クセになる可愛さで注目のコンパクトEVが2025年春に日本上陸! 走りも装備も自慢のヒョンデ「インスター」に早速乗ってみた

親しみやすいルックス、扱いやすいサイズ、そして乗ってみればしっかり! そんな三拍子が揃ったヒョンデの最新BEV(電気自動車)、インスターを生まれ故郷の韓国でいち早く試乗した。日常の足となるセカンドカーとしても、そしてBEVのエントリーカーとしても最適なモデルで、2025年春の日本上陸が楽しみとなる1台だ。

全長3825mmのコンパクトサイズ。だけど走りはしっかり、装備も充実!

約20年前、「人は見かけが9割」というタイトルの本がベストセラーになった。その一方で、古くから「人は見かけで判断してはいけない」という格言がある。インスターというクルマを評するのには、そのどちらもが相応しいかもしれない。今回、韓国でインスターの試乗を終えて、そんなことを思った。他のどのクルマとも似ていない、無骨なようでいて可愛らしさも感じられるスタイリング。そして実際に走らせてみれば、コンパクトなボディから想像する以上のしっかり感を抱かせてくれる。その二面性こそ、インスターの大きな魅力だ。

ヒョンデ・インスターの画像はこちら

そんなインスターは、6月に韓国の自動車メーカーであるヒョンデが発表した新型BEV(バッテリー式電気自動車)。日本にも2025年春の導入が予定されているが、それに先立って韓国で開催されたグローバル試乗会に参加することができた。インスターの生まれ故郷の地で実際にインスターを見て触れて乗ってみた印象をレポートしたい。

ヒョンデ インスター
ヒョンデ・インスターの国際試乗会は韓国のソウルで行なわれた。

エクステリア:SUVらしいタフさの中に可愛らしさがチラホラ

まずは、そのエクステリアからチェックしてみよう。張り出したフェンダーに組み合わされた樹脂むき出しのホイールアーチ、シルバーのスキッドガードと一体化したアンダーグリルなどでタフなSUVらしさを演出。その一方で、ヒョンデお得意のピクセルグラフィックを用いたウインカーやテールライト、サークル形状のデイタイムランニングライトなどで愛らしさもアピールするなど、ユニークな佇まいとなっている。

ボディサイズは、全長3825mm×全幅1610mm×全高1575mm。いわゆるAセグメントと言われるカテゴリーに属する、コンパクトな体躯の持ち主だ。日本車だとスズキ・クロスビーが全長3760mm×全幅1670mm×全高1705mmなので、インスターはそれよりもちょっと長くて、幅が狭く、背が低いというサイズになる。

ヒョンデ インスター
存在感のあるフェンダー、「回路基盤スタイル」と呼ばれるバンパー、シルバーのスキッドプレートがデザインの特徴。また、黒色の部分は廃タイヤをリサイクルした着色料を原料とするなど、持続可能な素材も採用れている。
ヒョンデ インスター
灯火類は上部がウインカー、下部がデイタイムランニングライトとヘッドライトとなる。
ヒョンデ インスター
「ピクセルグラフィック」のテールライトが印象的なリヤビュー。一部のボディカラーではツートーンのルーフも選択することができる。
ヒョンデ インスター
リヤドアのハンドルはピラー部に目立たなく配置。その上には可愛らしいグラフィックがあしらわれている。

このインスター、韓国では「キャスパーEV」と呼ばれているのだが、もとから存在していたガソリン車のキャスパーをBEV化したモデル。で、キャスパーは韓国版軽自動車規格(キョンチャと呼ばれる)に適合するサイズ(全長3.6m×幅1.6m)に収まっているのだが、BEV化に当たっては重量増に対応するためボディが大型化された。具体的には、全長は+230mm、全幅は+15mmとなっている(全高は変化なし)。ユニークなのは、ホイールベースまで変わっていること。同じボディで、ガソリン車とBEVの両方を揃えているモデルは最近、少なくないが、インスター(=キャスパーEV)はキャスパーに対して、180mmも長い2580mmのホイールベースになっているのだ。

そのおかげもあって、ボディサイズの数値から想像する以上にインスターの居住空間は余裕がある。日本のハイト系軽自動車のように広々…というわけではないが、必要にして十分、という印象だ。

ヒョンデ インスター
インスターのボディサイズは、全長3825mm×全幅1610mm×全高1575mm。キャスパーより230mm長く、15mm幅広い。
ヒョンデ インスター
ホイールは15インチ・スチールと15インチ・アルミ、そして写真の17インチ・アルミが用意されている。
ヒョンデ インスター
こちらは2021年から韓国で発売されているガソリン車のキャスパー。姿形はインスターとよく似ているが、サイズはキャスパーの方がひと回り小さい。

