ヤマハが東京オートサロンに農機具を出展!? これAIがデザインしたの? 「DIAPASON C580」から見えた新しいものづくりの手法【東京オートサロン2025】

ヤマハ発動機株式会社(以下ヤマハ)は「東京オートサロン2025」に出展する。なかでも編集部が注目したのは、小型低速EV汎用プラットフォーム「DIAPASON(ディアパソン)C580」の拡張モデル「C580 Fork 1」と「C580 Fork 2」の登場だ。いったいどのように進化したのか、非常に気になる部分を深堀り取材した。

TEXT:小林 和久(KOBAYASHI Kazuhisa) PHOTO:小林 和久(KOBAYASHI Kazuhisa)/ヤマハ発動機(Yamaha Motor Co., Ltd.)/本田技研工業(Honda Motor Co., Ltd. )

東京オートサロンに農機具を展示するヤマハは何を考えてる?

「DIAPASON C580 Fork 1」は、前回の東京オートサロンで登場した「DIAPASON(ディアパソン)C580」の拡張モデルで、様々なジャンルのメーカーとコラボしたコンセプトモデルだ。

ヤマハが、東京オートサロン2025で展示する小型低速EV汎用プラットフォーム「DIAPASON C580」は、実は1年前の東京オートサロン2024でデビューを果たし、今回2度目の展示となるが、さらに進化を遂げている。

先日発表された同社のプレスリリースによると、

畑地や不整地など、多様な路面環境での優れた走破性とスマートな使い勝手を兼ね備えたモデルです。今回の展示では、AI技術の活用と、10社以上の共創パートナーとともに実現した拡張モデルを展示。多様なニーズに応える新たな価値創造に取り組んでいます。

「DIAPASON C580 Fork 1」では、農業機械分野で実績を持つ三陽機器株式会社や、自動車チューニングで定評のある株式会社尾林ファクトリーをはじめとするパートナーと連携。軽量コンパクトなボディにドーザーやトレーラーなどを装備し、高い機能性を実現したモビリティを提案します。

一方、「DIAPASON C580 Fork 2」は、SUV/ピックアップトラック向けタイヤ「OPEN COUNTRY(オープンカントリー)」シリーズで定評のあるTOYO TIRE株式会社のコーポレートカラーである青を基調にした「オープンカントリーオフロード仕様」として、自動車以外の領域におけるカスタマイズ文化の新たな可能性を提示し、次世代のモビリティデザインを牽引します。

とされている。

オフロード走破性も高いトーヨータイヤの「OPEN COUNTRY」を履くなど、東京オートサロンらしいカスタムが満載の「DIAPASON C580 Fork 2」

プレスリリースには、東京オートサロンで馴染のある「TOYO TIRES」「尾林ファクトリー」といった名称もあるが、それ以外に「畑地」「農業機械」という年初の幕張で開催されるカスタムカーの祭典では聞き慣れない単語もある。ヤマハはきっとなにか考えているに違いない。そこで、ディアパソンを担当されている、ヤマハ発動機の大東さんを訪ねた。

ヤマハ発動機 技術・研究本部 共創・新ビジネス開発部 新規事業開発シニアストラテジーリード 大東 淳(だいとう じゅん)さん。

これからの日本で問題となる、普通免許返納後の乗り物を考えてみた

実は大東さん、モーターファン別冊「エアトレックのすべて」(三栄書房刊)に登場した経験もある元三菱自動車社員。社会人としては自動車メーカー勤務からスタートしている。

三菱エアトレックのすべて(平成13年8月18日発行)

その後、とある光学機器メーカー勤務を経て、およそ3年ほど前の2021年にヤマハ発動機の門を叩いた。光学機器メーカーではできなかった「乗り物」に関することをもう一度やりたくて、面接では新規事業をやらせて欲しいと訴え、入社が決まり、希望通り新規事業の部門へ配属された。

そして、最初に任されたのが、東京モーターショー2019にも出展したニュースタイル・モビリティ「NeEMO(ニーモ)」のプロジェクトだった。ニーモは1人乗りの低速モビリティで、ニュースタイルと言いながらも、大括りでは高齢者が外出時に使用するいわゆるシニアカーの部類。調べてみると、シニアカーの市場は保険や中古市場の関係から、これから新規参入するにはハードルが高過ぎるし、多くのコストと人材を必要としそうだ。それになにより、既に他社が手掛けているジャンルでもある。

いわゆるシニアカーを狙ったニュースタイル・モビリティ「NeEMO(ニーモ)」。

それならばと、さらにシニアがどのような乗り物を求めているのか調べ上げ、少し視点を変えてたどり着いたのが「小型特殊」のジャンルだった。

小型特殊は一般にあまり認知されていないが、耕作トラクターや小型除雪車、乗用型の小型の建設機械などがその対象だ。農業従事者の中ではポピュラーな資格である。

さらに、大東さんが小型特殊の主要ユーザーたる農業関係者500人ほどにヒアリングしたところ、約55%の人たちが免許返納後でも何かしら農作業には関わりたいと感じているそうだ。

小型特殊免許は原付と同じくらい取得が容易でかつ、普通免許返納後にもその運転資格を残すことができる。それに、田畑などの農業の現場に移動するため公道を走ることができ、最高速度は15km/h、2人乗りも可能だ。

そのような背景もあり、2024年のオートサロンに展示した「DIAPASON C580」をベースにしてアップデートを加えたのが、今回の2台のディアパソンというわけだ。

ただし、ヤマハが東京オートサロンという世界最大級の自動車カスタマイズの祭典に、わざわざ単なる農機具を出展するわけはない。そうした背景を踏まえ、大東さんにお話を伺った。

これまでの2社でも、常に最先端の新規事業開発を担当してきたという大東さん。

AIには「あえて馬鹿なデザイン」をさせるのが重要

ーーー大東さんの所属する部署名には、「共創」という文字が入っています。それを表すように、東京オートサロン2024では、多くの企業とコラボしたディアパソンが展示されていましたね。そもそも現在の部署は、他社とコラボして成し遂げることを前提としていると理解して良いのでしょうか?

