目次
広告は時代を写す鏡・カークーラー/カーエアコンの広告一気見大特集!
むかしのクルマは、空調といえばヒーターしかなく、クーラーまたはエアコンは、一部の高級車以外は後付けだった。
純正オプション品のほか、むかしは社外品もあり、日本電装(現・デンソー)、東芝、ナショナル=松下電器(現・パナソニック)など、クルマのクーラー、エアコン市場に参入する会社はたくさん存在していた。
後付けといっても選ぶ人は少なく、それだけにクーラー付き車には、リヤガラスの下に「冷房車」などというシールを貼って暑さ知らずの車内であることをアピール。後ろのドライバーをくやしがらせるクルマもあったものだ。
今回は、クーラーまたはエアコンが憧れだった時代からあたり前になった時代までの広告を集めてみた。
1950年代後半~80年代後半までのクーラーorエアコン広告
別に今回のクーラーないしエアコン広告に限らないのだが、昔の広告は「見せる」のではなく、「読ませる」広告が多いように思う。「イメージで見せる」手法まみれの広告ばかりになっているいまの目で見ると、粋なフレーズにほほえましいシーンを思わせるコピーなどがあり、なかなか「読ませ」る。
1950年代後半~80年代後半までの弊社「モーターファン」に掲載されていたもののうち、「おっ!」と目についたもの27点お見せしよう。
【1950年代】
1.「自動車の冷房には デンソーカークーラー」(日本電装(現・デンソー)・1957(昭和32)年4月)
夏どころか梅雨時季の前なのに、(たぶん)初めて手掛けたクーラー発売をイチ早くアナウンスしたかったのか、4月発売のモーターファン1957年6月号に載った日本電装(現・デンソー)のクーラー広告。
透視図から、いまもむかしも、クルマ用クーラーの基本構造が同じであることがわかる。
冷媒として、冷却効果の大きい。フレオン(F-12)を使用し、無臭無害且つ爆発の恐れなく安心して御使用願えます。
この「御使用願えます。」の、漢字の並べ方も含めた表記の仕方に、日本語の奥ゆかしさと品位が感じられる。
この広告の「フレオン(F-12)」が、「エアコンガス価格15倍」の記事で述べたフロン12aのことだ。「『フレオン』とは開発したアメリカ「デュポン社」の商品名」とも書いたが、この広告ではそのまま「フレオン」と記している。
余談だが、フレオンガス=フロンガスは、クーラー冷媒のほか、精密電子部品の製造工程で、基板の洗浄剤にも使われていた。
なお、日本電装の広告では、デザイン違いの広告もあったので併せてお見せする。
別デザインでは、下部に発売元も併記。
むかしのトヨタは、クルマを造る「トヨタ自動車工業株式会社」と、クルマを売る「トヨタ自動車販売株式会社」とに分かれていた。「工販合併」で両社が統合したのが1982(昭和57)年。それがいまの「トヨタ自動車株式会社」だ。
通称「ホンダ」の製品の造り手が「本田技術研究所」で、売り手が「本田技研工業」であることに似ている。
さて、この3つ(2つ)とも、参考に載せているのは初代クラウン。吹出口は写真の女性の後ろにある。後席後ろのトレイ上に、透明な筒の吹出口があるのがわかるだろうか?
2.「自動車にも冷房時代 車の中もすずしいサロン・東芝のカークーラー」(東芝・1958(昭和33)年4月)
前項日本電装と同じく、後席の後ろにエバポレーターとファンを置き、後ろから冷気を流すタイプ。
「自動車にも冷房時代」のフレーズも日本電装1958年4月版広告と同じ・・・同じ号に載った別々の会社の同類商品広告に同じフレーズが使われたことになる。それぞれの広告担当者はびっくりしたことだろう。
「ガス洩れのうれいがありません」という表現がたまらない。いまどきこんな書き方はしないぞ!
