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正直に白状すると、私は環境保護への関心がまったくない。
気候変動問題に対して「セクシー」な議論が必要と言っていた大臣のおかげでビニール袋が有料化されたのはいまだに解せないし、紙ストローはトイレットペーパーの芯のようだし、大豆ミートは100%ビーフの代替にはならない。環境保護を実際の生活に取り入れると不便で窮屈で、3歩進んでいたものが2歩下がったような気分になる。
そんな環境保護の一策として電気自動車(EV)へのシフトが挙げられる。しかし、これも不思議だ。古い物を長く使うことが大切かと思いきや、なぜか車はピカピカのEVを欲している。どうしてクルマの年式が古いことを理由に高い税金を課す連中にスープ缶を投げつけて抗議を示さないのだろうか?
EVを選ぶ理由に環境保護が結びついているが故に、私のような環境保護に無関心な人にとっては、いまでも十分使えるガソリン車から価格が高くて充電に手間が掛かると言われているEVにわざわざ乗り換えることに対して“2歩下がった”感を抱いてしまう。
なので、私はEVの普及には環境保護的な視点を切り離して、利便性にのみ注目することが大切だと思っている。それを踏まえてEVを見ると、逆風とは言われつつもEVを選ぶ価値は年々高まりつつある。ここ数年間で国産および海外ブランドの様々なEVに乗る機会があったが、バッテリーは1日の取材をこなしてもまだまだ余裕が残っており、急速充電の場所も増えている。EVが登場したころと比べて車の性能もインフラも整っている。そして走りはガソリン車と比べて俊敏で軽快だ。
ただ、それでも唯一不安なのが長距離の移動だ。見慣れぬ土地や予期せぬ渋滞などを本当にEVで対応できるのだろうか? そんな折に、ボルボ史上最小のSUVかつEVである「EX30」で京都まで行く取材へ参加することとなった。
パイロット・アシストのおかげで長距離移動は快適
2023年11月に発売された「EX30」はEVであるとともに、ボルボ史上で最も小さなSUVで、ボディサイズは全長:4235mm×全幅:1835mm×全高:1550mm。似たようなサイズの海外製EVでは、他にMINIの「クーパーSE(3860mm×1755mm×1460mm)」やフィアットの「600e(4200mm×1780mm×1595mm)」、BYDの「ドルフィン(4290mm×1770mm×1550mm)」がある。
メーカー | ボルボ | MINI | フィアット | BYD |
車名 | EX30 | クーパーSE | 600e | ドルフィン |
全長 | 4235mm | 3860mm | 4200mm | 4290mm |
全幅 | 1835mm | 1755mm | 1780mm | 1770mm |
全高 | 1550mm | 1460mm | 1595mm | 1550mm |
バッテリー容量は「EX30」が69kWhでWLTCモードの一充電走行距離は560km。「クーパーSE」が54.2kWhで446km、「600e」が54.06kWhで493km、「ドルフィン(ロングレンジ)」が58.56kWhで476kmとなる。「EX30」はボディサイズの割にバッテリー容量が大きく、航続距離についても出発地点であるVolvo Studio Tokyoから京都までの約450kmを走るには十分と言える。
メーカー | ボルボ | MINI | フィアット | BYD |
車名 | EX30 | クーパーSE | 600e | ドルフィン (ロングレンジ) |
バッテリー容量 | 69kWh | 54.2kWh | 54.06kWh | 58.56kWh |
航続距離 | 560km | 446km | 493km | 476km |
「EX30」の車両本体価格は559万円だが、ボルボの中では最も安く、国によるCEV補助金なども活用すれば400万円台で購入できる。価格面ではBYDの「ドルフィン(ロングレンジ)」がCEV補助金を含めれば300万円台、日産の「サクラ」なら200万円台とさらに安価な選択肢もあるが、航続距離やサイズ感、なにより北欧仕立ての温もりある内装や12.3インチのディスプレイ、harman/kardonプレミアムサウンド・オーディオシステムといった豪華な装備が揃っていることも考えると「EX30」の商品力は高い。
