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性能不足を感じる状況を想像したくないがゆえに……
“カー電”の類いは、とりわけ買い替えの判断が難しい。なかでも、ドライブレコーダーはその代表例になるだろう。最新の物ほど性能も機能も優れていることは明白ながら、どちらかというと”有事の備え”になるだけに、買い替えに踏ん切るほどのきっかけをつかみづらいからだ。
強いて言えば、車両乗り替えのタイミングか、あるいは決定的な性能不足を感じた時となるだろう。ドライブレコーダーの特性上、後者の場合はかなり不幸な状況を想定することになる。だからこそ、その考えにあまり気乗りせず、適当にやり過ごしてきたのだが…。
否が応でもその時はやって来る
その時は突然にやってきた。いわゆるもらい事故である。
前走車から何かの異物が飛んできたと分かった直後、車体に衝撃を感じるほどのインパクトを感じる。ただの飛び石ではないことはすぐにわかった。フロントガラスは大きく割れ、破片が車内にまで飛び散るほどだったからだ。
ちょうどインター出口を目前にしていたということもあり、三車線あるうちの一番左側を、前走車との車間距離を空けて制限速度以下でゆるゆると走っていた。だからこそ、あっという間のこととはいえ、飛散物の正体も現認できていた。
前走車の左後輪あたりから飛んできたそれは、西日があたってキラッと光っていたことからも、長さのある金属状の部品だったように思う。それが、向かって左側方向に、緩やかな弧を描き、グルングルンと回転しながらこちらに向かってきたわけだ。
当たらないように、とっさに右側にハンドルを切ったのは覚えている。けれど、三車線の高速道路だけに交通量も多く、車線を跨ぐわけにも行かない。飛散物が逆方向に飛んでいれば路側帯に逃げられたものだがそうはいかず。おまけに車両はスクエアのバンと来れば的は大きい。結局、舵角もわずかしか取れず、衝突に至ってしまった。
衝撃の中心は、ちょうど助手席の目線あたり。ほんの少しでも舵角を当てられたのは正解だったのかもしれない。助手席に人を乗せていなかったということはもちろん、衝撃の中心部は貫通に至っていたからだ。角度が悪ければ、そのままブツが車内に飛び込んできたのではないか。そう思うほどに危険な飛散物だった。
次に考えたのは、走行の衝撃で一気に崩壊しやしないだろうかということだ。ダッシュボード付近の飛散した破片を横目で見ながら停車しようかしばし考えるも、タイミングよくパーキングエリアの看板が見えたのは幸運だった。
大変なことになったと動揺しつつも、この時はまだどこかに余裕もあった。自らの運転には何の落ち度もない。そして、こんな時にこそドライブレコーダーがある。もらい事故ながらも、泣き寝入りはあるまいと、まだこの時点では楽観視していた。
衝突前後の映像は確かに残っていたものの…
さすがにこれは飛び石どころの被害ではない。過去に何度も飛び石被害には遭っており、ヒビも凹みも体験済。頭のどこかにあったのは、飛散物は前走車からの落とし物ではないかという考えだった。こうなれば、仕方ないでは済ませられない。
パーキングエリアに駐車して110番通報すれば、高速パトロール隊はあっという間にやってきた。フロントガラスの破損を見て、パトロール隊がまず行ったのはドライブレコーダーの映像確認だった。有事の際はまずこれと、現場ではこの作業がルーティーン化しているのかもしれない。
慣れた手つきでドライブレコーダーの本体から記録をたどり、パトロール隊が即座に取った行動は後続応援の要請だった。我が車に当たった飛散物の回収ということだろう。運悪く車線に落ち、後続車が踏もうものなら、跳ね上げられたブツがさらなる被害を招きかねない。そしてその行動は、本体に備えられた小さなモニターながらも、大きな異物が衝突している様子が確認できた証左でもある。
けれど、間もなくやってきた応援隊からの報告は、現認不可というものだった。記録映像と照らし合わせの上、おそらく我が車に衝突後、ブツはガードレールの向こう側に飛んでいったのだろうという結論だ。
こうなると、現場ではこれ以上の進展は期待できない。ただ、パトロール隊は思ったより親身だった。現場ではこれ以上のことは分からないが、録画映像を見返してみて、前走車のナンバーなどが分かれば別の手を取れるかもしれないと教えてくれる。
専用のビューワーソフトを使ってパソコンで映像を検証すれば、もっと多くの情報を得られるに違いない。ここでもまだ、楽観的ではあった。
よりによって一番欲しい情報がない
自宅に戻り、パソコンの画面とにらめっこして、ようやく状況を飲み込めた。衝突に至る状況はつぶさに把握できたものの、肝心のナンバーが読み取れない。拡大やスロー再生などで手を尽くそうにも、元のデータが不十分ではどうしようもない。部分的には読み取れても、その全てが判然としない限りは警察も動いてはくれないだろう。
前走車の落とし物か、あるいは路面に落ちていた異物を跳ね上げたかどうかで責任の所在は変わる。映像を吟味する限り、前者の可能性を問えそうな証拠もあった。飛散物が確認できる直前に前走車は急に右にかしいだ動きを見せ、飛来物をアップで見れば金属部品はやや曲がった形状であり、端にはジョイントらしきものも見える。これはシャシー部品ではないのか?
おまけに衝突直後は動揺していてすっかり見過ごしていたが、前走車も自分と同じくパーキングエリアに入っていた。前走車も身に覚えがあったのではないだろうか? 問いただすわけではなく、その場で後を追い、直接事情を聞ければ話も違ったかもしれない。ヘタに録画映像に頼り切っていたがゆえに、時だけが過ぎ、結局ナンバーが分からないとあっては後悔先に立たずだ。
USBメモリーに該当動画を入れて担当のパトロール隊員に送ってはみたものの、案の定、その返答は「ナンバーが分からない限りは……」というものだった。無下な却下ではなく、明らかな証拠として現認できない限りは難しいというエクスキューズで、事情を聞こうにも対象が判明しない限りは動くこともできないという言い分はもっともに感じた。
実用に足るか否か……大事なのはこの点だ
修理代の見積もりは40万円近くになった。フロントガラスの交換だけに留まらず、ピラーにも損傷があったようで、衝突は一度ではなく複数回だったこともわかった。こうなるともう仕方ない。車両保険の出番だが、免責額10万円の格安保険はこういう時に痛い。等級ダウンは数年先までのコストアップを確定させるものにもなる。
フロントガラスの交換にあたっては、当然敷設済のドライブレコーダーも取り外す必要があった。さらなる出費は痛いが新調に躊躇はない。新たな機種に対し、求めるものは明確だった。既存機同様に全方位を抑えられることに加え、ナンバープレートを確実に読み取れること。何より、これに尽きる。
結局は、気付くのが遅かったということだ。自分に非はなくても、それでもリスクはなくならない。そしてそんな時に助けになるのは自分自身であり、そこで頼るべきものこそ実用に足るドライブレコーダーだ。
高くついたがこれも勉強代。他山の石として、安全運転に務める皆さんもこの不幸な実例を、せめてご参考にされたし。