大改良を受けたマツダ・ロードスターはまさに、最新にして最高のロードスターだ

現行ND型ロードスターのデビューは2015年。すでに9年目を迎えている。が、その魅力はまったく色褪せない。さまざまな規制に対応しつつ進化を続けるNDロードスター。最新モデルは、「最も大きな商品改良」を受けた。その進化ぶりを体感した。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)FIGURE:MAZDA
ロードスターRS(6MT)車両価格:367万9500円

NDロードスター史上、もっとも大きな商品改良

2023年10月5日に大幅商品改良が行なわれたマツダ・ロードスターは、サイバーセキュリティ法に対応するために電気/電子プラットフォーム(E/Eアーキテクチャー)を刷新した。これにともない、電動パワーステアリングやDSC(ダイナミック・スタビリティ・コントロール。いわゆるESC)、エンジン制御モジュールなどの電子ユニットを刷新する必要があった。

この機会を生かし、マツダはロードスターの持ち味である人馬一体の走りを進化させることにした。ダイナミクス性能における進化ポイントは、以下の6つだ。

■シャシー領域
1. 電動パワーステアリングの進化
2. 「アシンメトリックLSD」の採用
3. モータースポーツ用DSC制御「DSC-TRACK」の追加

■パワートレイン領域
4. SKYACTIV-G 1.5エンジン出力向上
5. 新制御によるダイレクト感/レスポンスの向上
6. 吸気デバイスによるエンジンサウンドの進化

操安性能開発部 首席エンジニアの梅津大輔氏によれば、これらの進化ポイントは、「軽快さと安定さの両立」を目指したものだという。「ヒラヒラとした軽快な、街なかでも楽しいサスペンションの動きを維持しながら、ドライバーの操作に対する応答性を改善し、モダンなスポーツカーとしての安定性・安心感を確保する」のが狙いである。

EPSの進化は実感できる

操安性能開発部 首席エンジニアの梅津大輔氏

順に説明していこう。電動パワーステアリング(EPS)は制御だけでなくハードも変更した。デュアル(ダブル)ピニオン式であることに変わりはないが、従来はセンター寄りにあったアシスト交点をラックエンド側に移すことで、ガタの押さえとして設けていたブッシュをなくすことができ、メカニカルなフリクションを低減している。従来は片持ち的な支持だったが、大幅商品改良版ではラックの両端でしっかり支持する構造になった。

EPSのサプライヤーは日立アステモ(旧ショーワ)で変更はない。搭載の向きは異なるが、ハードウェア自体はホンダ・シビック・タイプRが搭載するユニットと同じだ。大幅商品改良にあたり、従来はサプライヤー側の制御だったモーターアシストのロジックをマツダ内製に変更している。「戻し側のアシスト制御の緻密さを改善できたので、より自然でダイレクトなフィードバックが実現できた」と梅津氏は説明する。

サプライヤーは日立アステモ(旧ショーワ)で変更なし。デュアルピニオン式であることも変わらないが、ハードウェア、制御は変更されている。

また、トルクセンサーの容量をアップ。これにより、高速・高G領域まで途切れのない一貫したアシストが実現。従来モデルではハイグリップタイヤを履いてサーキットを走るとアシストが足りなくなる現象があったというが、アシスト量を1.5倍にしたことで、「ハイグリップタイヤを履きこなせるようになった」と話す。

新旧ロードスターを乗り比べてみると、EPSの進化がよくわかる。操舵系全体の剛性が高くなったように感じるし、総じてしっとりしたフィーリングだ。相対的にではあるが、操舵した際の軽々しさがなくなり、しっかり感が増している。クルマのクオリティがワンランクアップしたような印象を持った。

アシンメトリックLSDでコーナリング性能が洗練された

新型のRS。右側に見えるのがシンメトリックLSDだ。サスペンションは、ハードもセッティングも変更なし。

商品改良前のロードスターはスーパーLSDを設定していたが、大幅商品改良版はアシンメトリックLSDを適用した。どちらもGKNドライブラインジャパン製である。アシンメトリックLSDはマツダとGKNが共同開発した。

