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吉利(ジーリー)グループで「プレミアムBEV」を担うZEEKR
2025年9月下旬に、ZEEKRの取材で中国・上海、寧波、杭州を訪れた。上海を中心として江蘇省南部と浙江省に広がる、いわゆる「グレーター上海」と呼ばれる巨大経済圏である。人口で1億5000万人。ここがZEEKRの本拠地だ。
ZEEKRは、中国の吉利汽車(ジーリー=浙江吉利控股集団)傘下の新興ブランドだ。浙江吉利控股集団は、多くの自動車ブランドを抱える企業集団だ。ちなみに、メルセデス・ベンツの筆頭株主でもある。
さて、ZEEKRである。名前の由来はこうだ
ZE=Zero Emission(ゼロ・エミッション)
E=Electric(エレクトリック)
KR=Krypton(クリプトン)
を合わせた造語だ。クリプトンとは原子番号36のKrのことである。光をイメージしているのだろう。
ZEEKRの海外事業担当副社長のMars Chen氏の一問一答はこちらで
まず、ZEEKRの立ち位置を説明してもらった。簡単に言えば「プレミアムBEVブランド」だが、なにせ、抱えているブランド群の数が多い。
縦軸にプライスタグ(「主流→豪華」)、横軸にパフォーマンス(「日常→運動」)とされたポジショニングマップのなかで、ZEEKRはボルボとならんで、豪華より、運動よりの位置にある。このふたつのブランドより豪華でハイパフォーマンスなのは、「Polestar(ポールスター)」と「LOTUS(ロータス)」ということになる。
左下に位置するのが「PROTON(プロトン)」だ。ほかにもGEELY(ジーリー)、Lynk & Co(リンクアンドコー)、SMART(スマート)などもある。シンプルに書けば
マスブランド:ジーリー、Lynk & CO
プレミアム:ZEEKR、ボルボ、ポールスター
ラグジュアリー:ロータス
となる。
ZEEKRは、2021年以来、31万台超のBEVを市場に送り出しているが、そのうち2024年(1〜8月)が12万1540台で、その急成長ぶりがわかる。
モデルラインアップは6車種 日本へはXと009が入ってくる
現在、本拠地浙江省、そして上海周辺にR&Dセンターや工場、電池工場などを持っているほか、欧州に研究拠点とデザインセンター、アメリカにも開発拠点を持つ。
モデル・ラインアップは
ZEEKR 001
ZEEKR 009
ZEEKR X
ZEEKR 007
ZEEKR 7X
ZEEKR MIX
となっているが、現在、本格的に販売されているのは、001と009、そしてXだ。
来年2025年第4四半期に日本市場参入する際に、導入が予定されているのは、Xと009である。この2モデル同時か、あるいはXが先に導入される。
仮想敵はトヨタ・アルファード!? プレミアムMPV 009とは?
今回の取材中、移動の足に供されたのが009 だった。
見るからに堂々としたボディは、トヨタ・アルファード(全長×全幅×全高:4950mm×1850mm×1950mm ホイールベース:3000mm)よりもさらに大きい全長×全幅×全高:5209mm×2024mm(ミラー含む)×1812-1858mm ホイールベース:3205mmだ。
スウェーデンのデザインセンターでデザインされたエクステリアは、アルファードとは違った雰囲気を纏いつつ、それでいて存在感もある。ZEEKRのデザインチーフは、ステファン・シーラフ氏(前職はベントレーのチーフデザイナー)だ。
上海浦東空港から上海市街地までZEEKR009のセカンドシートに座った。これまでの中国車にありがちな、奇を衒った不思議な装備やデザインはそこにはない。極めて快適。フラットで重厚な乗り心地と静かな室内。車重が2.8トン。116kWhという巨大なバッテリーを床に敷き詰めていることだけでない。リヤにはいま日本メーカーが導入に向けて開発中のアルミ一体鋳造、いわゆるメガキャスト/ギガキャストがすでに採用されている。
009は、200億元(4000億円)を投じて開発したという電動プラットフォーム、SEA(Sustainable Experience Architecture)を採用している。これは、ZEEKRにとって、というより吉利汽車グループ全社にとって重要なプラットフォームで、実際ボルボEM90、ロータル・エレトレ、ポーラー4スター4も同じプラットフォームを使っている。
800Vアーキテクチャー、CATLの最新バッテリーである麒麟バッテリー、SiCパワー半導体、ヤマハ製プレミアムオーディオ……と最新テクノロジーが満載だ。タイヤはコンチネンタルとグッドイヤー、ミシュラン、セーフティ関係はAUTOLIV(ボルボの安全技術)が担う。
現地価格は仕様によって異なるが1500万円ほど。航続距離は116kWh仕様で582km、140kWhでは822kmだ。
ZEEKRスマートファクトリー:世界最先端の工場
快適な009の3列目シート(3列目も長距離乗っていても疲れなかった。狭くないし)に乗って、ZEEKR自慢の最新工場であるスマートファクトリーを見に行った。
2018年末に起工して2021年第3四半期に完成した工場で、5G通信を完備したまさにスマートファクトリーだ。年間30万台の生産能力があるという。メガキャストの工程はさすがに見せてくれなかったが、それ以外もすべての設備が最新で、多くの設備はドイツ製、日本製だ。
最新設備、ヨーロッパのデザイナー、最新技術……中国の新興自動車メーカーの多くは同じことを言う。だが、ZEEKRはひと味違うように感じた。まず明確な戦略があること。吉利汽車という巨大グループの一員であるために、R&Dのリソーセスが豊富であること。そしてプレミアムであることを表現するためのデザインを非常に重要視していること、それが違いかもしれない。
スマートファクトリーのエントランスホールには、さまざまなサプライヤーのロゴが飾られていた。こんな具合だ。
NVIDIA/アルカンターラ/DESAY/nesteer/ab/LEAR/yanfeng/シェフラー/MOBIS/マグナ/サンゴバン/Autoliv/ボッシュ/KH/TUOPU/Vibracoustic/CATL/ブレンボ/コンチネンタル/グッドイヤー/ヴァレオ/APTIV/ティッセンクルップ/FUYAO GROUP/VReMT/HSACO/MANDO/UAES/ZF/曙ブレーキ/ボルグワーナー/ヤマハ/Dicastal
インタビューに応じてくれたZEEKRの海外事業担当副社長のMars Chen氏は「これからの1〜2年はBEV市場の競争はさらに厳しくなると思います。でも、それを生き残った会社はすごく速い発展と遂げると考えています」と語っていた。
もちろん、彼らは「ZEEKRは当然生き残ってプレミアムBEVというマーケットで存在感を高めていける」と確信している。今回の取材で、その裏付けとなる要素を確認できた。
009が日本国内ですぐにトヨタ・アルファードのライバルになれるとは思わないが、中国、ASEANでは確実に評価を高めていくだろう。
ZEEKRの海外事業担当副社長のMars Chen氏の一問一答はこちらで