トヨタ「プリウス」が世界に先駆けハイブリッド車を誕生させた高度なTHS制御を探る【歴史に残るクルマと技術063】

1995年の第31回東京モーターショーで展示されたコンセプトカー
1995年の第31回東京モーターショーで展示されたコンセプトカー
省エネや地球温暖化がクローズアップされ始めた1990年代後半の1997年、トヨタのハイブリッド「プリウス」がデビューした。量産車初のハイブリッドは、運転条件に応じてエンジンとモーターを巧みに使い分ける高度なTHS(トヨタ・ハイブリッドシステム)により、28km/Lという驚異的な燃費を達成した。
TEXT:竹村 純(Jun TAKEMURA)/PHOTO:三栄・歴代プリウスのすべて、特別号TOYOTAプリウスのすべて

初めてハイブリッドを作ったのは、ポルシェ博士だった

モトールヴァーゲン(レプリカ)
諸説あるが、1886年にカール・ベンツが発明した世界初のガソリン自動車「モトールヴァーゲン(レプリカ)。1886年にパテント取得

世界初のガソリン車は、諸説あるが1886年にカール・ベンツが発明した「モトールヴァーゲン」とも言われているが、その2年前、1884年には英国のトーマス・パーカーが初めて実用的な電気自動車を発明したとされている。大容量のバッテリーを搭載して一時期人気を獲得したが、ガソリン車の急速な進化によって、電気自動車ブームは下火となった。その後も、電気自動車の開発は続けられ、やっと日の目を見るようになったのは2010年になってからである。

一方、ハイブリッドカーの歴史も古いが1899年に、かの有名なポルシェ博士(フェルデナント・ポルシェ:ポルシェの創始者)が初めて実用的なハイブリッドカー「ローナー・ポルシェ・ミクステ」を作った。ミクステは、ガソリンエンジンとモーターを組み合わせて燃費と性能を向上させ、一部の富裕層で人気を獲得したとのこと。

トヨタ・プリウス
トヨタ・プリウス

そして、約100年の時を経て初めて量産化に成功したのが、プリウスだ。

21世紀に間に合ったハイブリッドカー

初代プリウスの原点は、1993年に社内で検討が始まった21世紀のクルマを目指した“G21プロジェクト”であり、通常のガソリン車の2倍の燃費性能という大きな目標が掲げられた。これを達成するための手段として、ハイブリッドが選ばれたというか、ハイブリッドしかないというのが結論となって開発が進んだ。

1995年の第31回東京モーターショーで展示されたコンセプトカー
1995年の第31回東京モーターショーで展示されたコンセプトカー

プリウスの原型は発売の2年前、1995年の第31回東京モーターショーで展示されたコンセプトカーで、直噴D-4エンジンとモーターにキャパシターを組み合わせたハイブリッドで、モーター走行はできずエンジンをアシストする、言わばマイルドハイブリッドシステムだった。

これでは、目標の燃費を達成できなかったことから、2つのモーターと動力分割機構を組み合わせたTHSを開発。市販化までわずか2年、超特急の凄まじい開発であったことが予想される。

世界に衝撃を与えた28km/Lの驚異的な燃費

トヨタ・プリウス
トヨタ・プリウス

プリウスは、カローラと同等サイズの4ドアセダンで、ホイールベースを延ばして余裕の室内スペースを確保し、また燃費のために空気抵抗に優れたスタイリングを採用。空気抵抗係数(Cd値)0.30は、セダンとしてはトップレベルを達成した。

トヨタ「プリウス」のエネルギーモニター画面
トヨタ「プリウス」のエネルギーモニター画面

インテリアも先進的で、大型のセンターメーター、中央部にマルチインフォメーションディスプレイを備え、オーディオやエアコンの表示に加えて、エンジンとモーター、バッテリー間のエネルギーフローを表示。ハイブリッドシステム(THS)については後述するが、プリウスの10-15モード燃費は28.0km/L。一般的な4ドアセダンの燃費が18km/L程度なので、ハイブリッドの効果は驚異的だった。