【1960年代】
3.「涼しさが走る・・・・・・ ’60デンソーカークーラー」(日本電装・1960(昭和35)年5月)
「’60デンソーカークーラー」・・・日本電装は、いまのクルマみたいに「カークーラー」にもイヤーモデル制を採っていたのだろうか。
写真で使っているクルマは1957年版と同じく初代クラウンだが、計器盤下に吊り下げるものに変わっている。広告のフレーズほど「・・・こじんまり・・・」しているようには見えないが、メカの設置性も含めて考えれば、後席に備えるよりはこちらのほうがスマートだ。
4.「酷暑を断つ!この小さな英雄 ミツバカーファン」(三ツ葉電気製作所・1965(昭和40)年6月)
こちらはクーラーではなく扇風機だが、おもしろいので載せてみた。いまでもカー用品店で、この種の扇風機を見かけますな。
”高原の涼しさ”・・・常温の空気を動かして得る風に、人工的に作られた冷たい風とはまた別の涼感があるのは確かだ。
【1970年代】
5.「COOL CAPSULE 唯が最初にそう呼んだのかーーーパームエアーはクールカプセル ’71 カークーラー」(中央自動車工業・1971(昭和46)年4月)
いまはボディコート剤やエンジン添加剤などが主力の中央自動車工業は、かつて自動車用クーラー事業も展開していた。
ラインアップは「ギャラクシー(GALAXY)」「エリート(ELITE」「デラックス(DELUXE)」の3種・・・写真が小さいが、外形デザインが、だいぶ自動車電装品らしくなってきた。
自動車のキャビンなんて、たといアルファードやセンチュリーのような大きなクルマであろうと、人間が長時間過ごすにはせまい空間なのだ。暑い中歩いているひとをよそに、冷気で満たされた移動空間はまさにCOOL CAPSULE・・・うまいフレーズだと思う。
ただし、「唯が最初にそう呼んだのか・・・」の1文字めは、「誰」の間違いではないだろうか?
いまからでも遅くないから中央自動車工業のひとは修正した方がいいと思う。
6.「南十字星(サザンクロス)が輝く。快適空間が走る。 第5の季節をつくるーーーデンソーカーエアコン」(日本電装・1971(昭和46)年6月)
さきの「パームエアー」もそうだが、1970年代に入ると、製品そのものを前面に押し出すのではなく、表現が少しずつイメージ的になるのと引き換えにハードの表現は控えめになってくる。
「いい表現だな」と思ったのが「第5の季節をつくる」のタイトル。1年を通じて四季の寒暖差と無縁である車内空間をひと言で表したフレーズが粋だ。
そうそう、この頃にはそろそろ「カークーラー」だけではなく、「カーエアコン」の姿が見え始めている。
7.「ことしの夏は1000cc以上のクルマが、さわやかドライブ。 三菱カークーラ」(三菱重工業株式会社・1971(昭和46)年4月)
360ccの軽自動車(当時)はまだがまんしてろというわけだ。正直でよろしい!(そんなことはない。)。
それはともかく、「三菱重工業」の自動車部門が独立したのがいまの「三菱自動車」だ。独立は1970年だったが、用品はまだ三菱重工業の領域だったのだろうか。
さて、昔の三菱車のカタログを見るとわかるのだが、「バンパー」「ワイパー&ウォッシャー」「メーター」と、他社なら「-(音引き)」で伸ばすところ、三菱車はかなり長いこと「バンパ」「ワイパ&ウォッシャ」「メータ」と表記していた。「マフラーカッター」なんか「マフラカッタ」とあってオモシロカッタ。
てっきり三菱自動車特有の表記なのかと思っていたが、考えてみれば出自は三菱重工業。この広告、製品名は「カークーラ」ときたもんだ・・・音引きなしはグループの取り決めなのだろう。
三菱も別デザインの広告があったので併せてお見せする。
片や日本的な風景をバックに日傘を差した女性、他方ボカシを入れて男女をイメージ的に・・・場面設定もひとの姿もも昔は品格がある。このような広告を作れる宣伝担当者は、いまはいないのだろうか?
