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「ホンダ・日産・三菱」あの記者会見は急遽やらざるを得なくなった?
清水:いよいよ2024年が終わろうとしています。
高平:今年もお世話になりました。
清水:なんかさ、終わり良ければすべて良し!みたいに、最後にドでかいニュースが来たね。
高平:いや~師走になってからのこういうの、やめてください、お願いしますよ~。でも記者会見するの、早かったですね。年明けてから共同で記者会見するのかな?と思ったら、あっという間に3人揃って。
清水:うん。こういうのっていつもね、霞ヶ関辺りからリークがあるんだよ。だから、やらざるを得なくなる。ビックリしたのは朝、三部さん(三部敏宏/本田技研工業株式会社 取締役 代表執行役社長)が朝ランしていたら、家の前で記者が待ち構えて、テレビカメラまでいて。三部さんが着ていたシャツに“ENEOS”のマークが付いていたじゃない? あれね、東京マラソンのオフィシャルスポンサーなんだよね(※2020TOKYOとある)。2025年もなんだろうね。そんなことやってる場合か?な~んて思うけど。でも一所懸命走っているってことは体調を良くして、この先に待ち構える荒波を乗り切らなきゃいけないっていうガッツを感じたね、オレは。
高平:アメリカのCEOみたいな感じだったし、黒塗りのクルマに逃げ込んでいく政治家なんかに比べたらイメージとしては物凄くいいんじゃないですか。まぁとにかくびっくりしましたね。どこまでが本当で、どこまでがまったくの憶測な情報なのかなど、いろんな人が思っていますよね。和夫さんはこの記者会見、参加したんですか?
清水:いや、オンラインで見た。2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)でフリードがイヤーカーを取ったっていうのはホンダにとっては凄くいいニュースなんだけど、この提携はなんだろうな…。
ゴーン時代の話からしないと始まらない
清水:だってさ、オレと高輝のふたりともこの業界、古いじゃない。昔の日産はトヨタより上だったから“プライドの塊”だよね。片や2輪の部品メーカーから成り上がっていったホンダと、重工産業のエリートの道を歩んできた日産。でも、それが1990年以降の有利子負債2兆円で自主再建できずにルノーに助けてもらったのが日産。なんか対照的だね。
高平:今回は救済です、本当の。
清水:あの時ダイムラーが…っていう話があったじゃない。だから、銀座にいる日産(旧本社)の連中はドイツ語のNOVA(駅前留学の!)に入ろうとしたんだよね。そうしたら急遽フランスになった。で、その後フランス語のNOVAに行ったっていう笑い話とも思えないような話があるんだよね。あの時、なぜダイムラーじゃなくてルノーなんだ?というのは未だにわからない。
高平:ほぼすべての巨大メーカーにあたったらしいですよ。当時(2000年ごろ)は400万台クラブに入らないといけないという空気だったね。
清水:ルノー日産の前に、1998年にダイムラーがクライスラーを買収し、社名がダイムラー・クライスラーになったよね。当時も対等合併と言っていたけど。
高平:それから数年後にダイムラー・クライスラーは日産も引き入れようと画策していた。
清水:あのトヨタだってGMと燃料電池で連携していたし。
高平:ルノー日産に関しては、日本政府がフランスにお願いしたという噂もあったね。
清水:いろんな噂があったけど、ダイムラー・クライスラーのある幹部は「日産を買うのは金塊を大西洋に捨てるようなもの」と猛反対したみい。それでシュレンプCEOも日産買収を諦めた。その後、日産はルノーに救済され、ゴーン氏が救命医師として日産を執刀した。最初はね、いいヤツでしたよ、何度か会ったけど。
高平:その辺の話からブッ込んでいきますか!
清水:ガッテン! でもその前にファクトを整理しておきたい。
高平:なになに?
清水:日産のプラットフォーム(FF系)でルノーがクルマを作ることになったけど、実際に乗ってみるとマーチとルノーのコンパクトカーでは走りが全然違う。ルノーのほうがサスがしなやかなんだよ。で、「日産はルノーから何を学んでいるのか」と、当時の役員のKさんに詰め寄ったことがあった。ルノーは日産の図面を使うけど、サスのトップマウント(ストラットのアッパー・ゴムインシュレーター)の質量が大きく、随所にルノーの拘りがあったそうだ。
高平:なんか、昔のNAVIトークで読んだことがあるな。
清水:次は2015年。三菱の燃費不正問題でゴーンCEOと会談し、時間が余ったのでストレートに聞いてみた。
高平:あっ、経済誌にも載っていたヤツ。
清水:「最近の日産車は良いクルマとは言えない。日産のエンジニアは何を考えているのか?」とゴーンCEOに直訴。
高平:言っちゃいましたか!