ハンドルを握りながらそんなことを考えていたが、「EX30」もEVの例に漏れず走りは機敏で軽快。合流時にはアクセルを僅かに踏むだけで、スルスルとスムーズに加速。手に収まるサイズ感に加えて、ボディ前後左右の見切りも良いため、走りやすい。
東京から京都へ行くとなると最も辛いのが静岡県の横断だが、そんな時はパイロット・アシストの出番。シフトレバーを「D」からもう一段下げるとシステムが作動し、車線や前方車を検知しながら設定した速度で追従する。さらにレーンチェンジ・アシストも付いており、追従走行中に前走車を追い越そうと思ったら、ウインカーを倒すだけで車が自動で車線変更を行ない、設定した速度まで再加速する。
ただ、あえて注文をつけるなら、車線変更を開始したタイミングから加速が始まって欲しい。現状だと、車線変更が完了→前走車がいないことを確認→再加速といったプロセスで動作に滑らかさが欠けている。前もってドライバー自身でアクセルを踏み足してあげれば解消できるのだが、そこまで車任せにできればなお良い。
ちなみに、パイロット・アシストを切って自分で運転してみたら、同じペースで走行しているにも関わらず、細かな修正舵やアクセルワークの多さに改めて驚かされる。パイロット・アシストが長距離移動での疲労度の軽減に貢献していることを実感できる。
充電時間と充電量の見極めが賢いEVライフのコツ
パイロット・アシストのおかげで静岡県を難なく横断し、一路西へ。
「EX30」は慎重な運転をすれば充電なしでも京都まで行けるということだが、40%を下回ってきたので、そろそろ充電の頃合いだ。充電スタンドの順番待ちが生じるかもしれないのもEVが不便だと言われる理由のひとつでもあるが、高速道路での充電スタンドは充実しており、「高速充電なび」というアプリでは充電スタンドの性能や数、空き状況まで確認できる。
EVの充電では3つの要素を考える必要がある。一つ目は充電器の出力で、ひと口に「急速充電」といっても90kWや150kWの高出力なものもあれば、20〜50kWのものもある。二つ目は車両の充電時最大入力の能力。そして、三つ目がEVへの充電は“量”ではなく“時間”で課金されるということだ。つまり、EVを賢く使うには、充電スタンドでいかに短時間で沢山の電力を入れられるかを見極めることが大切だ。
今回はちょうど昼時だったので昼食も兼ねて刈谷PA(最大90kW)を利用することにした。到着時のバッテリー残量は30%だったが、昼食から戻ってみると63%まで充電されていた。充電にかかった料金は刈谷PA(最初の5分まで350円、以降は1分間で70円)の場合で1820円(充電時間は26分)となる。
充電と聞くと100%を目指したくなるが、そこは我慢が必要。というのも、スマートフォンと同様にEVも100%の充電には時間が掛かるため、時間で課金される急速充電器で100%を目指すのは勿体無いからだ。今回もナビ画面上では目的地のホテルまでは46%あれば十分とのことだったので、15分ほどの充電でも良かったわけだ。
充電スタンドの使い方を極めれば、まだまだコストを削れる。目的地のホテルで一晩普通充電しておくことも考えると、ガソリン車では京都までそれなりに掛かる燃料代が、EVだとほとんど掛かっていないに等しい。これはEVの強みと言える。
翌日は夜明け前から京都の街中で撮影。京都は大通りこそ運転しやすいものの、そこから外れると道幅が狭いところが多い。そんな道に入り込んでしまっても、「EX30」は視点が高くボディの先端を把握しやすいため、気兼ねなく走ることができた。
ちなみに、帰りは新幹線だった。京都〜東京までは約2時間と、車と比べて圧倒的に早い……のだが、私は非常に困惑している。
というのも、前の座席の奴はリクライニングを思いっきり倒していて、背もたれが私の鼻に当たりそうだ。その上、後ろの奴はいびきがうるさく、横には全身タトゥーまみれの男が駅弁を貪っているからだ。「EX30」の柔らかなシートと比べたらクッションなどないに等しいほど硬い新幹線のシートに身じろぎ一つせず、息を殺しながら、約2時間を過ごした。
東京駅に着いてからは在来線を乗り継ぎ、ようやく自宅へ。往路と違って、想像以上に疲労度が溜まっていたのか、横になって休むことにした。薄れゆく意識の中、これだけは確信を抱いた。
「帰りもEX30が良かった……」