“トールボーイ”と呼ばれたホンダ「シティ」。若者心をGETしたのは背高ノッポの斬新なスタイリングだけではなかった!【歴史に残るクルマと技術047】

ホンダ・シティ
ホンダ・シティ
ホンダは、世界的に大ヒットした「シビック」の1クラス下に位置する、ユニークな背高ノッポのコンパクトカー「シティ」を1981年に投入した。全高の高い“トールボーイ”と呼ばれたお洒落なデザインで、ゆとりある室内空間を実現したシティは大ヒット。さらに、走りを極めたターボモデル、開放感を楽しむオープンモデル、燃費トップの低燃費モデルと続々と商品力強化を行い、その人気を加速した。
TEXT:竹村 純(Jun TAKEMURA)/PHOTO:三栄・ニューモデル速報

●人気のシビックの弟分だが、ターゲットは若年層

ホンダ2代目「シビック」
1980年にデビューしたホンダ2代目「シビック」

1972年に誕生して世界中で大ヒットした「シビック」は、1979年に初めてのモデルチェンジを行い2代目に移行した。2代目シビックは、初代を超えるという意味を込めた“スーパーシビック”というキャッチコピーで、ひと回り大きくなったボディに、エンジンも1.3L SOHC CVCCに加えて、主力が1.5L SOHC CVCCエンジンとなった。
このため、初代シビックのポジションであった1.2L~1.3L級の穴を埋めるために、シビックよりも廉価な小型車として登場したのが、シティだった。さらに、当時のホンダは軽自動車事業から一時撤退していたことで、販売店が低価格の小型車を必要としていたという背景もあったのだ。

ホンダ・シティ
1981年にデビューしたホンダ「シティ」、トールボーイの愛称で大ヒット
ホンダ・シティ
ホンダ・シティ

シティの設計思想は、当時ホンダが推進していたMM(マンマキシマム・メカミニマム:人間のための空間を最大に、メカニズムは最小限に)に基づいていた。シティは、MM思想を具現化するのが目標で、シビックのターゲットがファミリーカー層だったのに対し、シティのターゲットは20歳代を中心とする若年層だった。

ホンダ・シティ
ホンダ・シティのコクピット
ホンダ・シティ
ホンダ・シティのインテリア

●初代シティは、トールボーイの愛称で大ヒット

ホンダ・シティ
ホンダ・シティ

1981年にデビューしたシティは、全長の短いコンパクトカーの室内空間を最大にするため、1570mmの全幅に対し1470mmの全高を持った“トールボーイ”と称した背高ノッポのユニークなクルマだった。“カッコいいクルマ=背が低い”というクルマの常識を打ち破った画期的なスタイリングを採用したのだ。
さらに全高だけでなく、タイヤは極力ボディの四隅に追いやり、サスペンションはスペース効率に優れたマクファーソンストラットを採用。パワートレインは、徹底的にコンパクト化された新開発の1.2L直4 SOHCエンジンと、4速&5速MTおよびホンダマチック4速ATの組み合わせが用意された。

コンバックス(COMBAX)エンジン
ホンダ・シティの軽量コンパクトな新開発コンバックス(COMBAX)エンジン
コンバックス(COMBAX)エンジン
コンバックス(COMBAX)エンジン

車両価格は、若者でも入手可能な58.8万円(シティプロ[商用] T 4速)~78万円(シティ R 5速/共に東京価格)に設定。当時の大卒初任給は12万円程度(現在は約23万円)なので、単純計算では現在の価値で約150万円に相当する。
発売当初は、独特なスタイリングに否定的な意見もあったが、蓋を開けると常識にとらわれない、新しモノ好きの若者の心を掴み、大ヒットモデルになった。

ホンダ・シティ
ホンダ・シティの透視図。車庫の高さとボディ一杯いっぱいに配置されたタイヤ位置が特徴

●シティと同時にユニークなトランクバイクも発売

トランクバイク「モトコンポ」
ホンダ・シティデビューと同時に発売されたシティ搭載用のトランクバイク「モトコンポ」
トランクバイク「モトコンポ」
モトコンポはハンドルとシート、ステップを折りたたんで箱型ボディに収納

シティ発売時には、2輪車と4輪車を持つホンダだからこそできる斬新な試みとして、シティ搭載用のトランクバイク「モトコンポ」も同時に発売された。モトコンポは、“モーターバイク(モト)”とオーディオの“コンポ”を組み合わせた造語であり、持ち運びできるバイクという意味を表している。

