何が違うの?「エアコン」と「クーラー」 その定義と働きを知る 【MFクルマなんでもラウンジ】 No.2

「エアコン」に「クーラー」・・・どちらも部屋を涼しくするための空調装置で、家庭用にもクルマ用にも存在する。目的は同じなのに呼び名が違うのはなぜか? 何が違うのか? 定義は?クルマに関することなら何でも話題にしようという「MFクルマなんでもラウンジ」の第2回は、自動車用「エアコン」「クーラー」について解説していく。
TEXT/PHOTO:山口尚志(YAMAGUCHI Hisashi)

「エアコン」と「クーラー」、曖昧のままにしていませんか?

これは「クーラー」なのか、「エアコン」なのか、はて、どっち?

1980年代初頭あたりまでは、クーラーまたはエアコンのないクルマがまだまだ多く、夏のドライブ時、涼しくするためにはブロアファンをまわしてただの風を出すのが主流だった。
ただ吹き出してきただけの風を身体に当てることで涼しく感じられるようにする、いわば「涼感」を得られるようにしていただけのことで、何のことはない、部屋の扇風機と同じだ。本当の意味で涼しくするのは「クーラー」だ。

「でもみんな『エアコン』といっているじゃないの。じゃあ『クーラー』とは何なの?」という人もいるだろう。

ということで、「なんでもラウンジ 」第2回は、「エアコン」という言葉の定義と、「クーラー」「エアコン」のしくみをテーマにしていく。

そもそも「エアコン」とは何? 「クーラー」とは何が違う?

どちらも冷やす点では同じなのに何が違うのか? 疑問を持たれている方が多いと思う。

「クーラー」はただ冷やすだけのユニット。
いっぽうの「エアコン」とは「エアコンディショナー(air conditioner)」の略称で、「エアコンディショニング(air conditioning:空気調和)」、すなわち「暖房、冷房の両機能を有し、これら機能の合わせ技で温度、湿度をそれぞれ独立で調整できる装置」のことをいう。

ここで「クルマのエアコンで湿度調整なんかできたっけ?」と思った方は鋭い。

「湿度」とは空気中に含まれる水分の含有率のことだ。みなさん、いまお使いの家庭用エアコンのリモコンを見てよう。「暖房」「冷房」などの他に「除湿」があるはずだ。これは部屋の温度を維持したまま湿度だけを調節するモードだ。

しかしクルマの空調パネルを見てもそれらしいボタンは見当たらない。「A/C」を入れれば、設定温度しだいで除湿はされるが(だからデフロスター(くもりとり)が機能する)、あくまでも結果的に除湿されたというだけで、湿度そのものを直接調整できるわけではない。したがって、クルマの「エアコン」は、正確には「エアコン」とはいえない。スーパーで売っている「みりん風調味料」と同じで、こちらは「エアコン風冷暖房」とでもいおうか。

それはそれとして、ここでは現状のクルマの空調を「エアコン」と呼ぶことにしよう(直接の湿度調整はないにしても)。

冷やすときに「エアコンをつける」というが、ここまで書いておわかりのように、冷やす機能だけが「エアコン」ではないので、暑いから涼しくしたいと「エアコンをつける」なら、逆に冬場、A/C OFFで暖房のみ使っていても「エアコンをつける」となる。

厳密にいうなら、涼しくするのは「エアコンのなかのクーラー」であり、暖かくするのは「エアコンのなかのヒーター」なのだ。各機能を集約・一体化したものが「エアコン」だ。車内を涼しくするときに押すボタンに「A/C」と刻まれているので、「クーラー」と「エアコン」がなお混濁される原因になっている。だから本当は「A/C」ではなく、「COOLER」と記されなければならないのだ。

クルマが冷たい風を作るプロセス

みなさんが空調パネルの「A/C」を押したとき、空調ユニットが車内外でどのような働きをして冷風を作り出すのかを、図とともに説明する。

1.A/CスイッチのONでコンプレッサーのマグネットスイッチが入り、エンジンの回転によってコンプレッサー内で冷媒圧縮が始まる。
2.「高温・高圧」化し、液状になった冷媒はエンジンルーム前部の「コンデンサー」内に送られ、電動ファンの風、または走行風を受けて温度が下げられて「低温・高圧」化、液状とガス状が入り混じった状態となる。
3.コンデンサーから「リキッドタンク」に送られ、不純物が取り除かれるとともに、内部に封入されている乾燥剤で水分も除去。
4.エキスパンションバルブ(膨張弁)で霧化され、「低温・低圧」となる。
5.霧化された冷媒はエバポレーター内に進入。冷え冷えのエバポレーターの背後から風を送ることで冷風が生み出される。
6.この冷風が任意で選んだ吹出口から噴出し、車内を冷やす。
7.エバポレーターから出た冷媒は、「低温・低圧」のまま再度コンプレッサーへ。

