ファミリアとロータリーエンジンの組み合わせといえば、1968年に発売されたファミリア・ロータリークーペを思い浮かべる人も多いことだろう。コスモスポーツに続くロータリーエンジン搭載車で、小柄なボディとパワフルなロータリーエンジンの組み合わせはとてもスポーティ。レースの世界でも王者スカイラインGT-Rに肉薄する戦いぶりで話題になったもの。ところがその後はオイルショックや排出ガス規制が重なり、ファミリアからロータリーエンジン搭載モデルがなくなってしまう。
ロータリーエンジン搭載モデルとして新たにカペラやサバンナが加わったことで、ファミリアはレシプロエンジンのみの展開となっていく。排出ガス規制が吹き荒れた1977年、その流れを汲んだフルモデルチェンジが実施されファミリアは3代目へ進化する。それまでのセダン、クーペスタイルを廃止して世界的な流行となりつつあったハッチバックスタイルが与えられた。ただ駆動方式はFRを採用し続けていたため、ロータリーエンジンのラインナップがないことに不満を覚えるユーザーも多かった。
その後、ファミリアは1980年のモデルチェンジでFF方式に切り替わる。そのため一部のマニアはFRだった3代目に目を向ける。雨さんことRE雨宮もその一人で軽自動車のシャンテにロータリーエンジンをスワップしたことが評判となり、ファミリアにもロータリーエンジンをスワップしてしまう。しかも3代目ファミリアには商用登録となるバンが存在し、バンモデルは4代目にモデルチェンジした後も生産され続けていた。タマ数が豊富だったことから、ベース車に困ることはない。数台のファミリアバンロータリーを製作した実績を持つ。
東京オートサロン2024の会場に、昭和の時代を思い起こさせる1台が展示された。それこそこのファミリアバンでRE雨宮によりロータリーエンジンがスワップされているのだ。名付けて「昭和の雨宮ファミリアバンロータリー」。過去に製作したようにロータリーエンジンをファミリアバンに載せてしまうわけだが、時代は令和。選ばれたエンジンは12Aなどの古いものではなく13Bとしている。しかも13Bは4ミリのブリッジポート吸気としてφ45mmのウエーバーキャブレターによりチューニング。もちろんエキゾーストマニホールドとマフラーも変更され吸排気効率を格段に向上させている。排気系はいずれもPOWER CRAFT製のワンオフ品とされている。
これらチューニングにより13Bは210psものハイパワー仕様となっている。当然足回りの強化も必須で、フロントにはSA22CサバンナRX-7用のサスペンションをベースにスペシャルセッティングが施された。駆動輪となるリヤはリーフリジッドによる固定軸のため、強化リーフとダンパーに変更するくらいしかできないが、前後ともに16インチのエンケイホイールは7Jを選択。195/45R16タイヤとなることで、走りも楽しめるようにされている。
昭和の時代を思い起こさせるファミリアバンだが、現代らしい装備も加えられている。なんと、この時代にはなかったエアコンを装備しているのだ。国産旧車のネックとしてエアコンやクーラーがないことが挙げられる。ただし、これから楽しむのであれば装備しておきたいところ。最近では軽自動車用のユニットを流用したり、電動エアコンなども選べるため旧車への装着率が高まっている。これはうれしいポイントだろう。
すでに乗用登録のハッチバックですら残存数が少なく、激レア車といっても過言ではない3代目ファミリア。生産期間が乗用モデルより長かったとはいえ、バンだって探すのは大変なことだろう。だからこそ、ロータリースワップによる他車では味わえない楽しみ方は格別ではないだろうか。ちなみにこのファミリアバンはベース車からの板金塗装仕上げを長野県の郷田鈑金が手がけている。同時に展示されたシャンテロータリーを製作したショップであり、ロータリー好きには有名。この2台が並んで走っている姿を見てみたいものだ。