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会場で独特の存在感を放つテクニカル仕様のハイラックス
さまざまなアメ車が並ぶ『SPRING Party!』の会場で、異様な存在感を放つ1台のマシンがエントリーしていた。そのクルマはアメ車ではなく、タイトヨタが生産する現行型ハイラックスだった。フロントビューは大型のアニマルバンパーが装着されている以外はほぼノーマルだが、リアに回るとベッドには銃架に載せられたMINIMI(ミニミ)軽機関銃が! そう、このハイラックスは「テクニカル」仕様なのである。
ミリタリー方面の話題に明るくない多くの人にとって「テクニカル」とは耳馴染みのない言葉かもしれないが、これはニュース番組などの戦場リポートで目にすることが多い民生用のSUVやピックアップトラックに機関銃や対空機関砲、ロケットランチャー、無反動砲などの火器を搭載した即席の軍用車両のことを指す。
こうした車両はスペシャルフォースなどの不正規戦部隊を除くと先進国の正規軍が装備することは稀で、そのほとんどが発展途上国の軍隊や治安組織、PMC(民間軍事会社)、傭兵、民兵、ゲリラ、テロリスト、マフィア、麻薬カルテル、密輸組織などの武装集団で使用されている。ベース車にはさまざまな車種が用いられているが、その中でも現場から圧倒的に支持を集めているのがトヨタ製のランドクルーザーとハイラックスで、戦場で戦う兵士たちにとっては、ロシア製のカラシニコフ小銃やRPG-7対戦車ロケット弾と並び「頼りになる戦友」として長きに渡って愛され続けている。
彼らがなぜトヨタ製のSUVやピックアップトラックを熱烈に支持しているかといえば、他車とは比べ物にならない徹底した信頼性と堅牢性に加えて、貧しい紛争地帯でも容易かつ比較的安価に入手でき、扱いが簡単でメンテナンスや部品の入手に悩まされることが少ないからだ。
しかも、ランドクルーザーやハイラックスには現場の兵士たちが何よりも重視するコンバットプルーフ(武器や兵器の使用実績のことを指し、実戦で性能や信頼性などが証明されること)がしっかりとある。
1978~87年のチャド内戦(チャド・リビア紛争)はリビア軍とチャド反政府軍による連合軍とフランスの支援を受けた政府軍による戦いであったが、内戦末期(1986~87年)から政府軍と反政府軍がともにテールゲートに「TOYOTA」のロゴが入ったピックアップトラックを大量投入したことから、のちに「TOYOTA WAR」と呼ばれるようになった。
この内戦では政府軍のテクニカル数台が、T-54/55やT-62などのソ連製戦車で編成されたリビア・チャド反政府連合軍の機甲一個中隊に奇襲攻撃を仕掛け、その優れた機動性でたちまち壊滅させたという記録が残っている。テクニカルは民生用車両の転用ということもあり、装甲車のような耐弾性能はまったく期待できず、5.45mmクラスの小銃弾すら容易に車体を貫通してしまうが、使い方次第で恐るべき戦力となることがこの一件で証明されたのだ。
なお、このような武装車両を「テクニカル」と呼ぶようになった背景には、1988年のソマリア内戦時にとあるNGO(非政府組織)が同地にボランティアスタッフを送る際に政府から民間の警備要員を連れて行くことを禁じられたため、要員保護のため政府支給の「技術支援助成金(technical assistance grants)」を利用して現地で民兵をガードマンとして雇用した。その際に彼らが武装した民生用ピックアップトラックを用いていたことから、この種の車両を「テクニカル」と呼称するようになったとされる。ほかにも「ガンワゴン」や「バトルワゴン」、「ガンシップ」などの名称で呼ばれることもある。
ハイラックスをベースに中東で活躍するPMC仕様のテクニカルにカスタム!
さて、『SPRING Party!』にエントリーしていたハイラックス・テクニカルだが、武装としてMINIMI(もちろんモデルガン)を搭載し、荷台に星条旗を掲げており、オーナーはPMC装備で身を固めていることから、イラクやアフガニスタンで軍に雇用されていたプライベート・オペレーター(民間軍事会社の警備員)仕様であることがわかる。
米軍と雇用関係にあるPMCでは、シボレー・シルバラードやフォードF-150、トヨタ・タンドラなどの米国製のフルサイズ・ピックアップトラックを用いるのが一般的ではあり、より小さなミッドサイズ・ピックアップトラックを使う場合でも、フォード・レンジャーやトヨタ・タコマが使われることが多い。
しかし、テクニカルの使用車種にはルールはなく、必要要件と性能を満たしていれば車種は何でもよく、比較的入手し易い車両が選ばれるため、タイトヨタ製のハイラックスが戦場で使用されていないとは断言できない。そうしたことから考えてもベース車のセレクトに問題はない。
フロントのアニマルバンパーとベッドのロールバーは純正オプションではないため、おそらくは社外品。ロールバーには銃架が取り付けられており、MINIMIがマウントがされている。仮にブローニングM2やDShK38のような12.7mmクラスの重機関銃を乗せるとしたら、ベッドに穴を開けてフレームに直接銃架を設置しなければ反動には耐えられないと思われるが、5.56mmクラスの軽機ならロールバーへのマウントでもおそらくは発射の反動も問題はないだろう。武装のセレクトもリアリティがあってナイスだ。
ディティールにもこだわり軍用車っぽく無骨にカスタム!
オーナーは細部のディティールにもこだわりを見せており、フロントのアニマルバンパーとルーフラック、ドアミラーは無骨なマットブラックでペイントしており、車体の各部にはフォグランプと作業灯を増設して軍用車らしい無骨さを演出している。
また、ボンネットとフロントフェンダーには手製と思われる「TOYOTA OF WAR」のエンブレムが取り付けられている。このエンブレムはトヨタのエンブレムに武装した2台のハイラックスがあしらわれており、センスも抜群でなかなかカッコイイ。このエンブレムだけでも思わず欲しくなってしまった。
オーナーは自身が集めたコレクションを車内と荷台に積んできたのだろう。車両の前方にはボディアーマーやアリスパック、マガジンポーチ、カスタマイズされたM4カービン(の電動ガン)などの装備類を陳列し、ベッドには軍用のコンテナが無造作に置かれていた。
ハイラックスのこうしたカスタムはカーミーティングで見かけることはなかったが、充分に個性的だし、よく目立つ。ピックアップトラックが流行しつつある昨今、テクニカル仕様にカスタムしてサバイバルゲーム会場に乗りつける……という楽しみ方もアリかも?