駆動輪(ロードスターの場合は後輪)左右の差動(回転差)を制限するLSD(リミテッド・スリップ・デフ)は一般論として、高G旋回時に旋回内輪が浮くようなシーンで効果を発揮する。これはLSDが持つ機能の一面で、オープンデフの場合は高G旋回時に内輪が浮いてしまうと、浮いた内輪が空転して外輪に駆動力が伝わらなくなってしまう。

このような現象を防ぎ、内輪が浮いてしまうような状況でも外輪にトルクを伝達する仕組みを持つのがLSDだ。こうした利点が得られる半面、街なかを走るようなシチュエーションでは差動フリクションがあるため曲がりにくさにつながっていた。これを解消すべく開発したのがアシンメトリックLSDである。

差動制限力とは左右駆動輪の回転差を制限する力、ヨー減衰とはクルマの旋回運動を抑制する効果のこと。

アシンメトリックLSDは、改良前のロードスターが採用していた円すいクラッチ型のスーパーLSDをベースに、カム機構を加えた構造となっている。スーパーLSDは加速側(ドライブ側)と減速側(コースト側)で同じ(対称な=シンメトリックな)差動制限力を備えていた。非対称の意味を持つアシンメトリックLSDはその名のとおり、加速側と減速側で異なる差動制限力を実現している。しかも、過去の他社適用例と異なり、減速側のほうが強いのが特徴。よりデフロック寄りの設定とし、ヨー減衰(クルマの旋回運動を抑制する効果)を強めた。

「減速旋回のシーンではリヤの荷重が減るため、ロードスターのサスペンションだとどうしても少し不安定になりがちでした。そこで、デファレンシャルの差動制限力でヨー減衰を発生させ、安定させています」

低速域の軽快さはイニシャルトルクを弱める(差動フリクションを低減する)ことで実現した。オープンデフ側に近づけたことになる。スーパーLSDは2本のコイルばねでイニシャルトルクを付加していた。2箇所で押さえつけていたため荷重が分散し、ミクロで観察するとスティックスリップのような現象が起きていたという。

アシンメトリック(非対称)LSDは、円錐クラッチLSD(従来のスーパーLSD)にカムを追加し、減速側・加速側それぞれに違うカム角を設定した。
左が新開発のアシンメトリックLSD、右が従来型のスーパーLSD

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「 大改良を受けたマツダ・ロードスターはまさに、最新にして最高のロードスターだ」の1枚めの画像

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「 大改良を受けたマツダ・ロードスターはまさに、最新にして最高のロードスターだ」の2枚めの画像

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「 大改良を受けたマツダ・ロードスターはまさに、最新にして最高のロードスターだ」の4枚めの画像

アシンメトリックLSDはサイドギヤとカムリングの間に皿ばねを配置してイニシャルトルクを与える構造。荷重が全周に均等にかかるため、トルクを落とすことができた。今回はワインディングロードでの試乗だったため確認できていないが(意識もソコに向いていなかった)、市街地で取り回すようなシーンでは改良前より軽快感が増しているはずだ。

コーナーへのターンインで旋回内輪側が浮き上がるのがはっきりわかるようなシーンでは、アシンメトリックLSDの恩恵を明確に感じる。リヤは浮き上がる素振りを見せず安定した姿勢を保つので、従来型のように「あれ? このままで突っ込んで大丈夫?」といった不安感を抱かずに済む。フワッと浮き上がると、「修正操舵が必要になるかも」と身構えることになるが、大幅商品改良版はそれがないので、疑心暗鬼にならずにコーナーに向かっていくことができる。スッキリ感が増したEPSの効果も相まって、動き全体がワンランク洗練された印象だ。

アシンメトリックLSDの効果

モータースポーツ用DSC制御「DSC-TRACK」は、サーキット走行に最適化したDSCの制御である。ステアリングコラム右側にあるスイッチを長押しすると、機能がオンになり、メーターにアイコンが点灯する。

従来の制御はドライバーの期待よりも早いタイミングで介入し、気分を邪魔することがあった。「攻めているのに余計なことして」と。DSC-TRACKはドライバーのカウンターステア操作のみをトリガーにして制御を介入させることで、走りは邪魔せず、スピンに至る動きを抑え、それにともなうコースアウトやクラッシュを防ぐのが狙いだ。

