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30名の学生が八丈島に上陸 イベントの内容は?
伊豆諸島の八丈島は、東京都ながら本州(東京の本土側)から約290km離れた離島である。面積は山手線の内側とほぼ同じで、ここに約7000人が住む。八丈島へ行くには、羽田空港から飛行機で55分程度。乗ってしまえば、うとうとする間もなく八丈島空港へ着陸する。
日産・自動車大学校Dr.Kプロジェクトは、八丈島を愛する自動車評論家の国沢光宏さんが、八丈島内を走るクルマの多くが、塩害による悪コンディションにあるのを見て、日産自動車大学校と協力して整備のきっかけを作ろうとしたのがきっかけで始まった。ちなみに、Dr.Kの「K」は、くるま(KURUMA)を意味していて、クルマを点検するドクター(Dr.)を表している。
今年2月に、日産自動車大学校の学生18名が、島民のクルマの無料点検を実施している。このときは、日産自動車大学校全5校のうち、栃木校、愛知校、京都校の学生が参加していた。
今回は、横浜校、愛媛校の学生も加わって総勢30名の学生による「おクルマ安心無料点検」となったわけだ。前回よりパワーアップしたのは、とりもなおさず前回の試みが八丈島島民に大好評だったこと、そして参加した学生たちにとっても、得るものが多かったということの表れだろう。
また、我々メディアのほかに、国土交通省物流・自動車局自動車整備科の担当者も視察に訪れるなど、大きな注目を集めるイベントとなった。
なぜ、注目を集めるのか?
なぜ、注目されるのか?
ここには、自動車整備士不足という自動車業界が抱える課題があるからだ。クルマの安全・環境技術が劇的に向上し、電子制御による新技術の採用が進んでいるのに、自動車整備士不足、自動車整備専門学校への入学者が減少している。自動車整備士の平均年齢も2022年には46.7歳と上昇傾向にある。
このままいくと、将来、我々自動車ユーザーは、愛車のコンディションを安心して維持できなくなる、あるいは車検整備を受けづらくなる可能性があるのだ。
八丈島には、自動車ディーラーはないが、10社ほどの整備工場がある。その多くは後継者問題を抱えているそうだ。
そんな背景があることを理解したうえで、「学生によるおクルマ安心無料点検」の会場に向かった。会場は八丈町役場の駐車場である。
参加した学生は、すでに2級整備士の資格を有している。だから、本来なら点検だけでなく整備もやろうと思えばできるのだが、今回は無料点検を行ない、クルマに不具合があれば、島の整備工場への入庫を勧める、という枠組みでの取り組みだ。
イベントスタートは10時。予約したクルマが続々、駐車場に入ってくる。充分なシミュレーションを重ねたとはいえ、学生たちにとっては、初めてのリアルカスタマー。クルマも実習で慣れた日産車ばかりではない。そして、コンディションもさまざまだ。学生たちの表情も緊張感が漲っている。
しかも、八丈島らしく、晴天から激しいスコール、高温多湿と天候がくるくる変わる。雨のなかでクルマの点検作業をするというのは、おそらくみんな初めてで、就職したあとも経験することがない体験だろう。なかなか過酷で、臨機応変に動く必要に迫られる現場である。学生たちにとっては、これ以上ないほど貴重な実地体験を積める場であることは容易に見てとれる。
なにより、実際にお客様から直接、クルマのコンディションについての聞き取りをして、点検終了後には「ありがとう、助かったよ」という言葉をかけてもられる体験は、きっと大きな財産になるに違いない。
学生の表情も時間が経つにしたがって、どんどん笑顔が増え動きもスムーズになる。仲間と声を掛け合ってひとつの仕事を進める喜びを感じていることがよくわかる。我々も島の人たちも「若いっていいなぁ」と思わず微笑みが漏れるほど、見る間に成長していく様子がわかる。
塩害でコンディションの悪いクルマに対面
さて、点検に訪れたクルマはどんなコンディションだったのだろう。
今回は、1日で点検できる48枠を超えて53台の無料点検を実施できた。
軽自動車・軽トラあり、BEVあり、日産以外のクルマもありでバラエティに富んでいた。
冒頭、「塩害」について触れたが、これは想像を絶するものらしい。参加者に伺うと「台風の後なんかは、クルマ全体が塩で真っ白になるんですよ」だという。年式の古いクルマも多く、”点検しがいのあるクルマ”が多い印象だ。
ボディに錆が出ている(穴が開いている場合も)のは珍しくなく、クルマによっては、ビードが出てしまっているタイヤを履いているクルマや、いつブレーキが効かなくなってもおかしくない状態のクルマがあった。学生たちは、丁寧に点検した上で、島内の整備工場への入庫を勧める。
ボンネットを開けると、ヤモリが飛び出してきたり、アリが巣くっているクルマもあったり(もちろん、素晴らしいコンディションのクルマもある)滅多に出合えないシチュエーションもあった。
イベント終了の16時を過ぎて、終礼。学生たちは、やり切った充実感を味わっていた。関係者も事故も怪我もなくイベントを終えられたことにホッとしていた。
自動車業界として自動車整備士不足問題にどう取り組むか?
参加した多くの学生は、今後社会に出て自動車整備士として働く。今回のイベントの経験は、良い想い出、体験となるだろう。
日産学園の理事長で日産自動車の常務執行役員でもある神田昌明さんは、
「日産自動車の国内事業を見ている立場からすると、いいクルマを出していいマーケティングをするということはメーカーとして大事なのですが、実際にクルマを購入していただいたお客様は、当然メインテナンスが必要です。そこを担っていただいているのは販売店の整備士の方々。整備士の方々の対応次第で『日産、いいね』となるか決まることもありますからとても重要です。整備士不足で、将来的に整備士の人数が集まらなくなってしまうと事業としても存続できなくなります。そういう危機感をもって、整備士の待遇や職場環境の改善にも力を入れています」と語る。
今回のイベントは、リクルート(日産自動車大学校の、あるいは自動車整備士専門学校の)という側面もあった。ここについても神田さんは
「こういう活動は1回だけではまったく意味がないので、長く続けていくことが大事だと思っています。自動車会社として、”クルマ離れ”ってひと言で言ってはやっぱりダメで、クルマに触れる、こういう取り組みは重要だと思っています。自動車ファンを増やしていくのは私たち日産だけではなく自動車業界全体の課題だと思いますね」
今回の八丈島での「学生によるおクルマ安心無料点検」は、日産自動車大学校の一イベント(ひとつの青春譚でもある)であると同時に、将来の自動車整備士不足、離島の移動手段の確保など、自動車業界が抱える課題を考えさせるきっかけにもなった。
日産自動車大学校の今後との取り組みについても、継続して見ていきたい。
関係者の皆さま、お疲れ様でした。