この流れで冷気が作り出され、1.~7.の繰り返しを「冷凍サイクル」と呼ぶ。

各ユニット内部を冷媒が1周するこのプロセスを「冷凍サイクル」という。呼び名が「クーラー」であろうと「エアコン」であろうと、冷たい空気を作るメカニズムは変わらない。

「クーラー」の図を見てわかるとおり、エバポレーターの背後から風を送り、冷えた風を吹出口から出して車内を冷やす。暖房と冷房、それぞれの風の流路はまったくの別系統のため、温度調整は別個に行ない、冷やすだけのクーラーは、エアコンの場合ほど冷気の温度を緻密に行なうことはできない。クーラーの効きを弱めたければ主に風量を抑えるしかない。

では、この「クーラー」に対し、「エアコン」は何が違うのだろうか?

「クーラー」と「エアコン」、構造上の違い

実は「クーラー」と「エアコン」とで、エンジンルーム内で行われる冷気生産活動の仕方はまったく同じ。先述の冷凍サイクルで冷気が生み出される。

違いとなるキーは、車内側エバポレーターの設置場所だ。これは2002年登場の日産マーチK12型の風の流路を示す構造図。

エバポレーターが風の経路内にあるのが、「クーラー」に対する強みである。エアミックスドアで温度の高低は自在だ。

ブロアファンが起こした風が通るのは、順番に、フィルター、エバポレーター(青着色部)、ヒーターコア(赤着色部)、冷暖の温度を決めるエアミックスドア、吹出口を選択するベントドアとなる。
ヒーターコアの内部にはアツアツのエンジン冷却液がやってきており、ブロアファンからの風はヒーターコアを通過するときに温まり、吹出口を経て車内を暖める。クーラーの原理はさきに述べた。

ここで「エアコン」定義のひとつである温度調整。通過する風の温度は、図中の「エアミックスドア」の角度が決め手で、これを「エアミックス方式」という。みなさんが空調パネルで行なっている温度調整は、このエアミックスドアの角度を調整することなのだ。

したがって、A/C ONでクーラー最強(最低温度)のときはエアミックスドア位置は図のA(青ドア位置)、ヒーター最強(最高温度)のときはA/C OFF(エバポレーターには冷気がきていないので常温)でエアミックスドアがBの位置(赤ドア位置)、その間で好みの温度にしたいときはAとBの適当な位置ということになる。

Bの位置のときは、A/C ONであれば、その成り行きで除湿されるということにもなる。ガラスが曇ったとき、「A/C 併用」が効果的なのは、水分を取り除いた空気がガラスに吹きつけられるためだ。冷房が暖房とまったくの別系統である「クーラー」ではこの芸当はできないことになる。もっとも時間をかけることが許されるなら、除湿された冷気はそのうちガラス周辺にまで到達し、曇りは取れるだろう。

ところで、温度を上げたり風量を弱めたりしていれば低燃費に貢献すると勘違いしている人がいるが、温度調整はエアミックスドア、風量調整はファン速度で行なっていることだから、温度が高かろうと風が弱かろうと、冷気を作り出すコンプレッサーが、エンジン回転を動力源に回っている限り、温度やファンの微調整が低燃費化とは無関係であることがわかる(固定容量式コンプレッサーの場合)。燃費が気になるならA/Cをオフにするしか手はない。

ここまで書いて、「クーラー」であろうと「エアコン」であろうと冷たい空気を作り出す仕組みは同じで、エバポレーターとヒーターコアが同系統上にあるかどうかが「クーラー」と「エアコン」(クルマでは擬似的だが)の分かれ目になることがおわかりいただけたと思う。
つまりエアミックスが、風が出る前の空調ユニット内で行なわれるか、風が出た先の車内で行なわれるかの違いというわけだ。利便性はどちらが高いかはいうまでもない。

ヒーターしかないクルマにクーラーを取り付けたところで、機能上、相互の関連性はなく、2者をただ並べただけのものでしかない。

もうひとつ付け加えると、エアコンであれクーラーであれ、停車時よりも走行時のほうが効きが向上する。仕組み図で見てわかるとおり、コンデンサーが走行風を受けることで熱交換がより積極的に行なわれるようになるからだ。

燃費への影響は何が生む?

