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これぞファストバック!ワイドなリヤフェンダーとルーフラインのスピード感
2+2パッケージのために、前席頭上のルーフ頂点から後ろが従来のGTより長くなった。それを活かしてGTクーペは、リトラクタブル・スポイラーを格納した超短いリヤデッキに向けてファストバックのルーフラインを滑らかに、かつスピード感を持って引くことができた。このエクステリアの最大の美点のひとつだ。
従来のGTはルーフサイドがアーチを描いて下降しながら、リヤフェンダー上面から回り込んだ後ろ下がりのリヤデッキ面に融合するというデザイン。面と面が交差するところに折れ線を作らず、すべてを滑らか曲面で包んだのは見事だが、ひとつ惜しいのは、ルーフサイドの稜線がS字を描いていたことだ。
「ファストなバック」であるためには、ルーフサイドの稜線は後端までひとつのカーブで勢いよく引かなくてはいけない。60年代のアメリカ車でファストバックが流行って以来、それが鉄則だ。ひとつの高速コーナーで抜けられるところをS字に切り返したら、勢いが落ちて「ファスト」にならない。
空力のためにリヤピラーの後端を内側に絞らねばならないなど、いろいろな条件のためにルーフサイド稜線がS字を描いてしまう例は実は少なくない。しかしGTクーペはそこを巧く切り抜けた。
テールゲートの開口線のすぐ内側に明確な折れ線を設定。ルーフパネル/ルーフサイドの分割線をこの折れ線につなげながら、ひとつのカーブで勢いのよいラインを引いた。ファストバックという点は従来のGTと同じだが、それが伝統的な鉄則に沿って進化したのだ。
レースマシンに由来するグリル
台形の輪郭に縦バーを並べたフロントグリルは、1950年代前半にメキシコで開催されていた公道レース「カレラ・パナメリカーナ」で、1952年に優勝した300SLプロトタイプのグリルに由来するデザイン。それを現行Aクラス以降、「AMG純度の高い車種やグレード」を慎重に選んで使い始め、AMGのフロント・アイデンティティになってきた。
このAMGグリルを低い位置にワイドに構えたのが、新型GTクーペのフロントの特徴のひとつだ。グリル直下のエアインテークを含めて台形の輪郭で括っているので低重心感が強調されるが、狙いはそれだけではなさそうだ。
従来の2座クーペのGTは登場以来、レースで活躍してきた。GT3カテゴリーのAMG GT3は2020年シーズンからグリル開口を下方に拡大し、AMGグリルとその下のインテークを一体化したデザインを採用。これを市販車に移植したのが2021年に登場したハイパワー仕様のブラックシリーズである。
新型GTクーペのフロントグリルは、このGT3からブラックシリーズに至る系譜を受け継ぐデザイン。ルーツを辿れば、すぐにGT3マシンに行き着く。モータースポーツを背景にしたAMGならではのデザイン戦略が、ここに象徴されている。SLの兄弟車になっても、+2の後席の実用性を備えても、GTクーペはやはり最強のAMGなのだ。