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自衛隊新戦力図鑑

89式小銃と弾丸は同じ……新小銃は必要なのか?

8月30日に公表された防衛予算概算要求によれば、陸上自衛隊は20式小銃を来年度に1万挺調達する計画だ。昨年度、今年度とも約1万挺が調達されており、多くの部隊で見かけるようになった。また概算要求では、海上自衛隊が205挺、航空自衛隊が2702挺、それぞれ調達することも明らかとなり、陸海空で一気に小銃更新が進む見込みだ。

防衛装備展示会DSEIにて展示された20式小銃。銃身の下に擲弾発射機(イタリア、ベレッタ社製GLX160)を取り付けている(写真/筆者)

さて、「20式5.56mm小銃」の「5.56mm」とは弾丸の口径のことを示している。より正確には「5.56mm×45弾」(弾丸の直径が5.56mm、薬莢の長さが45mm)である。先代の「89式5.56mm小銃」と同じ弾丸であるため、「なぜ新しい銃を買うのか? 89式を使い続ければいいのではないのか?」という意見も見かける。20式小銃を新規に導入する意味は、どこにあるのだろうか?

64式小銃を構える航空自衛官。1964年採用の古い小銃だが、航空自衛隊は基地警備部隊で使用し続けてきた。さすがにこのままではマズいと思ったのか、20式小銃を採用するようだ(U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Christopher Quail)

作戦環境の変化に対応した機能性

20式小銃の導入理由について、陸上自衛隊は「作戦環境の変化」を挙げている。具体的には南西諸島島嶼部での水陸両用作戦(海上から陸上への作戦)であり、そのために20式小銃は海水に対する耐腐食性や排水性が考慮されているという。耐腐食性について特に注目したいのは、銃身が腐食に強いステンレス製となったことだ。一般的な軍用小銃の銃身はスチール製だが、運用環境を考慮して、あえて加工に手間が掛かり高価なステンレス製を採用している。

また、現代の小銃は光学照準器やレーザー照準装置の使用が常識となっている。20式小銃の上面に見える凹凸や、前方部分(ハンドガード)の横長の穴は、こうした照準機器を固定するための共通規格化された連結機構であり、さまざまな装置を追加することで機能を拡張できる。一方で、89式小銃にはこのような機能は無い。

20式小銃の上面の凹凸は「ピカティニー・レイル」と呼ばれるアメリカ軍により共通規格化された連結機構。写真のようにスコープや、レーザー照準装置(スコープ前方の箱型の物体)を取り付けることができる。また、ハンドガードの穴も「M-LOK」と呼ばれる連結機構で、写真ではライトが取り付けられている(写真/筆者)
20式小銃用に採用された、照準器「エイムポイントComp M5」(写真左)とレーザー照準装置「シュタイナーOTAL-C」(写真右)。こうした装置はピカティニー・レイルやM-LOKを介して小銃に固定される(写真/筆者)

89式小銃と比較して、20式小銃はかなり短くなった。携行性が高まり、特に屋内や都市部など、障害物の多い環境での使い勝手が向上しているだろう。一方で、銃身が短くなったことで弾速が低下している懸念がある。弾丸の威力(運動エネルギー)は「弾丸の重量×速度の二乗」であり、速度が与える影響は大きい。また、弾速の低下は遠距離での弾道安定性の低下も招く(つまり遠距離の命中精度が悪くなる)。これに対して20式小銃は、銃身の内径を先端に行くほど細く絞り、緩やかなテーパーをかけることで、発射火薬のエネルギーを充分に弾丸に伝える工夫がなされている。

89式小銃と20式小銃の比較。全体的に短くなり、銃身も90mm短縮されている。一般論として、銃身が短いと発射火薬のエネルギーを充分に弾丸に伝えることができず、弾速が低下する(写真/筆者)

工業製品としての小銃

最後に、生産面の理由を挙げたい。89式小銃はプレス加工が多用されている一方で、20式小銃の主要部分はアルミ引き抜き材をCNC加工することで製作されている。工業技術の発展によって、量産に適した加工方法が変化したことが背景にある。小銃は武器であると同時に、大量生産される工業製品であり、量産性を考慮した設計や工法を取り入れる必要がある。その点でプレス加工の89式小銃は現代に適合しなくなっているのだ。

以上が、20式小銃が導入される主な理由だ。こうした背景を踏まえ、20式小銃は機能面で自衛隊の要求に充分に応えるものとなっており、また技術面でも現代小銃として高いレベルで完成させている。そのように筆者は考えている。

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