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トヨタMIRAIを上回る150kWのモーターを搭載! 航続距離は650km以上
究極のクリーンエネルギーと言われる水素。その実用化および普及に熱心な自動車メーカーのひとつがヒョンデだ。ヒョンデは2045年までのカーボンニュートラル実現を掲げており、それに向けた技術開発において重視している新エネルギーのひとつが水素である。
そんなヒョンデが10月30日、新たなFCEV(水素燃料電池車)のコンセプトカー「INITIUM(イニシウム)」をお披露目した。“イニシウム”とは、ラテン語で「始まり」のこと。27年前から開発に取り組んでいる水素燃料電池技術のひとつの集大成であると同時に、これから新しい章がスタートすることを意味しているようだ。
前述したとおり、今回発表されたイニシウムはあくまでもコンセプトカーであり、2025年前半に発売を予定している新型FCEVのプレビューという位置付け。ヒョンデは現在、「ネッソ」というSUVタイプのFCEVを販売している。ネッソは2018年の登場後、現在に至るまでグローバルで4万台以上が販売されてきたが、イニシウムは、どうやらその後継車という役割を担うようだ。
航続距離は650km以上、モーター出力は150kW
イニシウムの特徴のひとつは、大きく向上した走行性能にある。コンセプトカーということで具体的なメカニズムに関する言及はなかったが、大型の水素燃料タンクの搭載、スタックの出力とバッテリー容量の向上、そして優れた空力性能により、一充填あたりの走行目標距離は650km以上に設定。また、モーター出力は150kWにまで引き上げられ、0-100km/h加速は8秒、80-120k/h加速は6秒をマークする。開発首脳によると、「FCEVはエコだけど速くない、というイメージを覆す動力性能を実現している」という。
乗り降りしやすく、ゆったりくつろげる2列目席
イニシウムのふたつ目の特徴は、優れたユーティリティにある。残念ながらドアを開けることはできなかったため、あくまでも公式発表からの引用となるが、室内には2列のシートが設けられており、特に2列目席の乗員がリラックスできる空間が確保できているという。また、リヤドアはヒンジ構造の改善によって90度近くまで大きく開くことが可能となり、後席乗員のアクセスを容易とするほか、リヤオーバーハングを伸ばすことで、ゴルフバッグが4セット積載できるラゲッジスペースも備わっている。
ナビゲーション機能も進化した。水素ステーションの場所を考慮した最適なルートを案内してくれるのみならず、その水素ステーションの稼働状況や待機中の車両数なども確認することができるようになっている。
さらに、イニシウムにはV2L(ヴィークル・トゥ・ロード)の機能も備わっており、ソウルの一般家庭が1か月に消費する電力の3分の1を発生するというイニシウムの電気を、家電製品などに供給することができる。また、屋外ターミナルでは家庭用コンセントに直接接続することが可能となっており、イニシウムが単なる移動車両にとどまらない、電気エネルギーの供給手段としても活躍できるように設計されている。
新デザイン言語「アート・オブ・スティール」を初採用
三つ目の特徴、それがデザインだ。イニシウムはヒョンデの新しいデザイン言語「アート・オブ・スティール」を初めて取り入れたモデルとなる。アート・オブ・スティールとは、素材の特性をそのまま表現する新しいアプローチのこと。自動車の主要な素材である鋼板(スティールコイル)の美しさをデザインに取り入れたという。さらにイニシウムでは、堅牢な水素タンクをバンパーのモチーフとして取り入れたり、21インチホイールを採用することによりSUVらしいタフさも表現している。
最後に、イニシウムは世界トップクラスの安全性能を謳っていることも付け加えておきたい。車両前面の多重骨格構造と側面のボディ構造、そして9つのエアバッグの採用がその実現のキモだという。
世界各国からメディアが駆けつけた発表会イベント「Clearly Committed(明確な約束)」のステージで、ヒョンデのチャン・ジェフン社長は次のように語った。「ヒョンデは、水素があらゆる人、あらゆる物、あらゆる場所で利用される未来を切り拓くことに専念しています。この旅にぜひご参加ください」
日本ではトヨタやホンダがFCEVの開発に精力的に取り組んでいるが、ヒョンデも本気である。イニシウムのデビューにより、そんなことを実感させられたのだった。そして、今回の発表会では特にアナウンスがなかったが、イニシウムの日本導入にも期待が募る。