トマトカレーの名産地からスバルのモノづくりが変わる! クロストレックのトランスアクスルを生産する北本工場に潜入

2024年12月から、いよいよクロストレックに搭載が始まったスバル渾身のストロングハイブリッド。そのトランスアクスルの生産は、埼玉県の北本市にある工場で行なわれている。実はこの北本工場、汎用エンジンの生産の終了を終えてからは倉庫として使われていた施設をリニューアルしたもの。再始動にあたっては、スバルが進める「モノづくり革新」のモデル工場としての役割も課されているのだ。

従業員にとっては働きがいがあり、地域からは愛される工場を目指す

トマトカレーで有名な(?)埼玉県北本市にSUBARU(スバル)北本工場がある。この工場は長らく、発電機や芝刈り機用などの汎用エンジンを生産していたが、経営資源を自動車事業に集中させるため2019年3月に生産を終了。2022年12月からリニューアル工事を開始し、ストロングハイブリッド用トランスアクスル生産工場に生まれ変わった。2024年10月より生産が始まっている。

トマトの名産地として知られる埼玉県北本市。そのトマトを使ったご当地B級グルメとして親しまれているのが、「北本トマトカレー」だ。家庭で楽しめるレトルトタイプ(写真)も販売されている。

北本工場の敷地面積は8万4300m2。東京ドーム1.8個分の広さだ。2層構造の工場棟の延べ床面積は6万4430m2で、1階がケースなどの加工エリア、2階は組み立てエリアになっている。2024年12月1日時点の従業員は256名。生産能力は18万6000台/年だ。メディア向け「見学ツアー」で工場棟を見せていただいたところ、広大な空きスペースが確認できた。「能増(生産能力の増強)は可能」と、工場長は説明した。

ストロングハイブリッドシステム用のトランスアクスルの生産を行なっている北本工場。
ストロングハイブリッド「S:HEV」のトランスアクスル。2024年12月から、クロストレックに搭載が始まっている。

期待大!スバルのストロングハイブリッドの仕組みはこうなっている。クロストレックe-BOXER(ストロング)は燃費2割向上!

次世代スバルの主力パワーユニットになるべく開発されたe-BOXER(ストロングハイブリッド)がクロストレックに搭載されて登場する。水平対向エンジン+トヨタ式ハイブリッドを組み合わせた縦置きのトランスアクスルは技術的にも見所満載だ。詳しく解説しよう。 TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota) PHOTO:山上博也(YAMAGAMI Hiroya)FIGURE:SUBARU

2022年12月からリニューアル工事を開始し、24年10月から量産が始まったばかり。1階が機械加工を行なうエリア、2階が組み立てを行なうエリアとなっている。
北本工場について説明をしてくれた佐伯一哉・北本工場長(モノづくり本部 第3製造部 担当部長)。

北本工場をリニューアルするにあたり、スバルは7つのポイントに注力した。ひとつは「量産課題」で、品質向上と安定化に向けた課題の克服がテーマ。具体的には“カンコツ”作業の低減だ。カンコツとは「勘」と「コツ」のことで、マニュアル化しにくい熟練の技を指す。カンコツに起因して不良が出ているとの分析から、北本工場では新しい工法や設計仕様を織り込んだ。

注力ポイントその2は「新規ユニット」である。何かというと、開発部門と製造部門の連携をこれまで以上に強くするということだ。FMEA(Failure Mode and Effects Analysis)という不具合を未然に防ぐ解析技術がある。従来は設計部門と製造部門で個別にFMEAを行なっていたが、北本工場では設計側と製造側で協調してFMEAに取り組み、不具合を未然に防ごうというわけだ。

注力ポイントその3のテーマは「安全」であり、とくに0次安全の構築に取り組んだ。全館空調の導入が代表例である。工場は夏暑く、冬は寒いと相場は決まっていたが、暑いと集中力が低下し、集中力が低下すると不具合(製品不良、事故など)発生の危険度が高まる。このような考えから、年間を通じて快適な温度に保つことにしたのだ。12月中旬に訪れた見学ツアーでは工場棟をあちこち歩き回ったが、まったくの上着要らずだった。

安全面では、歩行者と動力車の分離を徹底する歩車分離を徹底した。これまでは歩行者とフォークリフトなどの動力車がすぐ近くで作業する状況もあったという。この場合は接触事故の懸念があるし、フォークリフトの運転者としては歩行者の飛び出し等を気にするあまり安心して運転できない状況だった。北本工場ではこの問題を解決している。

