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全長4.7m前後?実はイメージよりは大きくないGクラス……最小は「G580」
ピュアEVとなったG580の全長は4730mmと、AMG G63およびG450Dの4860mmと比べて意外にも、130mmほど短い。ちなみにリヤゲートに装着されるボックスは充電用ケーブル用で、これを取り除いた長さだと4625mmとなる。
同じくリヤボックス/スペアタイヤラック無しの状態でも、AMG G63が4690mm、G450dが4680mmだから、G580は本体そのもので比べても一番小さなGクラスとなる。
グレード | G580 | AMG G63 | G450d |
全長:リヤボックス/タイヤラックあり | 4730mm | 4860mm | 4860mm |
全長:リヤボックス/タイヤラック無し | 4625mm | 4690m | 4680m |
全幅 | 2185mm | ||
全高 | 1990mm | 1985mm | 1990mm |
ホイールベース | 2890mm |
しかしながらそのホイールベースは2890mmと同等であり、短くなったのはフロントオーバーハングだということがわかる。即ちこのコンパクトさこそが、エンジンレスであるEVのメリットだと言える。
ちなみに全幅は2185mmで同等、全高は1990mmでG450dより10mm、AMG G63より5mm高い設定だ。
新型Gクラスはシリーズ全体としてAピラー表面に樹脂性パネルを装着し、ルーフ前端リップスポイラーを装着。またフェンダーに仕込んだスリットでタイヤハウスの乱流を排出するなどして、その空気抵抗を低減させている。これがさらにG580になると、ボンネット形状を改めることで、Cd値を0.44まで抑えた。今回は高速巡航までできなかったが、改めてその電力消費具合を確かめて見たいものだ。ちなみに公式データだと電費は、262Wh/km(WLTCモード)だ。
出力108kW/291Nmのモーター4基でシステム最大423kW/1164Nm!
パワートレインは4つのモーターを独立制御できるのが最大の特徴で、それぞれが108kW/291Nmの最高出力と最大トルクを発揮する。
システム出力は単なる合算だが、432kW(587PS)/1164Nmものパワー&トルクになる。リチウムイオンバッテリーの容量は116kwhで、一充電あたりの走行距離は530km(WLTCモード)だ。
G580を走らせてまず感心させられたのは、こうした数字をまるで感じさせない紳士的な身のこなしだった。ラック&ピニオン式ステアリングは滑かなステアフィールを実現し、フロントのダブルウィッシュボーン式サスが、ここからつながる一連の姿勢制御とロールスピードを穏やかに裁いて行く。
注目の動力性能もモーター制御が極めて洗練されており、587PSのポテンシャルから実用的なパワーが上手に抽出されて行く。アクセルは軽く踏み込むだけで3120kgの巨体を軽々と走らせ、これを緩めれば、静かにタイヤを転がし空走する。
フロア剛性の高いラダーフレームだが、弱点はバッテリーの重量か?
