレイの位置が下がってセンタークラスターと一体化し(50mm下がっている)、そのセンタークラスターはドライバー側に傾いている。この傾きは、4点式シートベルトで体をガッチリとシートに固定した状態でも、左手を伸ばせばスイッチ類に手が届くようにするためだ(3点式シートベルトなら多少遠くても上体を前傾させれば手は届くが、4点式の場合はそうはいかない)。
進化型GRヤリスではシフトレバー前方のダイヤルで切り換える4WDモードセレクトに加え、ドライブモードセレクトが設定された。4WDモードセレクトの左側にトグルスイッチが追加されている。電動パワーステアリング、エアコン、パワートレーンの設定を切り換えることが可能で、好みの特性に設定できるCUSTOMに加え、SPORT、NORMAL、ECOが選択可能だ。
現行GRヤリスのアナログメーター+一部液晶から12.3インチフルカラーTFTメーターへの変化はドライブモードセレクトの導入で大きな効果を発揮している。ECOおよびNORMALモードで一眼リング表示のエンジン回転計は、SPORTモードで横バー表示に変化。サーキット走行限定のサーキットモードでは、より直感的に視認できる情報表示に変化する。左右の各ウインドウに表示する情報も切り替え可能だ。
4WDモードセレクトの制御も変化している。現行型はダイヤルの中央を押すとNORMAL(60:40)、左に回すとSPORT(30:70)、右に回すとTRACK(50:50)に切り替わる。進化型は中央部を押すとTRACK(60:40〜30:70)、ダイヤル左がNORMAL(60:40)、右がGRAVEL(53:47)になった。SPORTがGRAVELに変更になったこと、固定配分だったTRACKモードが走行状態に応じて前後トルク配分を可変制御するようになったのが変化点である。
サーキットで8速ATを試す
レシオがクロースした8速の変速段を持つGR-DAT仕様には、まずサーキットで試乗した。この仕様にはローンチスタートのモードがあり、ドライブモードセレクトでSPORTを選択し、VSC(横滑り防止機能)をエキスパートもしくはオフにし、ブレーキを踏んだまま左右のパドルを1秒引くと「Launch Ready」になり──という手順を踏むと機能するのだが、試乗時間が限られていたこともあり(筆者に余裕がなかった)、試していない。手順どおり機能させれば、MT車と遜色ない、あるいはMT車を凌駕する発進加速を披露するポテンシャルを秘めている。
GR-DATは過酷なスポーツ走行に耐えられるよう、変速機構に用いる遊星歯車の固定に使うクラッチ/ブレーキに高耐熱湿式摩擦材を採用しているし、世界トップレベルの変速スピードを実現するために高応答タイプのリニアソレノイドバルブを採用している。冷却性を確保するため、水冷ATFクーラーを採用してもいる。耐久性については競技やテストでさんざん確認しているはずで、心置きなくサーキット走行に臨むことができる。
「ドライバーの意思を汲み取るギヤ選択を実現」とのことだが、クルマが持つ性能を存分に引き出せるプロドライバーならともかく、マージンを残しておっかなびっくり運転するドライバー(つまり筆者)にとっては、高いギヤ段を保ったままコーナーに進入し、「進入時にシフトダウンしてほしかったんだけど」と感じるシーンが散発した。強い減速Gを発生させてコーナーに進入したほうが、意思を汲み取ったギヤ選択をしてくれる率が高かった。
意思どおりの変速を優先するなら、シフトレバーを右側に倒してMモードを選択すればいい。レバーの位置は現行GRヤリスのCVT搭載モデルよりも75mm上昇させ、MTモデルのシフトレバーと同等にしている。結果、左手を自然に降ろした位置にレバーがあり、操作性は抜群だ。モータースポーツでの学びを生かし、押し操作でシフトダウン、引き操作でシフトアップする操作へと従来から反転。減速Gがかかるときに押し、加速Gがかかるときに引くことになり、体の動きとレバー操作の動きが一致するため無理がない。
ドライブモードセレクトでSPORTを選択すると、GR-DATの変速フィールはレスポンス重視になる。シフトレバー/パドル操作に対する変速時間は従来8速ATの半分程度だし、スピードを意識したスポーツカーのATの4分の3程度、スポーツカー向けDCTと同程度で、すなわち速い。
意思どおりのレスポンスで変速してくれるし、意図して変速時のショックを発生させ、メーターで確認せずとも体感で「変速した」ことを認識することができる。MT車だと変速操作に気を取られ(そこが醍醐味でもあるのだが)、ブレーキングポイントやライン取りがおろそかになりがち。GR-DAT車の場合は変速操作から解放されるので、ブレーキングポイントやライン取りに意識を集中できる。
ダート走行で8速ATのありがたみを知る
GR-DATのありがたみはダート走行でより強く感じた。ここでは進化型GRヤリス・プロトタイプの6MT車とGR-DAT車を試乗した。6MT車には競技用ハンドブレーキが装着されていた。全日本ラリー選手権参戦での学びを生かし、パーキングブレーキをステアリングホイール横に移動。角度を立てることで引きやすさを向上させ、操作時の負担軽減を狙う。RCにメーカーオプションだ。
「サイドブレーキはシフトレバーの後方にあるもの」という刷り込みが強いためか(?)、サイドブレーキを引くタイミングではつい手を真下に降ろしてレバーをまさぐってしまった(当然そこにレバーはなく、とっちらかる)。せっかく理想的な位置にレバーがあったのに生かし切れなかったわけだが、レバーの配置変更が理に適っているのは一目瞭然だ。
試乗コースでは2速で旋回しながら急減速しつつ、1速へのシフトダウン後にパーキングブレーキのレバーを引いて向きを変えるという、短時間に複合的な操作を求められた。このシーンでは通常の位置にレバーがあろうとなかろうと、変速操作から解放されることが何より大きい。ブレーキ操作とステアリング操作、パーキングブレーキを引くタイミングに意識を集中できるからだ。
サーキットではMTの操作を楽しみたい派の筆者も(タイムを重視するならGR-DATだが)、ダートでは迷わずGR-DATを選択する。そして付け加えておきたいのは、舞台がサーキットだろうとダートだろうと、MTだろうとGR-DATだろうと、進化したGRヤリスを振り回すのは抜群に楽しいということである。
新型GRヤリス RZ"High Performance" 全長×全幅×全高:3995mm×1805mm×1455mm ホイールベース:2560mm 車重:1280kg(8速ATモデルは1300kg) サスペンション:Fストラット式/Rダブルウィッシュボーン式 エンジン形式:直列3気筒DOHCターボ エンジン型式:G16E-GTS 排気量:1618cc ボア×ストローク:87.5mm×89.7mm 圧縮比:ー 最高出力:304ps(224kW)/6500rpm 最大トルク:400Nm/3250-4600rpm 過給機:ターボチャージャー 燃料供給:DI+PFI 使用燃料:プレミアム 燃料タンク容量:50ℓ トランスミッション:6速MT(iMT) 駆動方式:AWD WLTCモード燃費:- 市街地モード- 郊外モード- 高速道路モード-