海の上で進む、地球環境対応の実態。ヤマハ、ホンダ、スズキのアプローチは?

自動車の世界では、SDGs、カーボンニュートラル、電動化などなど、様々なワードで語られることが尽きない地球環境問題。その対応は、地球の表面積の3分の2を占める海上でも同様に実現されるべきだ。ここでは、ジャパンインターナショナルボートショー2024に出展された、各社の環境問題への取り組みを見てみよう。

ヤマハは電動化、素材、燃料でアプローチ

ヤマハ発動機(以下ヤマハ)は、マリンの世界でも積極的に環境対応を打ち出しているメーカーと言えよう。

HARMOの文字が映えるYAMAHAスポーツボート「SR330」
リヤに電動推進ユニットを2基装備する

今回、展示物のなかでは3艇の大きな船の中央にあったのがそのひとつ。船体には次世代操船システム 「HARMO」の文字が見られるが、これは電動推進ユニットと操船のコントローラを指すもので、これからの電動化を見据えたヤマハからの提案だ。

これまで、北海道小樽運河や、徳島市「ひょうたん島クルーズ」などで実証実験が行なわれてきた。さらに新たな提案として、今回はスポーツボート「SR330」のパワーユニットとして船外機に代わり、2基掛けで装着してのコンセプトモデル展示となった。

HARMOの推進ユニットは、水中でプロペラを回転させるモーターが一体となった「リムドライブ」方式が特徴で、回転部分が水中にあるため推進力を発生させることによる振動、騒音はほぼ乗員に聞こえてこないのが特徴。

この特徴を生かし、湾内でのクルージングなどがもっとも大きな利用価値となる。

しかし、今回はスポーツボートのSR330に搭載してのコンセプト展示することにより、新たな価値を見出すことができそうだ。御存知の通り、船酔いは振動や排ガスの臭いなどに誘発されることも多い。海洋レジャーに電動推進ユニットを用いることで、気分が悪くなる不安や、環境負荷への心配などを軽減したクルージングが実現し、ユーザー層を幅広く取り込むことへも期待される。

スポーツボートとしての豪快な走りを実現するためには、推進装置を増やすだけでなく、エネルギー源であるバッテリーの大容量化やそのコントロールユニットが必要不可欠となるが、それらをクリアできれば、これまでにない静かでクリアなスポーツボートができる。そんな夢も見させてくれる展示だ。

カーボンニュートラルを目指すべく、素材に対しての展示も行なわれている。

ひとつがセルロースナノファイバー素材。FRPに代表される強化樹脂素材の類だが、多くの強化樹脂は廃棄されるとリサイクルするのが難しく、多くはセメントの一部と混ぜ合わされるなどの利用方法しかなかったが、セルロースナノファイバーを含んだ樹脂素材とすることで、十分な強度を発揮しながら、数回にわたって同等素材としての水平リサイクルが可能となる。

このセルロースナノファイバー素材は、すでに、 水上オートバイ「ウェーブランナー」や2024年モデルの「スポーツボート」に搭載するエンジンカバー素材の一部として販売されている。これは同素材の量産輸送機器部品への世界初採用なのだ。

また、植物の麻を使用した強化プラスチックを艇体に採用した水上オートバイの参考展示も行なった。こちらもカーボンニュートラルへ近付けるための大きな一歩と言えそうだ。

今回のボートショーではパネル展示となったが、その他にもヤマハは、水素エンジンの船外機、化石燃料に添加するバイオ燃料の研究なども行なっている。

艇の推進、素材、燃料など、多方面からすべてにおいてSDGsに取り組むヤマハの姿勢が窺えた。

ホンダからは小型エンジン船外機に代わってすぐに実用できるパワーユニット

ホンダも水上で使うための電動化ユニットを展示している。

ホンダが展示する「ホンダ・モバイルパワーパックe」と充電ユニット、小型電動推進機。

ヤマハが理想的将来への提言であるのに対し、ホンダはより現実的に目前の対策を見据えた電動化の取り組みが対照的だ。

かつて創業者の本田宗一郎氏が「水上を走るもの、水を汚すべからず」と述べ、船外機のエンジンも当時主流の2ストロークでなく4ストロークを主に発展してきたホンダだが、より「汚すべからず」実現のため、船外機の電動化も進めている。

展示される小型電動推進機は、既存の4ストロークエンジンをモーター+コントロールユニットに置き換えただけで実用可能となったコンセプトモデル。だが、すでに島根県松江城での観光船での実証実験を一区切り終え、同地で利用者によるリース運用へと一歩進めたのも大きな成果となっている。

それを実現したのひとつが「ホンダ・モバイルパワーパックe」の採用。バッテリーパックと充電ユニットとセットで、松江城観光船の船着き場に設置することで、船頭さん自身が一日2回の装着、充電の交換作業を行うことで、誰もが使える電動船が実用化したのだ。ちなみに現状では2個のバッテリーパックで4時間程度の遊覧船運行ができているという。

また、モバイルパワーパックeは発売中の電動スクーター「EM1 e:」にも使用でき、これを展示することでこれからの電動モビリティの可能性を大きく広げることを示唆する出展となった。

スズキはマイクロプラスチックへの対応を提案

スズキもマリンでの環境対策を提案している。
興味深いのが生態系への悪影響を及ぼすとされているマイクロプラスチックの回収というテーマ。

スズキのマイクロプラスチックを回収する仕組み。

一般に海上を走る船のエンジン冷却はその場の海水を用いるが、海水を汲み上げ冷却に用いて海へと放水する途中にフィルターを通すことで海へ流出してしまったマイクロプラスチックを回収しようというもの。

2022年7月生産の船外機の一部へ標準装備することで、気付かないうちに環境への対応ができてしまうというわけだ。

どうにか目で見えるくらいのマイクロプラスチックを実際に回収した結果。

展示されていたのは、実際に回収に使用されたそのフィルターとプラスチック。目に見えなくはないが、広い海原で人間が回収するには大変な作業であることが感じられる。

自然と共存するには、汚してしまったものを綺麗にしながら使っていくことがひとつの解であることを感じさせる展示であった。

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著者プロフィール

小林和久 近影

小林和久

子供の頃から自動車に興味を持ち、それを作る側になりたくて工学部に進み、某自動車部品メーカへの就職を…