トヨタ「プリウス」のコクピット
トヨタ「プリウス」のコクピット

車両価格は、標準仕様で215万円とやや割高だったが、当時は地球温暖化がクローズアップされた時期。特に米国ではエコカーのシンボルとして、ハリウッドスターなどに愛用されるなどの後押しもあり、2000年5月までのプリウスの累計販売は3万7000台を記録した。

ちなみに、当時の大卒初任給は19.5万円程度(現在は約23万円)なので、単純計算では現在の価値で標準仕様が約254万円に相当する。

トヨタ・プリウス
シート 前後シートはアップライトな姿勢がとれるうえ、クッション性にも優れ快適な座り心地

遊星ギアでエンジンとモーターを巧妙に制御するTHS

初代「プリウス」のハイブリッドシステム(THS)
初代「プリウス」のハイブリッドシステム(THS)

プリウスのTHSは、エンジンと2つのモーター/発電機、動力分割機構などで構成されるシリーズ・パラレル方式である。

その特徴は、エンジンとモーターの出力を動力分割機構(遊星歯車機構)によって、クルマの駆動力と発電に効率的に振り分けていること。低速トルクに優れたモーターと高速走行に有利なエンジンを効率的に使い分け、モーターまたはエンジンで走行するか、あるいはエンジンとモーターの合力で走行する。

THSのシステム構成と遊星歯車機構
THSのシステム構成と遊星歯車機構

遊星歯車は、中心のサンギア(発電機と連結)、その周りにピニオンギアとプラネタリーキャリア(エンジンと連結)、外周をリングギア(モーター駆動軸に連結)で構成。エンジンの駆動とともにプラネタリーキャリアが回転し、ピニオンギアを介してサンギアに連結している発電機が回転する。同時に外周のリングギヤも回転し、タイヤを駆動させるのだ。

トヨタ「プリウス」の透視図
トヨタ「プリウス」の透視図

またモーターは、駆動力として使うだけでなく、発電機として減速時の制動エネルギーを回生する減速回生ブレーキの役割も担う。この動力分割機構によって、エンジンを常に効率の良い高負荷の領域で運転し、エンジンとモーターを最適な出力の組み合わせで使うことができる。

搭載エンジンは、プリウスのために新開発されたアトキンソンサイクルを適用した1.5L直4 DOHCエンジン。これに組み合わせるモーターは出力30kWで、エンジンとモーターを合わせた総合的なトルクは40.5kgmに達する。

プリウスが誕生した1997年は、どんな年

1997年には、プリウス以外にもトヨタの「ハリアー」、いすゞ「ビークロス」などが誕生した。

トヨタ「ハリアー」
トヨタ「ハリアー」
いすゞ「ビークロス」
いすゞ「ビークロス」

ハリアーは、セダンのような快適性と高級感を備えた都会派の高級SUVという新しいジャンルを開拓、北米でも「レクサスRX」として販売されて大ヒットし、世界中に高級SUVブームを巻き起こした。ビークロスは、いすゞが国内向けに最後に発売したユニークなスタイリングが特徴のSUVである。

1997年12月には、京都で開催されたCOP3(第3回気候変動枠組条約締結国会議)で、地球温暖化ガスCO2などの削減目標が定められ京都議定書が採択された。会場でプリウスが参加者の移動に使われ、世界中から大きな注目を集めた。

自動車以外では、英国のダイアナ元皇太子妃が交通事故死、消費税5%がスタート。その他、「ワンピース」の連載が週刊少年ジャンプで始まった。
また、ガソリン110円/L、ビール大瓶275円、コーヒー一杯408円、カレー624円、ラーメン510円、アンパン114円の時代だった。

トヨタ・プリウス
トヨタ・プリウス

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省エネと地球温暖化が叫ばれ始めた20世紀末、CO2低減の切り札として登場した量産車初のハイブリッド車「プリウス」。世界の電動化時代の扉を開けた、日本の歴史に残るクルマであることに間違いない。

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著者プロフィール

竹村 純 近影

竹村 純

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までを…