目次
74式戦車の後を継ぎ、全国に配備が進む
前回のコラム( https://motor-fan.jp/mf/article/214490/ )では半世紀にわたり日本の防衛を支えた74式戦車の完全引退をお伝えした。これによって本州の部隊から戦車が完全に消えたわけだが、74式の穴を埋めるべく新たなコンセプトの車両の配備があわせて進んでいる。それが「16式機動戦闘車」だ。
16式機動戦闘車は、装輪(タイヤ)式の車体に戦車型の砲塔を載せたもので、「戦車駆逐車」や「装輪戦車」と呼ばれることもある。このタイプの車両を自衛隊が導入するのは、これが初めてであり、自衛隊ファンの注目を集めた。
島嶼防衛を見据えた戦略機動性の高さ
16式機動戦闘車の最大の特徴は装輪式による機動力である。エンジンは570馬力の水冷4サイクル4気筒ターボ・チャージド・ディーゼルを採用し、路上での最高時速は100km/hを発揮する。また、出力重量比(約22hp/t)は他国の類似の車両と比較して優れており、加速性も良いと思われる。
一方で、装輪式は装軌式に比べて不整地での機動性に難があると言われているが、防衛省技術研究本部による「路外を走行する際の車体動揺を抑制する技術」の研究に基づく振動抑制技術を盛り込むことで補っている。
そして、特筆すべきは長距離の機動展開能力である。専用の運搬車などを用いる戦車と異なり装輪式の16式機動戦闘車は自走も可能であるため即応性が高い。また、重量が26トンと戦車の半分程度であるため、航空自衛隊の新型輸送機C-2による空輸が可能である。現在、陸上自衛隊は南西諸島防衛において、有事には本土の部隊を船舶や航空機で南西諸島に送り込むことを計画している。16式機動戦闘車は機動展開能力を活かし、いちはやく島嶼に駆け付け、敵の侵略意図を牽制することが期待されている。
105mmライフル砲が発揮する優れた打撃力
16式機動戦闘車が搭載するのは、52口径105mm低反動ライフル砲である。105mmライフル砲は西側の戦車駆逐車では標準的な砲であり、対戦車から普通科部隊支援まで多様な任務を遂行する。一般に、装輪式の戦車駆逐車は射撃時の安定性に欠けるのだが、16式機動戦闘車は10式戦車の技術を応用した射撃統制装置と砲の反動抑制機構を備えており、激しく動揺する移動間でも精確な射撃が可能である。毎年恒例の富士総合火力演習で披露されるS字スラローム間での射撃は、同車の優れた射撃能力を示すものだ。
一方で、防御面では戦車には遠く及ばない。高い機動力と装甲防御はトレードオフであり、16式機動戦闘車は機動力を得るために装甲防御を犠牲にしている。そのため、戦車と正面から射ち合う能力はなく、機動力を活かした一撃離脱、ヒット・アンド・アウェイの戦いが求められる(こうした戦い方ゆえに「戦車駆逐車」と言われる)。
現代の戦闘車両は、単独での戦闘能力以上に車両間、部隊間での有機的結合により発揮される戦闘力が重視される。この点で16式機動戦闘車は10式戦車と同様の高度な情報共有システムを装備していると思われる。たとえ一対一では戦車に敵わなくとも、仲間の16式機動戦闘車やその他の部隊と連携して、有利な状況に持ち込むことが可能なのだ。
次世代の装甲車両の中心的存在
16式機動戦闘車の開発元である三菱重工業は、同車をベースとした装輪装甲車「MAV」を開発した。陸上自衛隊は、MAVを「共通戦術装輪車」として導入することを決定し、令和6年度予算に計上されている。共通戦術装輪車は16式機動戦闘車と多くの部品を共有しており、整備や補給の負担の低減が見込まれている。現在、16式機動戦闘車は「即応機動連隊」などに配備されているが、共通戦術装輪車もこれら部隊に配備される見込みだ。
16式機動戦闘車は2016年以降、急ピッチで生産が進み、すでに200両以上が配備されている。さらにファミリー車両である共通戦術装輪車が加わり、陸上自衛隊は強力な機動部隊を全国に保有することになる。戦車の削減が続くなかで、16式機動戦闘車は次世代の陸上自衛隊の主力とも言うべき存在となろうとしている。