ホンダ・シティ
モトコンポはトランクにシンデレラフィットする♪

ホンダは、シティのトランクに小型バイクを搭載することにより、アウトドアライフの新しい使い勝手を創りだすことをアピールしたのだ。トランクバイクは、シティ搭載用として開発された全長118.5cm、重量42kgの超軽量・コンパクトなバイクで、ハンドルとシート、ステップを折りたたんで箱型ボディに収納でき、その状態でシティの荷室エリアに横倒しで搭載可能だ。
エンジンは、2.5psの2ストロークで最高速度は45km/h。燃料やオイル、バッテリーなどの液洩れ防止の特別な設計がなされている。価格は8万円だったが、大ヒットしたシティに比べると人気はやや低調だった。

●高性能化、低燃費化、オープンモデル化で人気を加速

ホンダ・シティターボ
ホンダ・シティターボのレース仕様

絶好調のシティだったが、一部の走り好きからはモアパワーという要望が散見された。走りは標準以上のレベルではあったが、早々と翌1982年にはホンダ初の「シティターボ」をラインナップに追加。排気量は1.2Lのままで、ターボと電子制御インジェクションにより、最高出力100ps/最大トルク15.0kgmを発生。その走りは、2Lクラスと同等レベルだった。

ホンダ・シティターボ
ホンダ・シティターボのエンジン

さらに翌1983年には、前後フェンダーをプリスター化した通称“ブルドッグ”の「シティターボII」も登場。クラス初のインタークーラー付ターボは、最高出力110ps/最大トルク16.3kgmまでパワーアップ、多くの走り屋を魅了し、シティの人気は絶頂に達した。

ホンダ「シティターボII」
1983年に追加された”ブルドッグ”の愛称で人気を獲得したホンダ「シティターボII」

高出力化に続いたのが、1984年に追加されたソフトトップを装着した国産乗用車初の4シーターフルオープン「シティ・カブリオレ」だ。ソフトトップは手動開閉式で、持ち上げながら後方に押し戻せば簡単にフルオープンに変身できる。さらに、できるだけ多くのユーザーの好みに応えるために、当時流行っていたパステルカラーの12色のボディ色も用意され、若者の憧れの的になった。

ホンダ「シティ・カブリオレ」
1984年に追加されたオープンモデル、ホンダ「シティ・カブリオレ」

また、燃費についても1985年に「シティEIIIタイプ」を投入。シティEIIIは、量産車初のFRM(Fiber Reinforced Metal:繊維強化金属)コンロッドや独自開発の混合気制御などを組み込み、25.0km/L(10モード)のクラストップの燃費を達成した。
このようにして、シティは斬新なスタイリングだけでなく、優れた走りと低燃費もアピールすることに成功したのだ。

ホンダ「シティEIII」
1985年に追加されたクラストップの燃費を達成したホンダ「シティEIII」

●ホンダのシティが登場した1981年は、どんな年

1981年には、ホンダの「シティ」の他にも、トヨタの「ソアラ」も発売された。

トヨタ初代「ソアラ」
1981年にデビューしたトヨタ初代「ソアラ」。華麗な2ドアクーペスタイルのスペシャリティカー

ソアラは、本格的な高級スペシャリティカーとして、洗練されたスタイリングと国内初となる数多くのエレクトロニクス技術を駆使して、2代目は“ハイソカー”の火付け役にもなった一生を風靡したヒットモデルである。

クルマ以外では、スペースシャトル「コロンビア」が初飛行に成功、福井謙一氏がノーベル賞を受賞した。ピンクレディ解散、写真週刊誌「FOCUS」と女性ファッション誌「CanCam」が創刊され、人気番組「オレたちひょうきん族」、TVドラマ「北の国から」の放送が始まった。
また、ガソリン157.1円/L、ビール大瓶264円、コーヒー一杯256円、ラーメン334円、カレー420円、アンパン82円の時代だった。

ホンダ・シティの主要諸元
ホンダ・シティの主要諸元
ホンダ・シティ
ホンダ・シティファミリー

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従来の“カッコいいクルマ=背が低い”というクルマの常識を打ち破った画期的なトールボーイのシティ。その発想は現在大人気の軽ハイトワゴンに通じる、日本の歴史に残るクルマであることに間違いない。

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著者プロフィール

竹村 純 近影

竹村 純

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までを…