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新世代コンパクトカーの先陣を切ったのはトヨタ・ヴィッツ
1990年代のコンパクトカーは、安いのが魅力だった地味な存在だった。1999年に誕生したヴィッツは、“世界に通じるコンパクトクラスの新ベンチマークとなる”をコンセプトに掲げて、プラットフォームや主要コンポーネントすべてを一新した新世代コンパクトカーとして誕生した。
従来のシンプルな2ボックススタイルではなく、丸みを帯びた世界に通用する斬新なハッチバックスタイルを採用。ロングホイールベース化することで広い室内空間が実現され、さらにワンランク上のインテリアで上質感をアピール。パワートレインは、小型・軽量化を図った最高出力70psの1.0L直4 DOHC VVT-i(可変タイミング機構)エンジンと、5速MTおよび電子制御式4速ATの組み合わせ。
さらに世界戦略車に相応しいように走行性能や安全性能にも磨きをかけ、海外では「ヤリス」とネーミングして世界中で人気を獲得。発売当初から月販1万台を越え、初年度はカローラに続く15万台を達成し、日本と欧州でカー・オブ・ザ・イヤーをW受賞した。
フィット開発のベースとなったホンダのMM思想
フィットは、ホンダ伝統の“MM(マンマキシマム・メカミニマム)思想、すなわち”人のためにスペースは最大に、メカは最小”に基づいて開発された。
この考え方は、現在もホンダのクルマづくりに脈々と引き継がれているが、この思想が最初に生かされたクルマは1967年にデビューした「N360」である。N360は、当時としては先進的なFFレイアウトを採用して軽ながら広い室内空間を確保し、エンジンは軽量コンパクトで高性能な空冷2気筒4サイクルエンジンを搭載。これにより、快適な居住空間と高性能、かつ低価格を実現して、デビューから44ヶ月もの間、軽トップの座に君臨した。
その後「シビック」でもMM思想を適用して、横置き直4エンジンとトランスミッションをコンパクトに収めたFFレイアウトやリアサスペンションのレイアウトを工夫するなどして広い室内空間を実現し、成功を納めた。
ワンランク上の室内空間と低燃費、優れた性能を実現したフィット
MM思想は、ホンダのクルマづくりの基本となり、フィットにも当然適用された。フィットは、ヴィッツから遅れること2年後の2001年、ヴィッツとはコンセプトの異なる新世代コンパクトカーとして登場した。
最大の特徴は、コンパクトカーでありながら圧倒的なスペースユーティリティを実現したこと。通常は後席下に配置する燃料タンクを、前席下の車両中央に配置したセンタータンクレイアウトを採用して、ワンクラス上の低床の室内空間を生み出したのだ。
パワートレインは、新開発の1.3L直4 i-DSIエンジンとホンダマチックS-CVTの組み合わせ。i-DSIは、1気筒の燃焼室に2つの点火プラグを対角に配置し、点火タイミングをずらすことで急速燃焼を実現する方式。これにより、最高出力86psで燃費はクラストップの23km/L(10-15モード)を達成、これはヴィッツの値を凌いだ。
また、優れたエンジン性能と軽量なボディが相まって、小気味よい走りも実現。車両価格は、ローグレード(2WD)で106.5万円~ハイグレード(4WD)144.0万円。ちなみに当時の大卒初任給は19.7万円程度(現在は約23万円)なので、単純計算では現在の価値でローグレードが約124万円に相当する。
2001年の販売は、半年足らずで10万台を超え、翌2002年は25万790台を記録。2年目でカローラを凌ぎ、ホンダとして初の登録車トップの座を獲得した。
小さなミニバンのようなフィット、小さなセダンのようなヴィッツ
ヴィッツとフィットは、従来のコンパクトカーは安いのが魅力という既成概念を打破したエポックメイキングなコンパクトカーである。しかし、クルマづくりの方向性には違いがある。
フィットは、さまざまな状況で小さなミニバンのように人と荷物が運べるマルチな用途に対応できるのが特徴である。スペース拡大時の容量は大きく、後席の座面をハネ上げれば特に広い空間が確保できるのだ。
一方でヴィッツは、そのスタイリングからもわかるように、より乗用車的な用途が得意であり、快適なセダンのように人中心のコンパクトカーである。乗車人数が増えても乗り心地や快適性が損なわれない、チョット上級なコンパクトカーなのだ。
必然的にアクティブな若者や若いファミリー層に人気のフィット、やや落ち着いたファミリー層にヴィッツといった具合に棲み分けされたのだ。
フィットが誕生した2001年は、どんな年
2001年には、フィット以外にもトヨタの「ノア/ヴォクシー」、「エスティマハイブリッド」、ホンダの「シビックハイブリッド」などが誕生した。
ノア/ヴォクシーは、両側スライドドアを装備した3列シートのコンパクトミニバンで子育て世代から支持され大ヒットした。エスティマハイブリッドとシビックハイブリッドは、いずれもトヨタとホンダのハイブリッドモデル第2弾であり、両社による本格的なハイブリッド競争が始まった。
2000年を迎えた頃には、地球環境問題がクローズアップされるようになり、低排ガス車に対し自動車税や自動車取得税を軽減する「グリーン税制」がスタート。また、刑法改正で危険な運転で人を死傷させた際に「危険運転致死傷罪」が施行された。
自動車以外では、9月11日に米国で同時多発テロが勃発、特にワールドトレードセンタービルに航空機が激突するという映像が世界中に流されて衝撃を与えた。その他、3月に大阪のUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)が開業、9月には東京ディズニーシーが開園。アニメ映画「千と千尋の神隠し」が記録的な大ヒット、野依良治氏がノーベル化学賞を受賞した。
また、ガソリン109円/L、ビール大瓶208円、コーヒー一杯426円、カレー662円、ラーメン544円、アンパン120円の時代だった。
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コンパクトカーながら高いスペース効率を武器に、トップクラスの燃費と性能を実現したフィット。狭いというコンパクトカーの弱点を解消した新たなスタイルを提案した、日本の歴史に残るクルマであることに間違いない。