目次
マスク氏は有人であることが「非効率的」と主張
マスク氏は、プログラミングにより編隊飛行する小型ドローンの映像に添えて「いまだに愚か者はF-35のような有人戦闘機を製造している」とポスト。さらに、関連する投稿で「有人戦闘機はミサイルを送り込んだり、爆弾を落としたりするには非効率的。無人機なら、パイロットに掛かるコストなしに、それらの役割を代替できる」とも主張した。
マスク氏はまた「敵が高性能な地対空ミサイルやドローンを持っていた場合、有人戦闘機がすぐに撃墜されてしまうことは、ロシア-ウクライナ戦争が示している」とも発言。地上防空兵器に対する戦闘機の脆弱性にも言及している。たしかに、高価な機体にコストの掛かる人間を乗せて、リスクの高い攻撃を行なうことは、「非効率的」かもしれない。では、有人戦闘機は無人戦闘機に置き替えることは可能なのか?
無人戦闘機は有人戦闘機の替わりになることができのか?
まず、無人戦闘機を実現するうえで課題となるのが、「戦闘状況を把握し、的確な判断を下せる自律型AI」の開発だろう。単に目的の場所を攻撃するだけなら、戦闘機でなくとも、長距離巡航ミサイルで充分だ。戦闘機には、複雑な任務において、問題に直面するたび判断を下しつつ、目的を達成することが求められている。この点で、現時点のAIにはパイロットの替わりが務まるほどの状況認識・判断力はnい、というのが多くの識者の意見だ。
また、今後の戦闘機に求められる役割が、戦闘だけに限られない点も重要だ。戦争全体の様相が、従来の「空vs空」「陸vs空」といった単純なものから、「陸海空・宇宙・サイバー」などの幅広い領域(ドメイン)を横断・連結した、複雑なものへと変化している。こうした戦いは「マルチドメイン作戦(領域横断作戦)」と呼ばれる。
F-35は、この変化の中心にある。同機は、多様なセンサー(レーダーや光学・赤外線装置)と、その情報を統合する能力、そして、ネットワークを介して味方の部隊や装備とシームレスに連接してデータを共有する能力によって、単なる戦闘機ではなく、味方全体の戦闘力を底上げする存在、「戦力増幅装置(フォース・マルチプライヤー)」になることが期待されている。そして、多様化する任務のなかで、的確な判断を下すことができる人間(パイロット)の存在は、ますます重要になっている。
「有人・無人チーム(MUM-T)」の時代がやって来る
では、無人戦闘機は絵空事なのだろうか? そうとも言えない。人的損失に対するマスク氏の懸念はもっともだ。アメリカや日本では、すでに無人戦闘機の研究開発がスタートしている。偵察や戦闘、対地攻撃など、リスクのある役割を、有人戦闘機の替わりに引き受けようというものだ。人的損耗のリスクを減らすだけでなく、戦闘機の機能を拡張し、任務の効率性を向上させることが期待されている。
また、完全無人戦闘機には倫理的な問題もある。人間の判断なしに、機械が目標(人間)を攻撃するシステムは「LAWS(自律型致死兵器システム)」と呼ばれ、国際的に議論されている。日本やアメリカなど、西側諸国はLAWSを否定し、「マン・イン・ザ・ループ(意思決定のなかに人間がいる)」の必要性で一致している。
結論を言えば、今後の(少なくとも次の世代の)戦闘機は有人と無人の両立が必要だと、多くの識者は考えている。パイロットが存在することでのリスクやコストはマスク氏の言う通りだが、パイロットを欠くシステムは技術的にも倫理的にも、まだまだ課題があるからだ。