フルモデルチェンジしたヤマハの電動車いすユニットに試乗! パワフルな乗り味に感動創造!!

ヤマハ発動機(以下ヤマハ)が車いす業界に参入していることをご存知だろうか? 実はその開発スタートは意外にも古く、電動アシスト自転車にほぼ匹敵するおよそ30年の歴史を持っている。その電動車いすユニットが10年ぶりにフルモデルチェンジしたとのことで、早速試乗へと向かった。

TEXT:小林 和久(KOBAYASHI Kazuhisa) PHOTO:小林 和久/MotorFan.jp編集部

海外市場も見据え電動化ユニットのみの販売戦略へ

2024年10月19日、NHKのテレビ番組「新プロジェクトX〜挑戦者たち〜」でヤマハの電動アシスト自転車「PAS」の開発ストーリーを視聴した人も多かったのではないだろうか。世界初の電動アシスト自転車が誕生したのは、1993年のことだった。

1993年11月5日、世界初の電動アシスト自転車が発表された瞬間。

しかし、その2年後の1995年、その電動ユニットを応用した電動車いすは発売されていた。実は、その開発はアシスト自転車発売の前年である1989年には始まっていたのだった。

1995年7月に、ヤマハ初の車いす用電動ユニット「JW-I」を発表、11月に神奈川県、静岡県で限定販売。翌1996年11月には全国発売し、以来、進化と熟成を重ねてきた。

JWG-1

さて、電動車いすには大きく分けて3種類ある。1本のスティックを手で操作して進むジョイスティックタイプ。電動アシスト自転車と同様、一般的な手動の車いすと同じように操作し、その手によるパワーを助けるアシストタイプ。スズキセニアカーに代表されるようなハンドルを切って曲がるハンドルタイプだ。

ヤマハではこのうち、ジョイスティックタイプとアシストタイプを販売してきた。今回その中のジョイスティックタイプがフルモデルチェンジ、「JWG-1」となって登場。2025年1月より国内販売開始、欧州では4月、米国では9月の販売開始を予定している。約10年ぶりのフルモデルチェンジによるニューモデル登場だ。

ヤマハ発動機SPV事業部 JWビジネス部 部長の高橋愛さんとJWG-1

なお、ヤマハでは、市販の車いすに取り付ける「電動化ユニット」のみの販売と、そのユニットが車体に取り付けられた状態の「電動車いす完成車」を販売する両方のビジネスが採られてきたが、2025年4月からは「電動化ユニットのみの販売」のビジネス展開に一本化とするとのことで、ここでは主にユニットのみの話として読み進めていただきたい。

JWG-1

フルモデルチェンジのポイントは大きく分けて3つ。電動化ユニットの性能向上、操作部の一新、バッテリーと充電器の変更だ。

電動化ユニットの性能向上では、タイヤ軸トルクを片側25.3Nmだったものを50.1Nmまで高め、耐荷重量も125kgから160kgへと強化した。これらは主に、日本市場からの要望よりも、平均して体格が大きい欧米マーケットを意識したことが大きいとのこと。

操作部分、クルマで言えばコクピット周辺は大きく変わった。ジョイスティックによる基本的な運転方法は変わらないが、液晶パネルが車いす利用者の手前から奥へと配置。これは言うまでもなく、手前にあればその手で液晶パネルを隠してしまい、視認性を悪くしていたからであり、新たにデザインされた液晶モニターは表示を鮮明化、その見やすさもアップデートされている。

なお、後ろに立って操作する介助者側の操作部分の変更も大きい。使用者と同じ液晶画面を搭載し、アクセル操作はボタン操作からレバー操作へと変更。このレバーによる操作は、パニック時などに必要以上に強く握ってしまったときにはブレーキが掛かるフェールセーフ機能が盛り込まれている。

10年ぶりのモデルチェンジで、世の中のバッテリーは大きく進化した。JWG-1には最新の36V 6.45Ahのリチウムイオンバッテリーを搭載する。その進化のお陰で搭載するバッテリーの重量は、従来型の3.4kgから2.4kgへと大きく小型軽量化。充電器は、電池を単体で充電するバッテリーをセットするクレイドルと、充電器本体を別体化し、旅行などでクレイドルを持ち歩かずとも、車載状態で充電できるケーブルのみを携行すれば出先でも充電できるように配慮した。

パワーアップで車いす利用者に感動を想像する

さて、いよいよ新型JWG-1を従来型と比較しながら試乗してみた。まずは従来型。

乗り慣れていないとは言え、約30年のノウハウと電動アシスト自転車で培った制御技術のお陰で、ジョイスティックによる運転は実にスムーズに行えた。あえて雑に行ったアクセル操作にも程よい加速が得られるのは流石だ。不整地を想定したシーンでのその場旋回も、難しくなくこなしてくれる。

従来モデルでもスムーズな動き、上り坂なども問題なし。

次にJWG-1へと乗り換えてみる。走り出しや平地での加速感など、従来型とそれほど大きくは変化ない。ややジョイスティックのコントロールが、より直感に近くなったような気がする。ただ、悪路での旋回、上り坂など、パワーを要するシーンでは、従来以上に期待通りの加速、走行が可能だった。高負荷時の速度低下による利用者へのストレスは大幅に低減されるであろう。体格が大きく重い人なら尚更だろう。

新型のJWG-1では、高負荷時の走りに余裕が生まれる。体躯の大きな人には特に嬉しいだろう。

なお、日本では電動車いすを歩行者と同じ扱いにして歩道を「歩ける」ようにするため、その最高速度は6km/h以下に制限されている。しかし、その基準は国や地域によって様々。つまり、場所によっては今回の出力アップが最高速にも恩恵をもたらす場合もあるだろう。

感動創造企業のヤマハ発動機は、車いすを必要とする人々へも豊かな生活を提供することを忘れていない。そのことが電動車いすユニットのフルモデルチェンジした進化から窺い知ることが出来た。車いすが必要になるというのはネガティブなシーンが多いかも知れないが、こうした補装具への前向きで真摯な開発に取り組んでいる姿勢が、それを必要とする人や家族に少しでも明るさを与えてくれるのではないか、そんな思いも浮かんだ。

【JWG-1主要諸元】
■ドライブユニット
・駆動方式:後輪直接駆動
・ユニット重量(バッテリーを除く):16kg以下
・操舵方式:自走用 ジョイスティック/介助用:手動操舵(比例入力レバー式)
・駆動モーター(30 分定格):36V 150W×2
・最高走行速度:5.7km/h(16インチ)/5.9 km/h(20、22、24インチ)
・タイヤ軸トルク(片側):50.1 Nm
・ユニット耐荷重:160 kg
・手動/電動切替 有り
■バッテリー/充電器
・バッテリー容量 Li-ion 36V 6.45Ah
・バッテリー重量 2.4 kg
・充電器接続構造:クレードル/車載充電対応/オプションあり
・充電時間:5hr
・搭載位置:シート背面(バック格納、固定)
■連続走行距離(乗員重量100kg、6.0km/hの場合):20km(16インチ)/25km(20、22、24インチ)※ISO7176による測定値

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著者プロフィール

小林和久 近影

小林和久

子供の頃から自動車に興味を持ち、それを作る側になりたくて工学部に進み、某自動車部品メーカへの就職を…