鍵を握るのは、新開発されたストロングハイブリッド専用のトランスアクスル
SUBARU(スバル)は新開発したストロングハイブリッドシステム用トランスアクスルの生産拠点として稼動を開始した北本工場(埼玉県北本市)をメディアに公開。その際、TH2Bの名称を持つトランスアクスルや専用のチューニングを施した2.5L水平対向4気筒自然吸気エンジンについて技術解説を行なった。筆者が聞き取った範囲に限られるが、技術的なポイントをお伝えしていこう。
TH2Bの名称をひもとくと、Tはトランスミッション、Hはハイブリッド、2は2モーター、Bは2機種目を意味する。国内に導入されていないのでなじみは薄いが、実はTH2Aの名称を持つ2モーターのトランスアクスルが存在し、(先代にあたる)クロストレックPHEVとして北米に投入されていた。シンメトリカルAWDに対応した縦置きのトランスアクスルで、フロントに発電用モーターのMG1、リヤに駆動用モーターのMG2を配置し、プラネタリーギヤの動力分割機構を持つ。この構造は、国内で2024年12月5日に発表されたクロストレックe-BOXER(ストロングハイブリッド)が搭載するTH2Bと同じだ。
TH2AとTH2Bの最大の違いはモーターリダクションギヤである。TH2Aはプラネタリーギヤを使っていたが、TH2Bはサイズの異なるヘリカルギヤを2つ並べて、エンジンの動力を駆動用モーターの動力と合流させつつ、駆動用モーターの回転を減速して駆動力を増幅させ、フロントのファイナルギヤと電子制御カップリングに伝達している。
なぜプラネタリーギヤからヘリカルギヤ×2に変更したのか。理由は音だ。ギヤノイズを抑えて静粛性を高めるためである。残念ながらTH2A搭載車は国内未導入なので音に関する実感はゼロだが、当事者にとってみれば「だいぶにぎやか」だったそう。TH2Bは「聞こえないレベル」になっているそうで、大違いだ。
TH2Bのハイライトであるふたつ並んだヘリカルギヤ部分を見ると、エンジンからの動力が伝わるヘリカルギヤは小さく、駆動用モーターの回転をリダクションするギヤはそれより大きい。このサイズの異なる小さなギヤの歯が短い中空のパイプに刻まれている。中空なのは、中に通すシャフトでリヤに動力を伝達するためだ。
中空パイプにギヤを圧入するのではなく、一体である。一般的な歯車研削の機械では小さなギヤのすぐ近くにそれより径の大きなギヤがあることでツールの邪魔になり、削れない。そこで、パワーホーニングという工法で歯車を研削する機械を購入し、設置した。国産自動車メーカーとしては初導入だそう。TH2Bの組立は北本工場で行なうが、ギヤの生産は群馬製作所・大泉工場で行なう。
パワーホーニングはリングの内側に設けた砥石で歯を研削する工法である。内歯車の歯を砥石にしたような格好だ。ギヤが並んでいても加工できるのが特徴で、大小のピニオンギヤが並んだステップドピニオンを作るのに欠かせない工法だという。ステップドピニオンは今後、大きな減速比を持ちながらコンパクトに仕立てたいeAxleでニーズが出てくる可能性がある。スバルがその領域に踏み出す確証はないが、技術を手の内化しておけば、ゴーサインが出たときに即座に対応できる。TH2Bの静粛性を高めるためだけに高い買い物をしたわけではなく、将来も見込んでの投資だ。
電子制御カップリングはマイルドハイブリッド版のe-BOXERを搭載する1モーター・トランスアクスルを含め、油圧でボールカムを動かして湿式多板クラッチの押し付け力を調節する油圧式だったが、TH2Bでは電磁式にした。ストロングハイブリッドはモーターで発進する機会が多い。メカポンプで油圧を作るタイプだとカップリングユニットを作動させるためにエンジンを始動する必要がある。せっかくのEV走行を邪魔したくないので電磁式を選択したということだ。