8.「スイッチON!・・・・・・最初から冷風が吹出す・マジック冷房 ナショナルカークーラー」(松下電器(現・パナソニック)・1973(昭和48)年5月)
臭気の原因である、「クーラーに付着したゴミ」(たぶんエバポレーターに付着のことだ)を洗い落とす新機構をアピール。
私の実家にあるリビングのエアコンはパナソニック製で、フィルターを自分で掃除する機構がついているが、そのアイデアはこの時代のクルマ用クーラーから始まっていたのだろうか。
温度調整は本体側で行うものの、風量調整スイッチは自在の場所に設置できるセパレート式! 後付け品なのに、加速時に「冷房を一時カットする」ボタンを設けたのは親切だ。いまは加速時のコンプレッサーOFFをクルマが行なってくれている(エアコンカット制御。)。
9.「にくいボウズめ! トヨタ純正デンソーカーエアコン/カークーラー」(日本電装・1973(昭和48)年7月)
「パパ、こんどの車は冷房つきだね」
「そうさ、気に入ったかい」
「ウン。でも、半分だけだょ」
「どうしてだい。冷房のほかに暖房もできるし、しめり気やほこりだってとれるんだよ」
「それでも半分だけだい」
「どうしてだよ」
「ママも言ってたぞ。パパは家庭サービスが悪いって」
「パパを強迫する気かい」
「パパわかってるゥ」
こんな会話を交わす、麦わら帽子にランニングシャツ姿の父子の姿が、昭和時代の70~80年代は想像できたが(本当にいたから)、ひるがえって令和時代の2024年にはイメージできん。
10.「今年の夏は、日々是好。 パームエアー カーエアコン・カークーラー」(中央自動車工業・1975(昭和50)年5月)
1971年の広告から4年経過後のもの。製品バリエーションが変わっている。誤字もない。
前席のほか、後席にも風を送るサイドルーバーを設け、オーバーヒート対策の自動リレーを組み込んだ最高級バージョン「スプリーム(SUPREME)」、表計算ソフトよりとっくにベストセラーだった普及版「エクセル(EXCEL)」、トラック専用の「カスタム240(CUSTOM240)」の3つ・・・それぞれの説明がていねいに表記されている。
なお、「エクセル」の説明の第2項目に、「・・・モーターファン・・・」とあるが、これはブロアファンモーターを指しているはずで、当サイトとは何の関係もないことをおことわりしておく(あったり前だ。)。
11.「’75サンデンロータリーカークーラー 超特価サービス販売中!」(スピードショップ東京堂・1975(昭和50)年5月)
これはサンデンの広告ではなく、「キヤノンのカメラが安い!」と広告する家電販売店のチラシのようなもので、サンデンのクーラー超特価を謳う東京堂の広告。
「サンデン」よりも「サンデンカーエアコン」とまでいった方が耳にしっくりくるサンデンも、かつては汎用クーラーorエアコンを販売していた。一時は、ピンクレディ解散後のMIEを起用していたこともある。いまは個人向けの販売は行っていない。
12.「スーツケースひとつ余分に乗せるときエンジンへの影響をお考えになりますか。 トヨタ純正デンソーカーエアコン」(日本電装、トヨタ自動車販売・1975(昭和50)年5月)
同じ日本電装でも、エアコン主体の広告。トヨタグループの会社だけに、トヨタ車専用設計であることを声高にアピール。ましてや底辺寄り1200cc級にまで「エアコンライフ」を広げたことを誇る。
広告キャラクターは、当時人気の林寛子だった。
13.「よろしく安全運転、この看板がお手つだい。」(松下電器(当時)・1975(昭和50)年7月)
クーラーというよりも、カーステレオ、バッテリーなど、当時のナショナル自動車機器全体の広告。ここにある「ナショナルカーステレオ」は現在のパナソニックナビゲーション「ストラーダ」に、「ナショナルバッテリー」は「caos」の先祖にあたるわけだ。
それらに加えていまは、サンヨーから受け継いだポータブルナビゲーション「Gorilla」、自動車用汎用カメラ、ETC機器など、いろいろと展開している。
ところでこのモデルさん、どこにも表記がないが、女優の長谷直美じゃないかと思う。
14.「今年はローンで、カーエアコン。車を知っているマツダ純正カーエアコン」(マツダ・1977(昭和52)年6月)
イラストは当時のコスモAPの計器盤。車両との同時開発エアコンだからコンプレッサーはエンジンルームにきれいに収まり、車内でも後付け感も居住性も損なうこともないことをアピールしている。
広告で「ローン」をフレーズにしていることからも、70年代に入ってもエアコンがなかなか手が届きにくいものであったことを象徴している。