これまでのスバルの工場では、ほぼなかったという全館空調を導入している北本工場。真夏の暑さで集中力が低下し、品質不具合や災害などの発生を予防するのに効果的だ。
歩行者と動力車の分離を徹底することにより、接触などの事故が起きないような配慮がされている。

注力ポイントその4は「エンゲージメント」だ。言い換えれば、「衣・食・住も魅力的な工場づくり」ということになる。見学ツアーではその一端を目にした。案内された社員食堂は明るく、ファミレスのようなボックス席もあれば、カウンター席もあり、アウトドアをイメージしたスペースもある(メニューも豊富にそろっていそうだった)。仲間と語らう空間としても使えるし、ひとり時間を楽しむのもいい。さまざまな使い方が可能だ。

食堂の近くには24時間営業(後述するが、昼夜2直勤務体制だ)のコンビニがあり(外部の人間にとって魅力的なオリジナルグッズが目に付いた)、リフレッシュルームと名づけたトレーニングルームがある。このように、従業員の満足度を上げる取り組みが進んでいる。

明るく清潔な雰囲気の社員食堂。
社員食堂と同じフロアには、アウトドアっぽい雰囲気のスペースも。
24時間営業のコンビニ。帽子やシャツといった制服も販売されている。
トレーニング設備が揃ったリフレッシュルームは、気分転換に効果がありそうだ。

注力ポイントその5は「ダイバーシティ」。東京・お台場の商業施設のことでもアンテナのことでもなく、「人の多様性に配慮した職場環境」を指す。女性やシニアの活躍を推進するのが狙い。ハード面では、エルゴノミクス(人間工学)評価基準を適用し、作業負荷を適正化した。

具体的には、VRにより3Dで再現されたバーチャル工場で作業負荷を事前検証。主に女性を対象に肉体的な負荷を計測し、得られたデータをもとに、高い位置で作業を行なう場所には踏み台を設けたり、大きな力が必要な工程ではホイスト(重い物を持ち上げたり、降ろしたりする機械)を設置したりして負荷・負担軽減を図っている。

トランスアクスルの組み立て現場では、重量物は機械のサポートによって作業者に負担を掛けないような仕組みとなっている。

一方、ソフト面では昼夜2直勤務と昼勤固定勤務を導入。北本工場では通常、朝8時からの昼勤と夜9時45分からの夜勤の昼夜2直勤務体制としている。群馬製作所では連続3直、あるいは連続2直のため、夕方が勤務時間となる。この場合、家族と一緒に夕飯がとれなかったり、保育園に子供を迎えに行けなかったりなどの困りごとが発生する。

この困りごとを解消するため、北本工場では夕方の時間帯を仕事時間から除いた昼夜2直勤務体制を敷いた。また、昼勤固定勤務は産休明けや子育てなどで夜の仕事は当面きついといった要望に応えるために設けたという。昼勤固定勤務が増えると夜勤が人手不足になるため、夜勤固定勤務を導入する予定だ。

注力ポイントその6は「物流」であり、ホワイト物流を目指している。従来、スバルの工場では部品を運んできたトラックのドライバーが工場のフォークリフトを借用し、荷物を降ろして所定の位置まで運んでいた。トラックドライバーによる自主荷役を行なっていたのである。

北本工場ではこれを廃止(自動車メーカー初だそう)。トラックドライバーはトラックポートに乗り付けるだけでオーケー。荷役はすべてスバル側で行なうようにした。自主荷役廃止は「トラックドライバーの働き方改革に貢献できる取り組み」とスバルは考えている。

北本工場では、トラックのドライバーではなく、スバルの作業員が荷物の載せ下ろしを行なう「ホワイト物流」を採用する。

7つめの注力ポイントは「DX」、デジタル化した情報活用による生産性/品質向上である。IoTの活用により生産ラインで発生する情報を自動収集し、見える化。収集したデータに基づき、不具合の未然防止や生産性向上に結びつける考えだ。このように、北本工場は新開発のストロングハイブリッド用トランスアクスルを生産するだけでなく、国内工場再編のモデルとなる意欲的な策が大々的に講じられている。

今回の取材にご対応いただいた北本工場のみなさん。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…