ヒーターの熱源は、ヒーターコアに導いたエンジン冷却液の熱だ。すなわちエンジンが回ってさえいればいやでも発する熱を、人間が都合よく使っているだけの、いわば廃物利用のため、ヒーターを入れようと入れるまいと燃費に影響はない(ブロアファンを駆動する電気はエンジン回転によるオルタネーターの発電によるものだが、これは無視する)。

熱の放出先が増えるわけだから冷却性が向上することになり、ヒーター使用はむしろエンジンにとっては好都合だ。

夏冬問わず、エンジンが回ってさえいればいやでも熱が出ているので、それを冬に有効利用しているだけなのがクルマ用のヒーターだ(ガソリン、ディーゼルエンジン車のばあい。)。これがハイブリッドとなると事情は変わってくる。

いっぽうのコンプレッサーは、暑い日、曇りとりのとき、冷気を作るために「わざわざ」回すもの。エンジン回転の一部をコンプレッサー稼働に奪われるため、そのままではエンジン回転が下がってしまう。

エンジン回転を取り出して冷媒を圧縮するコンプレッサー。

コンプレッサー駆動に取られるエンジン出力は7~8ps。いまどきならもう少し小さいかも知れないが、たとえ7~8psでも黙っているわけにはいかない。

そこでクルマはA/C ONの瞬間、コンプレッサーに取られた回転分だけエンジンの回転を上昇させる。これを行なうのがアイドルアップ装置だ。みなさん、アイドリング中にA/Cスイッチを入れながらエンジン回転計(タコメーター)の指針を観察してみよう。コンプレッサーのマグネットスイッチが「カチッ!」と鳴る瞬間、針がわずかに震えたと思う。アイドル回転が700rpmなら、一瞬下に下がってすぐに700rpmに戻ったはずだ。「同じじゃないか。どこがアイドルアップなのよ?」と思われるかも知れないが、きちんとアイドルアップしている。

コンプレッサーのために、仮に50rpm消費しているなら、エンジンは50rpm上昇させて元の700rpmに戻している。だから見かけ上同じに見えるだけなのだ。走行中は低出力のクルマほど、エアコン・・・間違えた、クーラーを入れた瞬間の力の落ち込みを顕著に感じるが、それをドライバーが自然にアクセル量を増やしてエンジン回転のコンプレッサー稼働消費分を補っているため、燃費が悪くなるのだ。

余談だが、エンジン始動時や急加速時(エンジン高回転)、ほか、冷却液温度しだいでは、空調パネルの表示はそのままに、コンプレッサーのスイッチを切っていることを添えておく。エンジンの負荷の低減や加速性を優先させるためだ(エアコンカット制御)。

クルマの「クーラー」の姿

そもそもクルマの「クーラー」を見たことがない人も多いと思う。

昔のクルマはヒーターだけ。それでは足りず、財力のあるひとがクーラーをつけていたわけだ。室内側ユニットを助手席側計器盤(インストルメントパネル)下に吊り下げるタイプがいちばん多く、次にグローブボックスをつぶして埋め込むタイプ、後席後ろのトレイ内に内蔵するものなど、いくつか方式があった。

1973(昭和48)年5月にモデルチェンジした3代目サニー(B210)のオプションにあったクーラー。助手席側計器盤下への設置位置なのがわかるだろうか。同時にエアコンも用意されていた。
昔の初期のシビックのクーラー。グローブボックスのふたを外して埋めるため、ものが入れられなくなってしまう。

時代が進んでいくと、吊り下げ式のようなものは姿を消し、すべてが一体・内蔵されたものに変わっていくが、一部高級車以外はまだまだオプション。

軽自動車や大衆車にエアコンが標準化されたのは、1990年代初頭あたりからだった。

1990(平成2)年、新規格660ccに拡大したスバルレックスの販社オプションにあったエアコン。きっかり12万円。

梅雨と猛暑が入り交じり、35℃超だの40℃超だのというニュースが続き、運転時もエアコン、いや、クーラーのお世話になることが多いと思う。

どうか冷やし過ぎに注意し、かつ熱中症防止にも配慮し、適度な水分補給を忘れないようにしながら夏を乗り切っていこう。

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