インテリア:運転席までフラットに倒せる! ユニークな装備が満載

運転席に座ってみると、装備の充実ぶりに驚かされる。メーターは10.25インチのフル液晶タイプで、ダッシュ中央上部に鎮座するセンターディスプレイも10.25インチの大型サイズ。どちらも見やすさは上々だ。そしてナビゲーション機能が備わるのはもちろんだが、頭上から見下ろしたように周囲の状況を表示する360度カメラ、ウインカーを点灯すると車両の後側方をメーター内に表示するリヤサイドモニターも完備。さらには運転席&助手席にはヒーターのみならずベンチレーションも備わるほか、非接触式のスマートフォン充電器、64色が揃ってドライブモードやスピードアラートにも連動するアンビエントライト、iPhoneやAndroidスマートフォン、Apple Watchといったデバイスでドアのロック/アンロックが可能なデジタルキーなど、至れり尽くせりだ。日本仕様でも、同様の豊富な装備に期待したい。

ヒョンデ インスター
インスターのインパネ。内装色はベージュ(写真)とブラックが用意されている。
ヒョンデ インスター
中央上部には10.25インチのナビゲーション付きタッチスクリーンを配置。
ヒョンデ インスター
エアコンやシートヒーター&ベンチレーションなどの操作系はオーソドックスなボタン式。初対面でも戸惑うことなく操作することが可能だった。センターコンソール下部に、スマホのワイヤレス充電トレーを設けている。

続いて、後席に移動してみよう。リヤシートは5対5分割式でリクライニングだけでなく、80mmの前後スライドが可能というのが特徴。一番後ろにシートを下げた状態では、足元スペースは余裕たっぷり。身長が高い人でも膝まわりに十分な空間が残るはずだ。また、フロアもセンタートンネルがなくてフラットなので、簡単に左右を移動できるのもうれしい。ちなみに、前席も左右のウォークスルーが可能だ。

ヒョンデ インスター
前席はベンチシートになっており、座面中央部分に2本分のドリンクホルダーが設けられている。ちなみにシート表皮には、ペットボトルから再生されたポリエチレンテレフタレート(PET)が100%使われている。
ヒョンデ インスター
後席は5対5分割式で、独立してリクライニングと前後スライドが可能。
ヒョンデ インスター
後席足元部分のフロアはフラット。ウォークスルーがしやすいのがマル。

荷室はどうかというと、リヤシートを一番後ろに下げた状態だと、正直なところ、全長が3.8mほどということもあってそれほど広くはない。搭載する荷物の量に応じて、リヤシートを前に出して調整する必要があるだろう。

だからと言って、インスターのユーティリティが劣っていると思われるのは早計だ。荷物が多い場合はリヤシートの背もたれを前倒しにすれば荷室を拡大することができるが、それだけにとどまらない。インスターは助手席と運転席の背もたれも前倒しすることができるから、サーフボードなどの長尺物も車内に積載したり、助手席シートバックにオプションで用意されているトレーを載せてテーブル代わりに使ったりと、多彩な使い方が可能となっているのだ。

ヒョンデ インスター
ラゲッジルームの容量は最大351L。写真は後席を前方にスライドさせた状態。
ヒョンデ インスター
もっと荷物を積みたい、という場合は後席の背もたれを前倒しすればOK。なんと、運転席の背もたれまで前倒しできるのはユニーク。

パフォーマンス:370kmの航続距離でちょっとした遠出にも対応

さて、BEVで気になるのはやはり、航続距離だろう。インスターには2種類の容量が異なる駆動用バッテリーが搭載されている。スタンダードモデルには容量42kWhのバッテリーを搭載し、一充電走行距離は327km(WLTPモード)。そしてロングレンジモデルのバッテリー容量は49kWhで、一充電走行距離は370km(同)を実現している。これは、どちらも15インチ・タイヤ装着モデルの場合で、17インチ・タイヤ装着モデルはそれぞれ303km/360kmとやや航続距離は減少する。参考までに日産サクラはどうかというと、20kWhのバッテリーを搭載し、一充電走行距離は200km(WLTCモード)。サクラで遠出はちょっと厳しいけれど、インスターならちょっと足を伸ばす気になれる。そんな航続距離の違いと言えるだろう。

ちなみに、インスターが搭載する駆動用バッテリーの種類は三元系リチウムイオン電池。BYDが得意とするリン酸鉄リチウムイオンバッテリーにしなかった理由は、インスターはボディが小型であり搭載できる電池容量に限りがあるため、エネルギー密度の高さを重視したからだという。

スタンダードモデルとロングレンジモデルでは、モーターにも違いがある。最高出力は前者が71.1kW(97PS)、後者が84.5kW(115PS)。なお、最大トルクは147Nmで両者共通だ。

ヒョンデ インスター
床下に三元系リチウムイオンバッテリーを搭載。容量はスタンダードモデルが42kWh、ロングレンジモデルが49kWh。バッテリーヒーティングシステムステムや⾼効率ヒートポンプも備えている。
ヒョンデ インスター
フロントフード下にはトランクはなし。モーター出力はスタンダードモデルが97PS(71.1kW)、ロングレンジモデルが115PS(84.5kW)。

というわけで、いよいよインスターの試乗開始だ。アクセルを踏み込むと、スルスルと静かに走り出す。そこから交通の流れに乗ろうと加速してみると、すこぶる滑らかに速度が上昇していく。

