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国内レーシングコンストラクターの老舗「戸田レーシング」
戸田レーシングといえばハコレースにフォーミュラにと国内レースシーンで活躍を続けるレーシングコンストラクターであるだけでなく、エンジンなどのコンポーネンツやパーツの供給でもレース業界を支えてきた老舗だ。
そんな戸田レーシングが自動車技術の祭典である『人とくるまのテクノロジー展』に出展してた。
展示ブースにはエンジンパーツやサスペンション、カーボンパーツなど同社のレーシングテクノロジーを象徴するサンプルが並べられていた。
面白いのは、レース用のカーボンパーツを製作する技術から派生したドローン用のドライカーボン製プロペラが展示されていたことだ。これは太平洋戦争でヤマハ楽器が優れた木工技術から航空機用プロペラの生産を担うことになった前例に似ている。
エンジンパーツはチタンやアルミ、CFRPへの材料置換により超軽量化された製品や試作品が展示されており、いずれも美しい輝きを放っていた。
電動化時代に向けての技術蓄積
ここまでは戸田レーシングのこれまでの実績からすれば当然の技術や展示と言える。これに加えて、テストベンチや各種試験システムなども自社製作しており、カスタマー向けに提案も行っている。
そして何より驚いたのが、クルマの電動化が進む中で自動車メーカー各社が発表しているEV用パワートレイン「e-Axle(イーアクスル)」を戸田レーシングも開発していることだ。
自動車メーカーはもちろん、アイシンなどの大手サプライヤーもe-Axleの開発を進めているのは時代を考えればもちろんのことだが、戸田レーシングのようなレーシングコンストラクターも自社開発を行っているのが興味深くもあり、同社の底知れぬ技術力を感じさせた。
e-Axleにセットされるモーターも戸田レーシングオリジナル。φ296mm×272mmのサイズで定格電圧400Vから最大出力400kW(約540ps)以上、最大トルク430Nm以上の高出力を発揮する(テスト中)。
実走テストも行ったインホイールモーター
そしてもう1つ驚いたのがインホイールモーターだ。EVの一つの形態として期待されるインホイールモーターだが、現在主流のシャフトドライブ式に比べて劣勢だ。
しかし、戸田レーシングでは意外と古くからインホイールモーターを開発しており、実車(ギャラン・フォルティス)を改造しての走行テストも行ったという。
インホイールモーターが既存のシャフトドライブに対して劣勢なのはやはりその重量にある。クルマの運動性能において「バネ下重量」の影響が大きいのはよく知られているが、ホイール内にこの重いモーターを仕込むとなると運動性の悪化は否めないだろう。
逆にインホイールモーターのメリットはその省スペース性にある。ドライブトレインを完全にホイール内に収めてしまうので、前述のe-Axleやドライブシャフトなどは不要になるので、より広くフラットな室内空間を確保できるようになるわけだ。
また、駆動力制御の最後の段階でドライブシャフトを介さないので、制御に対する応答もよりダイレクトになるという利点もある。
e-Axleとインホイールモーターは戸田レーシングの幅広い技術力の一端を垣間見ることができた。今のところe-AxleがEVドライブトレインの主流となっているが、インホイールモーターの今後の発展にも期待したくなる展示だった。
老舗クラッチメーカー「EXEDY」も電動化へ
EXEDY(エクセディ)は1950年に設立された株式会社大金製作所が始まり。以来、クラッチメーカーとして発展。1995年に社名をエクセディと改めている。AT化が進むなかで、AT用のトルクコンバータやATの内部パーツも製造。クルマのみならずバイク用のクラッチも手がけ、バイクレースの最高峰・MotoGPでも使用された。
そして何よりモータースポーツなどでスポーツクラッチのメーカーとして知られている。
そんなエクセディブースには最新のクラッチやATが展示されていた一方で、電動化の流れに対応した展示も見受けられた。特にEVバイク用のトランスミッションは3種類が用意されていた。
うち2つはスイングアーム後端にモーターと2段変速機を組み込んだドライブユニット「EV-2SP」で、省スペースに優れるのはもちろん、登攀時や積載時と高車速時をシームレスに繋ぐことで2輪EVのドライバビリティと電費を向上させることができる。
さらに既存のガソリン車と同様の形状をしたCVTタイプ「EV-CVT」も展示されており、こちらはCVTのシステム自体は既存のものと変わらないのだが、パワートレインをエンジンからモーターに変換できるのがポイントになっている。
これらのバイク用変速機は、登攀時や積載時などのトルクが必要な時は1速、高速域では2速、その中間はモーターのみという制御で、変速機は2段だが実質3段とも言える。その目的はどのような走行状況でも最高効率点に近い高効率領域でモーターの出力を利用するためだ。
電池積載量やモーターのサイズに限りのあるバイクにおいて、高効率化は必須。高効率と優れたドライバビリティを実現するにはEV用の変速機は大きな役割を担っていると言えるだろう。
ヨーロッパで使用実績のあるインホイールモーター
さらにこの電動化関連展示の中にエクセディでもe-Axleやインホイールモーターを紹介していたのには驚いた。特にインホイールモーターはProtean Electric Ltd.(以下、プロティアン)の製品を紹介しており、こちらはヨーロッパではすでに実用化されているという。
インホイールモーターの懸念はバネ下重量であるというのは先述の戸田レーシングでもあった。ただ、エクセディではこのプロティアンのインホイールモーターについては確かにバネ下重量という点では不利だが、e-Axleとドライブシャフトまで含めるとインホイールモーターの方がトータルでは軽くなるし、昨今の重量増加が進むEVにあってはサスペンションのセッティングで対応できる範囲だそうだ。
また、確かに軽快な運動性能という点では確かに不利だが、どっしりとした落ち着いた乗り味という点ではむしろメリットにもなりうるという。
e-Axleを車体側に搭載しないインホイールモーターのメリットとして、フラットかつ広い室内空間が得られるというのも先に紹介した。そしてこの大トルクを考えるとバスなどの大型コミューターなどには非常に有効なシステムと言えるだろう。
戸田レーシングとエクセディ、共にモータースポーツで存在感を示すメーカーが異なるアプローチで挑むインホイールモーター。EVのドライブトレインとしてはe-Axleに押される現状ではあるが、まだまだ発展の余地はありそうだ。プロティアンのインホイールモーターを搭載した4モーターAWDでシステム最高出力560ps/5600Nmと考えるだけでも夢が広がるのではないだろうか?