『いいかも、BYD!』と言いたくなるシール(SEAL)500万円台で手に入るAWDモデルがいい

中国のBEVメーカー、BYDは23年10~12月期のEV世界販売台数で、テスラを抜いてトップに躍り出た。BYDはこの年、日本に本格参入して、ATTO3とドルフィンのBEV2モデルの販売を開始。そして、今年2024年6月、満を持して世界の自動車メーカーがしのぎを削る主力セダンセグメントに『シール』を日本に投入した。世界でもっとも勢いに乗るBEVメーカーの本命登場は実に興味深い。
TEXT:瀨在仁志(SEZAI Hitoshi)PHOTO:Motor-Fan

スカイラインNISMOと同スペックのAWD 加速が凄い

AWDは0→100km/h加速3.8秒、RWDは5.9秒
CD値は0.219 普通充電は3kW/6kWに対応 急速充電は最大105kWの能力を持つ

今回用意されたモデルはリヤ駆動(RWD)の『BYDシール』とフロントにもモーターを備える『BYDシールAWD』の2タイプ。パワースペックは、RWDが310ps/360Nm。AWDが420ps/550Nmとガソリン車で言えば、ベースモデルでもV6・3.0Lターボレベル。AWDモデルにいたっては日産のレースエンジニアがチューニングを施したスカイラインNISMOとパワー、トルクともにまったく同じ。それだけに走りへの期待は大きく膨らむ。

実際にAWDモデルの走りはインパクトがある。街乗りレベルなら、当然のように滑らかで静か。ズシリとくる乗り味はスポーツライクなものの、BEVならではの快適性は最大限享受でき、サルーンとしての味わいも失ってはいない。しかし、ひとたびフルパワーを掛けると即座にリヤが沈み込むと同時に路面を蹴り上げ、わずかにノーズをもたげたと思うと一気にマックスGが押し寄せる。シートバックに身体が押しつけられ、頭はヘッドレストを打ち、ノーズをもたげた姿勢のまま一気に3桁の速度域に達する。カタログデータ上では0-100km/h加速3.8秒とあるが、その瞬発力はガソリンモデルではスーパースポーツモデル以外経験はない。BEVスポーツヨンクにのみ与えられる体験を久しぶりにした。

RWD 車両重量2110kg 前軸軸重1010kg 後軸軸重1100kg
AWD 車両重量2230kg 前軸軸重1120kg 後軸軸重1110kg 全長×全幅×全高:4800mm×1875mm×1460mm ホイールベース:2920mm
トレッド:F1620mm/R1625mm
最小回転半径:5.9m

もっとも全開領域においてはパワーを最大限引き出し、加速方向に効果的な走りを見せてくれるものの、日常走行においてはアクセルのレスポンスが敏感な領域があったり、反応が鈍く感じられたりするところがあるなど、やや大味な面もある。ブレーキやステアリングも同様で、操作系に関しては総じてスイッチ的。高速でのレーンキープアシストもステアリング中立付近の敏感な反応が挙動に出てしまい、姿勢変化も大きめ。BEVとしての走りの機能は良くできていると思うが、人間が操作する領域に関しては自動車メーカーとしての歴史の短さを感じずにはいられない。

さらなる磨き込みに期待

パノラミックガラスルーフは2重構造でガラス面は1.9㎡、紫外線カット率は99%、可視光線透過率は4.2%、日射透過率は16%

サスペンションに関してはRWDモデルではフロントの上下動が大きく、高速の継ぎ目などではカドが感じられ、振動が残りやすかったのに対し、AWDモデルでは収まりが良くて、カドも丸く感じられた。AWDモデル専用の可変ダンピングダンパーの効果に加えて、前後50:50の重量バランスの良さによって、ボディがフラット方向へと転じた。

タイヤサイズは、235/45R19
銘柄はコンチネンタルECO CONTACT 6Q
リヤはマルチリンク式 AWDはメカニカル油圧可変ダンパーシステムを採用する
フロントはダブルウィッシュボーン式

ワインディングではRWDに対して、AWDはフロントの重さを感じるものの、接地感は向上し旋回速度に合わせてアクセル踏んでいくとソッと前輪が進路を定めて、安定感ある走りをキープ。旋回車速を落とすことなく旋回方向に向きを変えていってくれることから無駄な動きがなくて、大きなボディがひと回り小さく感じさせる。ただ、旋回中にもラインキープアシストは敏感に反応し、挙動を乱してしまうのは要改善ポイントだ。

パワーステアリングはダブルピニオン式EPS インテリアデザインは、ドイツ人デザイナーのミケーレ・パガネッティの手によるもの。
15.6インチ電動回転式タッチスクリーンが中央に据えられている。
リヤシートは、中央席にPUレザー、両サイドの席にナッパレザーを使う。
フロントシートのホールド性は高い

加速力、旋回姿勢ともにBEVヨンクとしての走りの良さは満喫できるし、街乗りでは静々とサルーンとしての快適性を実現したAWDモデルが605万円で手に入るなら実にお値打ちである。しかも、導入記念キャンペーンの特別価格では1000台限定で、RWDモデルが500万円を切る495万円。AWDモデルも575万円と共に500万円台で購入できる。

なかなかのバーゲンプライスだ。

操作系やドライビングアシスト系に関してはさらなる磨き込みを期待したいが、パワーフィールやAWDモデルの走りのパフォーマンスを味わってしまうと、小さなことには目をつむっても『いいかもBYD!』。そんな大らかな気持ちにさせてくれるのが、中国発のハイスペックサルーンの初試乗だった。

BYD SEAL AWD
全長×全幅×全高:4800mm×1875mm×1460mm
ホイールベース:2920mm
車両重量:2230kg
サスペンション:Fダブルウィッシュボーン式/Rマルチリンク式
リヤモーター
TZ200XYC型交流同期モーター
最高出力:230kW(312ps)
最大トルク:360Nm
フロントモーター
YS210XYA型かご形三相誘導モーター
最高出力:160kW(217ps)
最大トルク:310Nm
バッテリー
リン酸鉄リチウムイオン電池
総電圧:550V
総電力量:82.56kWh

WLTC交流電力量消費率:165Wh/km
一充電走行距離575km
車両価格:605万円

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著者プロフィール

瀨在 仁志 近影

瀨在 仁志

子どものころからモータースポーツをこよなく愛し、学生時代にはカート、その後国内外のラリーやレースに…