EVになってもシャシーはラダーフレームのままだが、荒れた山道でも乗り心地が損なわれる場面はほぼなかった。バッテリーの搭載でフロア剛性はより高められているはずだが、それすら大げさに感じさせることなく、超高級クロスカントリー車としての上質をまっとうする。
唯一の弱点は、路面の大きなうねりを越えたあと、800kg近いバッテリーの重量が加わって、フロアが下側に引っ張られることだ。エアサスと可変ダンパーを仕込んだストロークフルな足周りはかなり上手にその上下動をコントロールしているものの、瞬間的にこの重みが“グッ”と、胃袋を抑え付ける場面がある。
スポーツモードに転じるとステアリングはさらに座り、足周りもほどよくロール剛性を上げて、その身のこなしが素晴らしくリニアになる。もちろんクーペスタイルSUVのような運動性能は得られないが、箱型のGクラスが実に気持ち良く走る。
対してモーターはやや“ツキ”がよくなり過ぎ、個人的にはインディビジュアルモードでエンジンのみ標準仕様とするセットが快適だった。ちなみに回生ブレーキはパドルで4段階調整可能で、ワインディングは一番回生力が強い「D+」を使いながら、アクセルオフでターンして行く走りが心地良いと感じた。
筆者は決してワンペダル派ではないが、G580の回生制御も強すぎないからちょうどいいのだ。この重量に対してブレーキを踏み込まずとも、緩いカーブであれば穏やかにフロント荷重が掛けられる、といった具合である。
サウンドもフィーリングもとにかくエモーショナルなV8エンジン
さてオンロードでの対抗馬は、前述した通りシリーズ最強の「AMG G63 LAUNCH Edition」だ。そのパワートレインには430kW(約585PS)/585Nmの4.0L V型8気筒ツインターボユニットが収まり、これを最高出力15PS(定格出力10kW)/最大トルク208NmのISGがアシストする。
ひとことで言えばその走りは、“超エモい”。ノーズにV8エンジンを搭載するクロカンとは思えぬほどにハンドリングは整っていて、EVのGクラスに負けず劣らず、ワインディングロードをきちんと曲がる。今回から標準仕様となった可変ダンパー、そして電子制御式の油圧スタビライザーが、そのスタビリティを高めているのだろう。
しかしながらこうした制御を乗り手に悟らせないほど、身のこなしが整っているのだ。リヤ・リジッドアクスルのドタバタ感もなく、運転席にいる限りだが乗り心地は良好。筆者の試乗車は“アタリ”だったのだろうか、「アシが硬い」という前評判もまったく気にならない快適さだった。
さらにそのエンジンサウンドも、ちょっと肩透かしを食らうほど大人びていた。低速から“ルロロロロ……”と響くサウンドは心地良く、高められた遮音性と共に、車内にいる限りはそのサイド出しマフラーが飾りに思えてしまうほど静かである。
マイナーチェンジでAMG G63にまで装着されたISGも黒子的に僅かなターボラグをアシストしているはずだが、足周り同様そんなことを一切乗り手には意識させない。ただただ芳醇なトルクを下敷きにした力強い走りと、心地良いエンジンサウンドを聴きながら、高い場所からGクラスの走りを楽しむだけだ。
ハイライトは当然走行モードを高めたときで、それに併せてV8エンジンのサウンドも高まって行く。ピュアEVであるG580もスポーツモードでは電子サウンドが雰囲気を盛り上げるが、まだまだ“生音”の立体感には敵わない。
さらにそのアウトプットには「スポーツ+」モードであっても荒さが一切なく、4.0Lの排気量をきっちり使い切りながら6000回転オーバーの領域までエンジンを回して行く精緻さがある。
AMG「63」シリーズで展開される「M177」ユニットの熟成を考えればこうした洗練は当たり前のことだが、これをGクラスで走らせる面白さは、やはりひと味違う。1979年の登場から基本的なカタチを変えていない、箱型のクラシカルなボディ。だからこそ、洗練されたエンジン(やシャシー)の制御がギャップとして生きるのだ。
3080万円のV8ガソリンエンジンか、2635万円の4モーターEVか……
筆者はこれまでAMG G63の行き過ぎた演出やパワー制御の荒さ、そして何よりその派手なイメージを敬遠してきた。そして直列6気筒ディーゼルターボの「G450d」こそ、「Gクラスの良心」だと自分に言い聞かせてきたわけだが、この期に及んで最もハイエンドなAMG G63こそが、最も完成されたGクラスだと思えるようになった。その影にはもちろん時代的なエミッション要求があり、だからこそエグみも取れたのだろうとは思うけれど、それでも今はベストだ。
翻ってピュアEVである「G580」との比較だが、現時点ではまだ内燃機関を主軸とした「AMG G63」の方が、ドライバビリティ面では優れていると感じた。少なくとも、オンロードでは。
電動化されたGクラスがこの偉大な先輩を超えるためには、そのヘリテイジを丸っとデジタライズしたサウンドや、心地良いバイブレーションをも実現する必要があるだろう。そして何より、オーナーにストレスを欠けさせないために、116kwhのバッテリーを短時間でチャージできるインフラが整う必要がある。
救いがあるとすればそれはG580の価格が、AMG G63の3080万円に対して、2635万円に抑えられていることだろうか?