【勝者は誰だ?】ダイハツ・タントの生産停止で販売を伸ばしたのはスペーシア? それともN-BOX?デリカミニとルークスは?

2024年1月~4月の累計販売台数は6万9265台とトップのN-BOXだが、前年比は84.3%で好調とはいえない。
2023年12月、ダイハツ工業が長年にわたり行ってきた100を超える不正行為が表沙汰となり、同社は全面的に生産を中止することになる。その後、国土交通省などによる検証を受け、一部の型式取消となったモデルを除き、ダイハツ車の生産は再開されている。はたしてダイハツが生産休止をしている間に”漁夫の利”を得たのは、どのクルマだったのか。軽自動車の販売統計データから読み解いてみよう。

REPORT&PHOTO:山本晋也(YAMAMOTO Shinya)

じつはN-BOXやルークスは前年同期比で伸びていない!?

2023年12月に認証不正を発表、その後国内における新車生産および出荷を停止していたダイハツ工業。その後、国土交通省や関係機関により各モデルが基準を満たしていることが確認され、国内4工場での生産がすべて再開することになった…ところまでは報道などで目にしていることだろう。

ダイハツが生産および出荷を停止している期間、日本の自動車マーケットはどのようになっていたのだろうか。ダイハツの主戦場である軽乗用車マーケットについて、2024年1月~4月の販売統計をベースに確認していきたいと思う。

では、2024年1月~4月における軽乗用車の販売統計データからトップ8を抜き出してみよう。

2024年1月~4月 軽乗用車 新車販売ベスト8

1位 ホンダN-BOX 6万9295台 前年比84.3%
2位 スズキ・スペーシア 5万6783台 同131.6%
7位 スズキ・ハスラー 3万5326台 同159.6%
3位 日産ルークス 2万7632台 同89.3%
4位 スズキ・ワゴンR 2万9473台 同109.0%
5位 スズキ・アルト 2万5432台 同100.7%
6位 三菱デリカミニ/eK 2万4342台 同283.6%
8位 日産デイズ 1万9332台 同161.4%
※全国軽自動車協会連合会発表値より抜粋

当たり前のように、この中にダイハツ車は登場していない。
だからといって他モデルが圧倒的に伸びているわけではないのが興味深いところだ。

ホンダN-BOXは相変わらず不動のトップを守っているが、前年比でみると販売台数は減っている。同じく、日産ルークスも流れてくるであろうダイハツ・ユーザーを拾えていないという結果になっている。

同時期におけるダイハツの軽乗用車販売は2万9328台で、前年比19.5%。単純計算すると12万台ほどの需要が他ブランドに流れる可能性はあったのだが、全ブランドが漁夫の利を得て伸びたわけではないのだ。

ホンダや日産といった登録車のイメージが強いブランドは、ダイハツ・ユーザーの受け皿にならなかったということだろうか。

ダイハツショック後も軽自動車の販売トップを守るN-BOXだが、台数そのものは前年同期比で減っている。

デリカミニやハスラーといった「軽SUVモデル」が伸びている!

2024年になって販売を3割増としているスペーシアに関しては、ダイハツ・タントという選択肢が消えたユーザーの受け皿になっているという面はあるだろう。とはいえ、2023年秋にフルモデルチェンジした新車効果も含めてプラスに働いていると捉えるべきかもしれない。だからこそ、N-BOXから勢いをそぐことに成功しているともいえよう。

2023年11月のフルモデルチェンジで正常進化を遂げたスズキ・スペーシア。

ダイハツショックによりライバルが消えた影響で販売を伸ばしたといえるのは、スズキ・ハスラーだろう。SUVテイストの軽乗用車として認知されているハスラーだが、ダイハツがガチンコのライバルであるタフトを誕生させたことで”一人勝ち”状態ではいられなくなった。

スズキ・ハスラー

しかし、タフトの生産および出荷が停止されたことでハスラーは販売台数を着実に伸ばした。ハスラーの前年同期における販売台数が2万2135台であるので、2024年1月~4月でおよそ1.3万台も上乗せしたことになる。以下に示す統計データからもわかるように同時期におけるタフトの販売減少数は約1.9万台なので、まるまるというわけではないが、かなりの部分でタフトを検討していたようなユーザーがハスラーに流れた部分はありそうだ。

2024年1月~4月 ダイハツ軽乗用車 新車販売統計

ミラ 1万705台 前年比48.2%
タント 9660台 同17.8%
ムーヴ 4713台 同11.0%
タフト 4098台 同17.6%
コペン 150台 同7.4%
※全国軽自動車協会連合会発表値より抜粋

ダイハツ・タフト

SUVテイストといえば、三菱デリカミニの販売も大きく伸びている。本統計は車両型式ベースで分類するためデリカミニとeKシリーズがいっしょになってしまっているが、前年比で280%を超える伸びを見せている。もっとも、デリカミニの販売開始は2023年5月で、前年の同時期には存在していなかった。ダイハツショックとは関係なく、デリカミニの商品魅力によって伸ばしていると捉えるべきかもしれない。

三菱デリカミニは、イメージキャラクター「デリ丸」の人気も高く、一大ムーブメントとなっている。

ダイハツショックにより軽自動車販売は2割以上減った

スズキ・スペーシアの販売は好調だが、ダイハツ・タントの抜けた穴を完全に埋めたとは言い切れない状況となっている。

あらためて認識しておきたいのは、ダイハツの不正によって軽自動車マーケットがシュリンクしてしまったということだ。

2024年1月~4月の軽自動車新車販売は48万7038台で前年同期比76.9%、軽乗用車だけに絞っても38万568台で同79.0%となっている。ダイハツはトヨタやスバルにOEM供給しているため、3つのブランドで販売数が激減するのは当然だが、軽自動車自体への購入意欲が減衰したともいえる。その意味では、すべての自動車メーカーに悪影響を及ぼしている。

もっとも一般ユーザーの購入意欲が落ち込んだことで2割以上も新車販売が減ってしまうのは違和感もある。販売店による自社登録(軽自動車なので正しくは”届出”)へのインセンティブが、いろいろな意味で下がったということも軽乗用車市場の縮小に影響していそうだ。

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著者プロフィール

山本 晋也 近影

山本 晋也

1969年生まれ。編集者を経て、過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰することをモットーに自動車コ…