戸田レーシングとエクセディのモータースポーツにとどまらないすごい技術!インホイールモーターに未来はあるか?【人とくるまのテクノロジー展2024】

「戸田レーシング」といえばモータースポーツで活躍するレーシングカンパニーの老舗。また、「EXEDY(エクセディ)」もクラッチメーカーとしてモータースポーツには欠かせない存在だ。そんな二社が2024年5月22日(水)〜24(金)にパシフィコ横浜(神奈川県横浜市)にて開催された『人とくるまのテクノロジー展 2024』に出展していた。実はどちらもモータースポーツにとどまらないすごいテクノロジーをもち、その最新技術を展示していたのだ。

国内レーシングコンストラクターの老舗「戸田レーシング」

戸田レーシングといえばハコレースにフォーミュラにと国内レースシーンで活躍を続けるレーシングコンストラクターであるだけでなく、エンジンなどのコンポーネンツやパーツの供給でもレース業界を支えてきた老舗だ。
そんな戸田レーシングが自動車技術の祭典である『人とくるまのテクノロジー展』に出展してた。

『人とくるまのテクノロジー展』の戸田レーシングブース

展示ブースにはエンジンパーツやサスペンション、カーボンパーツなど同社のレーシングテクノロジーを象徴するサンプルが並べられていた。
面白いのは、レース用のカーボンパーツを製作する技術から派生したドローン用のドライカーボン製プロペラが展示されていたことだ。これは太平洋戦争でヤマハ楽器が優れた木工技術から航空機用プロペラの生産を担うことになった前例に似ている。

カーボンシャフトやエアファンネル、インダクションボックスなどが戸田レーシングのCFRP製品として提示されていた。

エンジンパーツはチタンやアルミ、CFRPへの材料置換により超軽量化された製品や試作品が展示されており、いずれも美しい輝きを放っていた。

1992年から製作している戸田レーシングのダンパー「FIGHTEX」は自社製造。フォーミュラレース用はもちろん、特注品にも対応。さらに素材をチタン・アルミ・CFRPに置換した試作軽量化ダンパーも。
レース用の超軽量クランクシャフト。軽さだけでなく低慣性、バランスなどトータルで設計されている。
軽量なチタン製コネクティングロッド。重量と強度を考慮したI字断面を採用している。
戸田レーシング製総切削ピストン。高いエンジン切削技術により、様々な形状のものが作られる。
カムシャフトはS2000用と初代NSX用を展示。
バルブやバルブリテーナー、DLC処理ピストンピンなども展示。

電動化時代に向けての技術蓄積

ここまでは戸田レーシングのこれまでの実績からすれば当然の技術や展示と言える。これに加えて、テストベンチや各種試験システムなども自社製作しており、カスタマー向けに提案も行っている。
そして何より驚いたのが、クルマの電動化が進む中で自動車メーカー各社が発表しているEV用パワートレイン「e-Axle(イーアクスル)」を戸田レーシングも開発していることだ。

トヨタも電動化の要の一つとしてe-Axleの開発を進めている。
もちろん、大手サプライヤーもe-Axleの開発を進めており、自動車メーカーへ提供していくことになる。

自動車メーカーはもちろん、アイシンなどの大手サプライヤーもe-Axleの開発を進めているのは時代を考えればもちろんのことだが、戸田レーシングのようなレーシングコンストラクターも自社開発を行っているのが興味深くもあり、同社の底知れぬ技術力を感じさせた。

戸田レーシング製e-Axleの試作品。
e-AxleとセットになるTDRインバータは2種類展示。

e-Axleにセットされるモーターも戸田レーシングオリジナル。φ296mm×272mmのサイズで定格電圧400Vから最大出力400kW(約540ps)以上、最大トルク430Nm以上の高出力を発揮する(テスト中)。

実走テストも行ったインホイールモーター

そしてもう1つ驚いたのがインホイールモーターだ。EVの一つの形態として期待されるインホイールモーターだが、現在主流のシャフトドライブ式に比べて劣勢だ。
しかし、戸田レーシングでは意外と古くからインホイールモーターを開発しており、実車(ギャラン・フォルティス)を改造しての走行テストも行ったという。

インホイールモーターの試作品。15インチホイールに収まるサイズ(φ337mm×135mm)ではあるが、厚みもありかなり重い。この重量がインホイールモーターの最大のネックと言えるだろう。出力は32psと頼りなく感じるが、最大トルクは570Nmと大きい。4輪に装着したとしたらシステム最高出力は128ps、2280Nm(!)に及ぶ。あくまで机上の計算ではあるが。

インホイールモーターが既存のシャフトドライブに対して劣勢なのはやはりその重量にある。クルマの運動性能において「バネ下重量」の影響が大きいのはよく知られているが、ホイール内にこの重いモーターを仕込むとなると運動性の悪化は否めないだろう。

より軽量な薄型インホイールモーター(試作品)。高トルク型に比べ軽量コンパクト化(φ337mm×95mm)した反面、最大出力は18.5ps、最大トルクは300Nmとなる。

逆にインホイールモーターのメリットはその省スペース性にある。ドライブトレインを完全にホイール内に収めてしまうので、前述のe-Axleやドライブシャフトなどは不要になるので、より広くフラットな室内空間を確保できるようになるわけだ。
また、駆動力制御の最後の段階でドライブシャフトを介さないので、制御に対する応答もよりダイレクトになるという利点もある。