サイズの大きなラグジュアリークラスのクルマは、そもそもガソリン車でもスムーズな走りが味わえるもの。一方、ガソリン車のコンパクトカーの場合は、どうしても小排気量エンジンならではのがさつな振動や音が目立ちがちだ。

今回の試乗車はロングレンジモデルということで、最高出力84.5kW(115ps)、最大トルク147Nmのモーターを搭載したモデル。その数値からも想像できるとおり、「すごく速い!」というわけではない。しかし、その加速力は街中や高速道路での走行においては必要にして十分なレベル。そして何よりも、日常の走行域でのスムーズさがうれしい。インスターに乗っていると、「コンパクトカーこそBEVが向いているのではないか」という気持ちがどんどん強くなってくるのだ。ちなみに公称値では、最高速がロングレンジモデルでは150km/h、スタンダードモデルが140km/h、0-100km/h加速がそれぞれ10.6秒/11.7秒となっている。

キャスパーからショックアブソーバーもアップグレードされているインスターは、そのおかげもあって乗り心地も上々。そして、室内が静かに保たれているのも印象的だ。フロント&リヤドアの両方に採用した二重シールや、フロントドアガラスの肉厚化が効果を発揮していると思われる。サイズは小さいけれど、インスターの走りに安っぽさはない。

ADAS(先進運転支援機能)の充実ぶりにも驚かさせる。全車速対応のアダプティブクルーズコントロール(ACC)、車線維持支援機能(LKA)、ブラインドスポット衝突回避支援(BCA)などてんこ盛りだ。コンパクトカーだから…という言い訳は、インスターからは聞こえてこない。

今回の試乗で気になったところと言えば、高速道路を走っていてステアリングがちょっと軽めに感じられたこと。そのおかげで、市街地では軽快な印象でキビキビと走れるし、ドライブモードを「スポーツ」にセットすれば手応えが増すのだが…。プレスリリースによると、「ステアリングシステムの取り付け部周辺のボディ補強と内部ステアリングダンパーの最適化」が施されているそうで、さらに筆者の後に試乗した大先輩の日本人ジャーナリストは「これが普通だよ」と言っていたので、気にしすぎだったのかも!? 日本の路上で、あらためて確かめてみたい。

ヒョンデ インスター
滑らかでスムーズな走りのインスター。コンパクトカーこそ、BEVのメリットが活きるというのが実感だ。
ヒョンデ インスター
韓国も日本と同様、都市部ではゴチャゴチャ入り組んでいる道も少なくない。そんな場所を走る際は、インスターのコンパクトなサイズがうれしい。
ヒョンデ インスター
インスターのフロントサスペンション。
ヒョンデ インスター
インスターのリヤサスペンション。
ヒョンデ インスター
サスペンション形式はフロントがマクファーソンストラット、リヤがトーションビームと、FWD車のスタンダード。
ヒョンデ インスター
ステアリングの左スポークの下部分にドライブモード切り替えスイッチを装備。
ヒョンデ インスター
モードを切り替えると、液晶メーターの表示も変更される。こちらは「ノーマル」。
ヒョンデ インスター
「スポーツ」の表示画面。ドライブモードはそのほかに「エコ」と「スノー」が選べる。

まとめ:日本発売は2025年春。インパクトのある価格設定にも期待!

と言うことで、クルマ自体の魅力は十分のヒョンデ・インスター。気になるのは、日本での販売価格だ。兄貴分であるコナのスタンダードモデルがバッテリー容量48.6kWhで399万3000円、バッテリー容量が64.8kWhのロングレンジモデルが452万1000円から。となると、インスターの価格は300万円台前半〜中盤…あたりが現実的なところだろうか。

日本のBEV市場は、日産サクラが販売台数の約4割を占めている。その人気の大きな要因は、約260万円からと言う手頃な価格だ。そんなサクラの上級モデルは、約308万円。インスターがそれに近いような価格をもしも実現することができたならば、航続距離に優れるぶん、インスターの存在感が日本でもグッと強まってくるのではないだろうか。

ヒョンデ インスター
充電口はフロントバンパー部に配置。試乗車は韓国仕様のためコンボとなっているが、日本仕様ではCHAdeMOになるはずだ。
ヒョンデ インスター
試乗の途中、韓国でヒョンデが展開する超高速充電ステーション「E-pit」に立ち寄った。最大出力はなんと350kW。2024年3月時点で54ヶ所・286基が設置されているが、25年までに500基に増やす計画だという。

ヒョンデ・インスター(海外仕様)
全長×全幅×全高:3825mm×1610mm×1575mm
ホイールベース:2580mm
サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rトーションビーム式
モーター最高出力:スタンダード 97ps(71.1kW)/ロングレンジ 115ps(84.5kW)
モーター最大トルク:147Nm
駆動方式:FWD
電池:リチウムイオン電池
総電力量:スタンダード 42kWh/ロングレンジ 49kWh
総電圧:スタンダード 266V/ロングレンジ 310V
一充電走行距離(WLTPモード):スタンダード 327km/ロングレンジ 370km

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著者プロフィール

長野 達郎 近影

長野 達郎

1975年生まれ。小学生の頃、兄が購入していた『カーグラフィック』誌の影響により、クルマへの興味が芽生…