やはりこれもサイバーセキュリティ法への対応で、DSCのユニットはボッシュのESP9から、最新のESP10に置き換えられている。

ステアリング右下にあるDSC-TRACK(右上)のスイッチ。DSC-TRACKはモータースポーツ用のDSC制御でMT車に追加された。
サイバーセキュリティ法への対応で、DSCのユニットはボッシュのESP9から、最新のESP10に置き換えらた。
これがBOSCHの最新ESCユニット、ESP10

車外騒音規制にミートしつつ爽快なエンジンサウンドが楽しめる

1.5L直列4気筒自然吸気エンジンは以前からハイオク仕様だったが、今回、国内ハイオクガソリン用のセッティングを追加することにより最高出力を3kW向上させた(97kW/7000rpm→100kW/7000rpm)。152Nm/4500rpmの最大トルクに変更はないが、トルクは全域で1〜4Nm向上しているという。相変わらず、気持ちのいいエンジンである。

出力向上の変化よりも実感しやすいのは、エンジン制御のアップデートによるダイレクト感とレスポンスの向上だ。とくにアクセル戻し側のレスポンスが改善されており、戻し側の加減による荷重移動により姿勢をコントロールしやすくなっている。大きめの半径を持つコーナーで改良の効果を感じやすい。

アクセル戻し時のレスポンスが向上した。
エンジン形式:直列4気筒DOHC エンジン型式:P5-VP[RS]型 総排気量:1496cc ボア×ストローク:74.5mm×85.8mm 圧縮比:13.0 最高出力:100kW(136ps)/7000rpm 最大トルク:152Nm/4500rpm 燃料供給:筒内燃料直接噴射(DI)
車外騒音規制に対応しつつ、ドライバーにエンジンの状態を伝え、人馬一体感を高めるための改良が施された
インダクション・サウンド・エンハンサーは、この位置に。
インダクション・サウンド・エンハンサーをへ変更した。RS(標準)、ほかはオプション

吸気デバイスによるエンジンサウンドの進化は、車外騒音規制フェーズ2に対応したものだ。規制に対応するためエキゾーストから放出されるサウンドの音量は減っているので、車室内への伝達を改善する考え。吸気サウンドを車室内に伝えるインダクションサウンドエンハンサー(ISE)は従来から設定はあったが、大型商品改良版ではチャンバーの構造を変更。従来よりも吸気のエネルギーが小さい領域から車室内にサウンドが伝わるようにした。

当然のことながら、規制対応前の仕様は外から排気サウンドが容赦なく飛び込んでくるので豪快そのもの。その豪快なサウンドを失ったぶんを、ISEが補ってくれる。ただしテイストは異なっており、大型商品改良版は洗練された印象。エクステリアもインテリアも、走りも含め、トータルで上がったクオリティに合った上質なサウンドを届けてくる。

大型商品改良版のマツダ・ロードスター。現行世代としては「最も大きな商品改良」と謳うだけあり、進化ぶりには目を見張るものがある。まさに、最新にして最高のロードスターだ。

ロードスターRS(6MT)車両価格:367万9500円
■マツダ・ロードスターRS(6MT)
全長×全幅×全高:3915mm×1735mm×1235mm
ホイールベース:2310mm
車両重量:1040kg
エンジン形式:直列4気筒DOHC
エンジン型式:P5-VP[RS]型
総排気量:1496cc
ボア×ストローク:74.5mm×85.8mm
圧縮比:13.0
最高出力:100kW(136ps)/7000rpm
最大トルク:152Nm/4500rpm
燃料供給:筒内燃料直接噴射(DI)
トランスミッション:6速MT
サスペンション形式 前/後:ダブルウィッシュボーン/マルチリンク
ブレーキ 前後:ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ:195/50R16 84V
乗車定員:2名
WLTCモード燃費:16.8km/L
市街地モード燃費:11.9km/L
郊外モード燃費:17.6km/L
高速道路モード燃費:19.7km/L
車両価格:367万9500円

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…