インホイールモーターの裏側。左が高トルク型、右が薄型。黒いパーツはカバー。中央はe-Axleの裏側。こちら側にブレーキユニットやサスペンション、ステアリングのアーム類を取り付けることになる。モーターの発熱がブレーキに及ぼす影響も気になるところ。空冷のほか水冷の冷却システムも考慮しているという。

e-Axleとインホイールモーターは戸田レーシングの幅広い技術力の一端を垣間見ることができた。今のところe-AxleがEVドライブトレインの主流となっているが、インホイールモーターの今後の発展にも期待したくなる展示だった。

老舗クラッチメーカー「EXEDY」も電動化へ

EXEDY(エクセディ)は1950年に設立された株式会社大金製作所が始まり。以来、クラッチメーカーとして発展。1995年に社名をエクセディと改めている。AT化が進むなかで、AT用のトルクコンバータやATの内部パーツも製造。クルマのみならずバイク用のクラッチも手がけ、バイクレースの最高峰・MotoGPでも使用された。
そして何よりモータースポーツなどでスポーツクラッチのメーカーとして知られている。

『人とくるまのテクノロジー展』のEXEDYブース

そんなエクセディブースには最新のクラッチやATが展示されていた一方で、電動化の流れに対応した展示も見受けられた。特にEVバイク用のトランスミッションは3種類が用意されていた。
うち2つはスイングアーム後端にモーターと2段変速機を組み込んだドライブユニット「EV-2SP」で、省スペースに優れるのはもちろん、登攀時や積載時と高車速時をシームレスに繋ぐことで2輪EVのドライバビリティと電費を向上させることができる。

ショートスイングアームのコンパクトタイプ。外側にあるのがモーターで、変速機はスイングアーム後端に組み込まれる。
より大きな車体にも対応したロングスイングアームタイプ。ベルトやシャフト、チェーンなどが不要。

さらに既存のガソリン車と同様の形状をしたCVTタイプ「EV-CVT」も展示されており、こちらはCVTのシステム自体は既存のものと変わらないのだが、パワートレインをエンジンからモーターに変換できるのがポイントになっている。

EV-CVT。車両搭載時は写真左上が前になる。CVTのシステムは今のガソリンスクーターなどに搭載されているものと同じ。写真右前にエンジンの代わりにモーターが接続され、CVT本体右後端に後輪が装着される。エンジンがモーターに置き換わっただけで、構造はガソリンエンジン車と全く同じだ。

これらのバイク用変速機は、登攀時や積載時などのトルクが必要な時は1速、高速域では2速、その中間はモーターのみという制御で、変速機は2段だが実質3段とも言える。その目的はどのような走行状況でも最高効率点に近い高効率領域でモーターの出力を利用するためだ。
電池積載量やモーターのサイズに限りのあるバイクにおいて、高効率化は必須。高効率と優れたドライバビリティを実現するにはEV用の変速機は大きな役割を担っていると言えるだろう。

こちらは主に小型モビリティを対象にした「ワイドレンジドライブシステム」。モーター(左)とEV用トルクコンバータ(右)、原則企図でファレンシャルギア(中央)を一体化したユニット。トルクコンバータを利用することで、上記の2輪用と同じくトルクとスピードを必要に応じて両立することができる。

ヨーロッパで使用実績のあるインホイールモーター

さらにこの電動化関連展示の中にエクセディでもe-Axleやインホイールモーターを紹介していたのには驚いた。特にインホイールモーターはProtean Electric Ltd.(以下、プロティアン)の製品を紹介しており、こちらはヨーロッパではすでに実用化されているという。

プロティアンのインホイールモーター。ホイールサイズは18インチ以上と大きなサイズだが、最大出力103kW(140ps)、最大トルク1400Nmとそのパワーは圧倒的。さらにすでにディスクブレーキも組み込まれている。

インホイールモーターの懸念はバネ下重量であるというのは先述の戸田レーシングでもあった。ただ、エクセディではこのプロティアンのインホイールモーターについては確かにバネ下重量という点では不利だが、e-Axleとドライブシャフトまで含めるとインホイールモーターの方がトータルでは軽くなるし、昨今の重量増加が進むEVにあってはサスペンションのセッティングで対応できる範囲だそうだ。

最新のテクノロジーを追求する「MotorFan Topper」でも紹介している。

また、確かに軽快な運動性能という点では確かに不利だが、どっしりとした落ち着いた乗り味という点ではむしろメリットにもなりうるという。
e-Axleを車体側に搭載しないインホイールモーターのメリットとして、フラットかつ広い室内空間が得られるというのも先に紹介した。そしてこの大トルクを考えるとバスなどの大型コミューターなどには非常に有効なシステムと言えるだろう。

戸田レーシングとエクセディ、共にモータースポーツで存在感を示すメーカーが異なるアプローチで挑むインホイールモーター。EVのドライブトレインとしてはe-Axleに押される現状ではあるが、まだまだ発展の余地はありそうだ。プロティアンのインホイールモーターを搭載した4モーターAWDでシステム最高出力560ps/5600Nmと考えるだけでも夢が広がるのではないだろうか?

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