イーロン・マスク氏がF-35戦闘機を大批判!? 「パイロット不要」の無人戦闘機の時代がやって来るのか?

F-35のような有人戦闘機は、「非効率的で時代遅れ」とマスク氏は批判しているが、それは正しいのだろうか?(Photo by Tech. Sgt. Benjamin Mota, 434th Air Refueling Wing)
「テスラ」や「スペースX」など先進的企業のCEOとして知られるイーロン・マスク氏が、X(旧Twitter)上でステルス戦闘機F-35が「非効率的」であると批判。無人航空機に置き換えるべきと投稿し、大きな話題となった。近年、無人兵器の発展は著しいが、マスク氏の意見は正しいと言えるのだろうか?
TEXT:綾部剛之(AYABE Takayuki)

マスク氏は有人であることが「非効率的」と主張

マスク氏は、プログラミングにより編隊飛行する小型ドローンの映像に添えて「いまだに愚か者はF-35のような有人戦闘機を製造している」とポスト。さらに、関連する投稿で「有人戦闘機はミサイルを送り込んだり、爆弾を落としたりするには非効率的。無人機なら、パイロットに掛かるコストなしに、それらの役割を代替できる」とも主張した。

マスク氏のポストのスクリーンショット。編隊飛行する小型ドローンの動画が添えられている。F-35を槍玉に挙げたのは同機のこれまでの開発遅延や、それによる開発費高騰を踏まえてのことだろう。

マスク氏はまた「敵が高性能な地対空ミサイルやドローンを持っていた場合、有人戦闘機がすぐに撃墜されてしまうことは、ロシア-ウクライナ戦争が示している」とも発言。地上防空兵器に対する戦闘機の脆弱性にも言及している。たしかに、高価な機体にコストの掛かる人間を乗せて、リスクの高い攻撃を行なうことは、「非効率的」かもしれない。では、有人戦闘機は無人戦闘機に置き替えることは可能なのか?

アメリカ陸軍による小型ドローン集団と歩兵部隊との連携実験。ロシア-ウクライナ戦争では、両軍とも小型ドローンを多用し、戦術に大きな影響を与えたが、広大な海や空の戦いでは、短時間しか飛行できない小型ドローンはあまり役に立たないだろう(Photo by Fort Campbell Public Affairs Office)

無人戦闘機は有人戦闘機の替わりになることができのか?

まず、無人戦闘機を実現するうえで課題となるのが、「戦闘状況を把握し、的確な判断を下せる自律型AI」の開発だろう。単に目的の場所を攻撃するだけなら、戦闘機でなくとも、長距離巡航ミサイルで充分だ。戦闘機には、複雑な任務において、問題に直面するたび判断を下しつつ、目的を達成することが求められている。この点で、現時点のAIにはパイロットの替わりが務まるほどの状況認識・判断力はnい、というのが多くの識者の意見だ。

アメリカ空軍の自律AI搭載試験機「X-62A」。F-16をベースにした改修機。軍は以前より、無人機についての研究開発を進めている(Photo by Richard Gonzales, 412th Test Wing)

また、今後の戦闘機に求められる役割が、戦闘だけに限られない点も重要だ。戦争全体の様相が、従来の「空vs空」「陸vs空」といった単純なものから、「陸海空・宇宙・サイバー」などの幅広い領域(ドメイン)を横断・連結した、複雑なものへと変化している。こうした戦いは「マルチドメイン作戦(領域横断作戦)」と呼ばれる。

F-35は、この変化の中心にある。同機は、多様なセンサー(レーダーや光学・赤外線装置)と、その情報を統合する能力、そして、ネットワークを介して味方の部隊や装備とシームレスに連接してデータを共有する能力によって、単なる戦闘機ではなく、味方全体の戦闘力を底上げする存在、「戦力増幅装置(フォース・マルチプライヤー)」になることが期待されている。そして、多様化する任務のなかで、的確な判断を下すことができる人間(パイロット)の存在は、ますます重要になっている。

現代戦は、陸・海・空の従来からの領域(ドメイン)に、宇宙・サイバーなど新たな領域を加え、これらの領域の部隊が相互に連携して戦うものへと変化している。これを「マルチドメイン作戦(領域横断作戦)」と呼ぶ。

「有人・無人チーム(MUM-T)」の時代がやって来る

では、無人戦闘機は絵空事なのだろうか? そうとも言えない。人的損失に対するマスク氏の懸念はもっともだ。アメリカや日本では、すでに無人戦闘機の研究開発がスタートしている。偵察や戦闘、対地攻撃など、リスクのある役割を、有人戦闘機の替わりに引き受けようというものだ。人的損耗のリスクを減らすだけでなく、戦闘機の機能を拡張し、任務の効率性を向上させることが期待されている。

有人戦闘機と連携することを目的にアメリカ軍が研究開発を進めている「XQ-58Aヴァルキリー」。有人機に替わって危険な任務を担うことが期待されている(Photo by Master Sgt. Tristan McIntire)

また、完全無人戦闘機には倫理的な問題もある。人間の判断なしに、機械が目標(人間)を攻撃するシステムは「LAWS(自律型致死兵器システム)」と呼ばれ、国際的に議論されている。日本やアメリカなど、西側諸国はLAWSを否定し、「マン・イン・ザ・ループ(意思決定のなかに人間がいる)」の必要性で一致している。

結論を言えば、今後の(少なくとも次の世代の)戦闘機は有人と無人の両立が必要だと、多くの識者は考えている。パイロットが存在することでのリスクやコストはマスク氏の言う通りだが、パイロットを欠くシステムは技術的にも倫理的にも、まだまだ課題があるからだ。

キーワードで検索する

著者プロフィール

綾部 剛之 近影

綾部 剛之

軍事関連をメインとした雑誌/書籍の編集者。専門は銃器や地上兵器。『自衛隊新戦力図鑑』編集長を務めて…