「トヨタ・ヤリスクロス」が売れる理由は? 欧州と日本、どっちが売れている?

トヨタ・ヤリスクロスはなぜ売れる? “主戦場”のヨーロッパで高く評価されているポイントはココだ!

トヨタ ヤリスクロス GRスポーツ 2024年モデル(欧州仕様)
「トヨタ・ヤリスクロス」は発売以来、大人気を博しているコンパクトSUVだ。日本における2023年の累計販売台数は、ヤリスとの合算で第1位となる19万4364台。そのうち約半分がヤリスクロスとなっている。そして、ヤリスクロスは欧州でも順調なセールスを記録している。ヤリスクロスは、なぜこれほどまでに売れているのだろうか。

日本以上に欧州での売り上げが好調なヤリスクロス

トヨタ・ヤリスクロス(欧州仕様)のボディサイズは全長4180×全幅1765×全高1595mm。

ヤリスクロスは日本よりも欧州のほうが売れている。

JATOの統計データによると、欧州での2023年の累計販売台数はヤリスクロス単体で17万6285台となっており、フォルクスワーゲン・ゴルフに次ぐ第8位。2024年に入ってからもランキング上位を維持しており、ヤリスクロスは現在欧州でもっとも売れている日本車となっている。

欧州では2015年以降、SUV人気に加えて過密化する都市部での扱いやすさなどを理由にコンパクトSUVがじわじわと人気を高め、今ではほとんどの欧州メーカーがBセグメントSUVをラインナップする。

その激戦区でもヤリスクロスが高い人気を誇るのは、欧州メーカーのライバルに対して多くのアドバンテージを持っていることが理由と言えるだろう。

ハイブリッドシステムとAWD-i(E-Four)と価格を武器に欧州市場で戦うヤリスクロス。

欧州でヤリスクロスのライバルとなるフォルクスワーゲンT-Rocやルノー・キャプチャーなどには4WDのラインナップがない。もちろん4WD需要が欧州ではそれほど高くないためではあるが、ヤリスクロスに設定されるAWDは平均速度域が高い欧州でも直進安定性を引き上げるのに貢献する。

また、欧州各国では二酸化炭素排出量に応じて税金がかかる仕組みがあるため、燃費が良く、絶対的な二酸化炭素の排出量が少ないトヨタのハイブリッドシステムは大きな訴求力を持つ。加えて、近年の燃料高騰やEVシフトの鈍化もヤリスクロスの販売を後押ししている。

極めつけは車両価格だ。ヤリスクロスはこれらの強みを持ちながらも欧州のライバルと同等か、それ以下の価格で販売されている。こうした理由から、ヤリスクロスが欧州で売れるのは必然とも言える。

欧州と日本での評判は? 欧州仕様と日本仕様の違い

トヨタ・ヤリスクロス(欧州仕様)の外観。

とはいえ、欧州市場はクルマに対する評価が厳しいこともあって、コストパフォーマンスが高いだけの車では売れない。クローバルモデルとされるクルマでも、欧州仕様と日本仕様ではシャシーセッティングや外観などが異なる例もあり、それによって評価が異なるのもよく聞かれる話だ。

たとえば、欧州仕様のヤリスは日本仕様よりも全幅が広くされるなど、販売地域ごとに細部がつくり分けされている。ところがヤリスクロスは欧州仕様と日本仕様の違いが異例と言えるほど少ない。

トヨタ・ヤリスクロス(日本仕様)の外観。欧州仕様との特別大きな違いは見られない。

外観はボディサイズを含めて同じで、日本仕様にも同じく5穴ホイールが採用されている。内装の違いも内装色や装飾の有無などが異なる程度だ。欧州の一部地域ではガソリンエンジンの6速MTモデルもラインナップされているが、主力はハイブリッドモデルとなっている。

あとはモーター式4WDの名称が「E-Four」ではなく「AWD-i」と呼ばれるなど、装備や機能の名称が異なる程度の違いでしかない。メーターなど実用速度の違いに対応する細かな違いはあるが、欧州仕様と日本仕様のヤリスクロスの基本構造はほぼ同じと言ってもよいだろう。

欧州仕様の内装はシフトブーツが備わるなど装飾がやや豪華。

そのため、ユーザーの評価も欧州と日本で似通っている。よく指摘されるヤリスクロスの欠点は「風切り音やロードノイズが目立つ」「乗り心地がやや硬い」「内装がチープ」などで、とりわけ日本ではシフト周りが特に簡素で欧州仕様に備わるシフトブーツの装着を望む声が多く聞かれる。

特にシフト回りの装飾が簡素な印象を受ける日本仕様。

しかし細かな指摘はあるものの、ヤリスクロスは扱いやすいボディサイズで燃費が良く、価格も手頃と3拍子揃った車として国を問わず一様に「よくできた車」と高く評価されている。

国内外で好調なセールスを記録するヤリスクロスは、現時点のグローバルBセグメントSUVにおける筆頭車種と評しても差し支えないだろう。

モーター出力を強化した改良新型ヤリスクロスが登場

キルティングシートが備わる欧州仕様「エレガント」グレードの内装。

欧州仕様と日本仕様のもっとも大きな違いを挙げるとすれば、それは改良のタイミングと内容だ。

2022年07月に日本へ投入された「アドベンチャー」グレードは、欧州よりも1年遅れた販売開始だった。また、欧州ではキルティング模様のシートが特徴的な日本未導入グレード「エレガント」グレードや、専用レザーシートや大型ディスプレイなどが装着される期間限定モデルの「プレミアエディション」がラインナップする。

システム出力が116psから130psへと引き上げられる欧州の2024年モデル「ハイブリッド130」。旧来のハイブリッドモデルは「ハイブリッド115」として併売される。

さらに欧州の2024年モデルは、欠点であったロードノイズや風切り音対策などが施されるとともに、装備や機能が強化されると報じられている。もっとも大きな変更は、モーター出力を強化した新型パワートレインが追加される点だ。

日本でも2024年1月17日にヤリスおよびヤリスクロスの一部改良が行われたが、欧州に比べれば細部の変更に留まり、ここで欧州仕様と日本仕様には大きな差がついてしまった。

欧州の2024年モデルは遮音材の追加やガラス厚の変更が加えられ静音性が増す。

そもそもヤリスクロスの月あたりの販売目標台数は、国内の4100台に対して欧州は1万1500台に設定されている。あくまでヤリスクロスの主戦場は欧州ということだ。

とはいえ、前述したとおり日本で販売されているヤリスクロスの基本構造は欧州仕様とほぼ同じである。欧州で高く評価されているヤリスクロスとほぼ同じものを安く買えるのは日本在住の人の特権と言えるだろう。

欧州トヨタの本拠があるベルギーでの価格はハイブリッド2WDモデルが2万7274ユーロ(日本円換算で約440万円)だ。それに対し、日本では同等のグレードが252万4000円から購入できる。

この価格差は物価や為替などの違いではあるが、ヤリスクロスが性能に対して非常に安価であることは疑いようがない。絶対的な販売台数では欧州のほうが多いが、販売目標に対する比率では日本のほうが売れているのも頷ける。

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