大東 そうです。モビリティメーカー、4輪のメーカーは特にそうだと思いますが、できる限り自社内でやってしまおうという傾向にあります。でも、そうではないことを前提にやるのが我々の部署です。モーターユニットはヤマハの既存のものを使用していますが、バッテリーにはホンダの持ち運び可能な携行バッテリー「Honda Mobile Power Pack e:」を使っているのもその一つです。それをヤマハが新たに開発するというのは現実的ではないと考えますし、他に日本にはこのような携行式のバッテリーパックがありませんでした。なので、ホンダのバッテリーを採用しています。


ーーー共創パートナーに加え、AI技術も取り入れているということですね?

大東 生成AIを使って、デザインアイデアをいくつも出させています。モビリティメーカーでは、新しいものを開発するにあたり、デザインに一番時間を取られるし、権利も集中してしまいます。それをAIによって短縮することができると思っています。今回は、例えばブルドーザーのようなアタッチメントなどもAIによるデザインがベースになっています。

ーーーAIにデザインさせるメリットはなんでしょう。あるいは、デメリットはないと考えますか?

大東 今のところ、大きなデメリットはないでしょうね。スマホが登場して、人間はいろんなことがそれ無しにはできなくなっていますけど、デメリットは感じませんよね。日本は北米に比べるとAIで遅れているので、どんどん取り入れていくべきと僕は考えます。ただし、今回の例で言えば、AIに出させたデサインアイデアが3000件くらいあって、その中から選ぶのが大変でした(笑)。それもそのうち、アイデアを選ぶためのAIが出てくるんだと思いますが。

それと、生成AIがデザインする特徴としては、人間だと無理だろうとか、常識から判断して出してこないようなアイデアも出してきます。このアタッチメントだと、車両の大きさからどう考えても動かすことができないものとか。けれど、そういう馬鹿なデザインを出させて何かを生み出すきっかけに繋がることもAIを使うメリットだと思います。

ーーーAIからブレークスルーが生まれるかも、というわけですね。C580のネーミングにはどういう意味があるのでしょうか?

大東 実は人の名前です。Cは「コンセプト」、数字はそのプロジェクトのリーダーの苗字「小屋」さんです。C451は「横井」さん、C294は「福重」さんといった具合に(笑)。

ディアパソンは、用途に合わせた7つのシリーズ展開が計画されている。

ーーーそんな名前の付け方だったんだ! 確かに、トヨタ、ホンダ、スズキ、マツダ、もちろんヤマハも元々人の名前ですね。

大東 開発担当者の名前を付けることで、作るものへ愛着を感じてもらえるんですよ。そのプロジェクトを途中で投げ出すことはなくなるでしょう。新規事業で大切なのは人なんです。その人のパッションをいかに維持させるかが大事なポイントです。

ヤマハは「出る杭は伸ばす」企業だ!

プロトタイプの走行テストなども着々と進められている。

ーーーヤマハに入って3年とのことですが、他の企業を経験してきた目線でヤマハとはどういう企業でしょうか?

大東 ヤマハは良い意味で個が立っていると思います。これは大事なポイントで、全体最適より個別最適なんです。これからAIなど技術進化していくに従い、より個が立っていくべきなのです。言い換えると、組織依存でしか動けない人が多くない会社だと思います。そういう意味では非常に良い会社で、新しいものが生まれやすい環境があります。実際に会社を辞めてスタートアップやベンチャービジネスを立ち上げる人なども多いですね。

「やりたいんだ」と思う人が多くて、それが生まれる環境にあるというところは、ヤマハはすごいなと思いますね。トップダウンでなく、ボトムアップですね。まあ、そのかわり無駄は多いのかもしれませんが、そこに今後はAIが入ってくるとそれが最強なんじゃないかと実は僕の中で思ってます。

ベースのマインドは自由闊達なので、声が大きい人、幹部が言ったことに対しても、平気で「イヤだ!」と言う人もいます。以前、聞いたことがあるんですが、ヤマハは「出る杭は伸ばす」という会社だとか。その反対で、ことわざ通り「出る杭は叩く」どころか、「出る杭は抜く」という企業も世の中にはあると聞きますよね。邪魔な杭は抜いて無かったことにしちゃう(笑)。


やはり「DIAPASON C580」は、これまでにあった農業機械の単なる延長ではなかった。そこに込められているのは、共創パートナーと共にする志、AIで行う新しいものづくり手法、そして社会インフラまでも考慮したユーザーの生活向上だった。

恥ずかしながら、東京オートサロン2024会場では、そこまでのバックボーンを知らず、ただの小型EVの提案だと思っていた。2025年初頭の幕張では、そうした背景を踏まえて改めてC580の姿を見てみたい。そこには、近未来の豊かなものづくりのあり方や人々の生活が浮かび上がるはずだ。

そして、DIAPASON C580は、近日中の発売を目指して開発が進められている。日本のものづくり改革がそこから始まっていくのかも知れない。

■ ヤマハ発動機 「YAMAHA MOTOR PLATFORM CONCEPT」
https://www.yamaha-motor.co.jp/evplatform/

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著者プロフィール

小林和久 近影

小林和久

子供の頃から自動車に興味を持ち、それを作る側になりたくて工学部に進み、某自動車部品メーカへの就職を…