【1980年代】
15.クラリオン・カーエアコン
写真は、「わが社(当時の三栄書房)の社用車・1978年式カペラにはエアコンもクーラーもなく、晴天や雨の日には暑くてどうしようもないからクラリオン製のエアコンをつけた」という、読者には何の関係もない愚痴から始まるレポート記事の最初のページ。
そう、自動車用ラジオ/ステレオの老舗、クラリオン(現・フォルシアクラリオン)は、同社webサイトの「沿革」にも出ていないが、実はエアコンも造っていたのだ。
社外品の後付け品にもかかわらず、カペラにある既存のヒーターと一体化させ、「クーラー」ではなく、「エアコン」に仕立ててしまう製品だったのが優れた点。冷やすコントロールは、暖めるヒーターの操作パネルをそのまま使って行うことができるのもいい。
16.「パームエアーロータリーなら7+1のラクラク パームエアーロータリーカーエアコン」(中央自動車工業・1982(昭和57)年7月)
同じカラーでも、1980年代に突入すると、70年代までと異なり、軽いというか、ポップなデザインになってくる。とはいえ、キャラクター2人に重なっているのは、1982年にもなって3代めカローラ前期型の計器盤なのがおかしい。ただし、左の小さな写真は、当時まだ出て間もないのR30スカイラインの計器盤となっている。
宣伝キャラクターはアゴ&キンゾー。立っている方が桜金造で、正座しているのがアゴ勇ね。
もともとは「ハンダースの想い出の渚」(オリジナルはザ・ワイルドワンズ)を有名人のものまねでを歌った「ハンダース」のメンバー。ものまねタレントの清水アキラが中心のグループだった。
17.「ここは、爽風圏。日産純正カーエアコン」(日産自動車・1984(昭和59)年5月)
最後は日産8連作の美女シリーズでお届けする!
クーラーはなりを潜め、エアコンの広告に特化しているが、その割に本体の写真は一切なく、完全なイメージ広告になっている。
80年代後半という時代らしく、見えるのは女性の水着姿のみ。カラーであることも相まって、さわやかさが前面にあふれ出ている。麦わら帽子のランニングシャツ父子とはえらい違いだ。
18.「ここは、爽風圏。日産純正カーエアコン」(日産自動車・1984(昭和59)年7月)
さきと同じフレーズ広告の別バージョン。全体の色調を水色にし、(たぶん海岸を)翔けたり、(たぶん海の)水をバシャつかせてはしゃぐ水着女性で、「夏の涼しさをクルマにも」という演出をしている。
19.「一年中、キミです。日産純正カーエアコン」(日産自動車・1987(昭和62)年4月)
こちらは1987年日産エアコン広告。3年前と異なり、日本人女性にチェンジしている。エアコンの広告で水着姿を披露している割に4月の出稿。
5月の別バージョンでは、梅雨を前に、うっとうしい時季のエアコンの有用性を強調する。
なお、この2枚とも、キャラクターは高森えつこさんという方で、日産純正カーエアコン’87キャンペーンガール(と下に書いてある。)。
20.「いつだって、キミはやさしい。 日産純正オートエアコン」(日産自動車・1988(昭和63)年2月)
まだ2月なのに、春到来に先立って温暖イメージの絵柄でブランドアピール。
フレーズも何だか詩的になってきた。
ときは1988(昭和63)年。時代が豊かになってきたからだろう、宣伝商品は「日産純正エアコン」から「日産純正オートエアコン」に昇格。「コンピュータが、つねに車内を設定された快適温度に保ちます。」と、ハイテク感も忘れていない。
キャラクターはどうやら昨年と同じえっちゃんのようだ。
21.「いつだって、キミはやさしい。 日産純正オートエアコン」(日産自動車・1988(昭和63)年4月)
フレーズそのまま、年度が変わった4月出稿ぶんからイメージキャラクターを別の女性にバトンタッチ。出稿をスキップした3月にオーディションをしたのだろう。
左上の「NISSAN」と左下の黒文字を取っ払って持つもの持たせたら、そのまま生ビールの広告ポスターに仲間入りできそうな気配だ。
名前はわからないが、同じ女性のままのデザイン違いの広告も併せてお見せしよう。
3枚めのものがいちばんあどけなくて愛らしい。
それにしても、日産がこのような広告展開をするとは!
この頃の日産は官僚体質といわれており、柔軟性のない体質が商品展開に露呈し、トヨタとのシェアは開く一方の時期だったのだ。そんなお堅い会社の宣伝にしては、ずいぶんさわやかな広告展開をしたものである。
いかがだったろうか。
クーラーorエアコンの広告ひとつとっても、その内容、表現の、時代による違いを楽しんでいただけたと思う。
ではまた次回!