カップリングユニット自体はジェイテクトのITCCである。ITCCはFFベース車のリヤデフ前に搭載する事例が多く、MAZDA3やGRヤリスなどがそう。スバルのTH2Bはご覧のとおり、リヤデフ前ではなく2モーターのトランスアクスル内に搭載している。リヤデフ前に配置する場合、ITCCのオイルは密封式となり、封入されたオイルで潤滑を行なう。
一方、スバルのTH2Bはトランスアクスルに内蔵しているのを生かし、オイルを循環させている。軸芯潤滑で、シャフトから供給されたオイルが遠心力で飛び散り、多板クラッチを潤滑する仕組み。スバルのAWDはほぼ常時クラッチをつなぐ制御(つまり、ほぼ常時AWD)のためクラッチに負担がかかる。そこで、密閉式ではなくオイル循環式にしているのだ。だから、「連続使用しても大丈夫」と太鼓判をおす。
TH2Bに組み合わせるエンジンはFB25型の2.5L水平対向4気筒自然吸気だ。FB25は国内では搭載車種がない状態だが、直噴版は最高出力136kW、最大トルク239Nmを発生していた。ストロングハイブリッド専用のトランスアクスルと組み合わせるFB25Bの最高出力は118kW、最大トルクは209Nmである。数値が低いのは、出力やトルクを追求するコンセプトではないからだ。
狙いは効率、すなわち燃費である。ストロングハイブリッド向けのFB25はミラーサイクルを適用している。圧縮工程が始まっても吸気バルブを一定期間開いたままにすることで、圧縮工程<膨張工程の高膨張比サイクルを実現しているのだ。圧縮工程でシリンダー容積を使い切らないので、2.5Lのエンジンが本来出せるはずのトルクは出せない。FB20型の2.0L水平対向4気筒は最高出力107kW、最大トルクは188Nmなので、ストロングハイブリッド向けFB25が圧縮工程で実際に使っている容積は2.0L+αなのだろう。そのかわり膨張工程は2.0L+αのユニットより長く使うことになるので、燃焼エネルギーを長い時間圧力に変換することになって損失が減り、熱効率(燃費)が向上する。
吸気系では、スバルお得意のTGV(タンブルジェネレーションバルブ)を駆使。従来型に対して筒内流動を強めて混合気の混ざりを良くした。これにより、従来以上に広い領域でEGRを入れられるうえにEGR率を高めることができ(不活性ガスの比率を高めても混合気がよく混ざるので燃えてくれる)、スロットル開度を大きくすることができてポンピングロスが減り、熱効率(燃費)が向上するというわけだ。
PCU(パワーコントロールユニット)がエンジンの上に載っているのも、TH2Bに組み合わせるFB25型エンジンの特徴。荷室容量の確保や大容量(63L)の燃料タンクを搭載するためだが、おかげで吸気管の取り回しが窮屈になった。それでも、限られたスペースで効率を満足させ、耳障りな音を消すチューニングを行なっている。高速道路で本線に合流する際の加速時に発生しがちな領域の音について消音性能を上げたという。
スバルが新開発したストロングハイブリッドは、トランスアクスル(TH2B)もエンジン(FB25)も、音と効率に気を配った力作である。
エンジン
形式:水平対向4気筒DOHC+モーター
型式:FB25
排気量:2498cc
ボア×ストローク:94.0mm×90.0mm
圧縮比:11.9
最高出力:160ps(118kW)/5600pm
最大トルク:209Nm/4000-4400rpm
燃料供給:DI
燃料:レギュラー
燃料タンク:63L
駆動用モーター:MC2型交流同期モーター
最高出力:88kW(119.6ps)
最大トルク:270Nm
駆動用バッテリー:リチウムイオン電池
容量1.1kWh
トランスミッション:リニアトロニック