清水:そこから見ていかないと。だって一回あそこで破綻したとき、なんでもっといいクルマ作りを目指さなかったのか、清水的には不思議でならないのよ。
高平: 今回、ルノーグループにいながら内田さん(内田 誠/日産自動車株式会社 取締役 代表執行役社長 兼 最高経営責任者)たちが“リバランス…”なんてことを言い出して、いや~それはおかしいでしょ!って。率直に言っちゃうと、内田さんって一体何をしてきた人で、何をする人なのか? ボクは5年前からわからない。
清水:一所懸命いいクルマを作ろうとしているモリゾウさん(豊田章男:トヨタ自動車株式会社 代表取締役会長)とは真逆で、ルノーから株を買い戻してリバランスになるとか、どうでもいいことばっかりやってきた人だよね。個人的にはクルマ好きだったアシュワニさん(アシュワニ・グプタ/インド出身/日産自動車取締役代表執行役最高執行責任者兼チーフパフォーマンスオフィサー、北米日産取締役会議長、2023年COOを辞任し退社)を追い出した。
で、関さん(関 潤/元日産自動車執行役副最高執行責任者)はアシュワニさんとトロイカ体制(※複数の共同指導者により組織を運営する体制)だったんだけど、関さんも嫌になったのか日本電産(現・ニデック)に引き抜かれたのかはわからないけど、もうウッチー(内田)についていけないっていって。
高平:関さんはすぐホンハイ(鴻海精密工業)の副社長かなにかになったので(※電気自動車事業の最高戦略責任者)、今、関さんがキープレイヤーなんじゃないかな?っていう人もいるんですよね。
清水:でも、日産ってホンハイが思っているほどちっちゃくない。歴史もあるし、凄い技術もあるし、インフラもあるし。ホンハイじゃコントロールできないと思うな。だってあのGT-Rを作り、可変圧縮比エンジンを作り。
高平:ホンハイ、ホンハイって言っていますけど、片やシャープの堺工場(※堺ディスプレイプロダクト/2016年にホンハイがシャープを買収)なんかでは一瞬上手くいったように見えて、これは結局失敗だったんじゃないか?って言われているように、ホンハイが来てくれれば上手くいくって思うのは大間違い。
清水:ある日本人のアナリストは、“ホンハイっていうのはいや、そうじゃねえだろう”と。日産をコントロールできるのは、とてつもなく技術を持っていないとダメで、それはもうホンダしかない。
高平:その意見には賛成です。ただし、もしこうだったら、ちゃんとリストラできれば、ターンアラウンドしてからじゃないと…なんていうのが並べられると、果たして熱意ある協議ができるのか?と思っちゃったりする。
清水:オレは日産との付き合いは長いので現場を見ていると、現場の兵隊さんたちはいい兵隊さんたちですよ。経営者に恵まれないっていうかね。この場に及んで、役職を変えただけで全然責任を取っていない。
高平:あれは一体なんなんですかね?
清水:まぁそれは今回の提携劇があるから、内田さんも “最後の手仕舞いをする…”みたいなニュアンスのことを言っていたけどね。
高平:社外取締役なんて、ゴーン時代からほぼ変わっていないんですよ。
清水:ゴーンがいなくなっても、外人役員が多いよね。円安だし、高給取りの外人には日産は天国。また、社外取締役には女性も入っているけど、経産省(※経済産業省)から送り込まれた。だから日産はまず、霞ヶ関から遠くに行きなさい! 本社を青森ぐらいに移してね。日産は東大出身が多いから、エリート思想なのよ。いわゆる昔の官僚体質なんだよね、昔からの重工産業の。そこを変えない限りダメ。
あのスバルは“富士重工”だったのに英文の“SUBARU”に社名を変えたくらい。重工産業って今、三菱と日立、川崎が残っているけど、日本国を支えてきたので、日産もそういう気概を持っちゃっているんだよね。
高平:それ…まだありますかね?
清水:あるんですよ。
高平:でも、経営陣なんかはゴーン改革の間にすっかり入れ替えられちゃって、そういうことを一切口にしない人しか残っていない。
清水:一旦JALやGMみたいに破綻しないとダメだと思う。
高平:ボクもそう思います。助けてくれるっていうか、助けてもらえるっていう、“なんせうちは日産なんで!”って、そういうのがあるんじゃないのかな。
清水:助けてもらったくせに後でリバランスなんてこと言い出すし、そんなところで使うお金あんのか!みたいな。
日本自動車産業を東西で二極体制にする
高平:いや~不思議なことがいっぱいありますけど、やっぱりお役所のプレッシャーがかなり入っているっていう説、和夫さんはそれには同意ですか?
清水:日産が外資に取られたらトヨタ一強になっちゃう。日立Astemoができた時に、なんとなく東西でティアワン(Tier1/完成車メーカーに直接部品を供給するメーカー)をしっかり作る。西はデンソー・アイシングループ、ジェイテクト、アドヴィックス…。東はホンダ系のサプライヤー全部一緒にして、日立とAstemo作って。これで一応ティアワン、ツーは東西で二極になった。そこにホンダが入っている。日産はホンダと同じ栃木なので、ホンダと日産が一緒になってティアワンとやれば、東西うまく切磋琢磨できる、二極体制はできるかなと。
高平:ということは、その省庁が恐れている日産を外資に買収されるっていう話は、かなり信憑性が高いってことですか?
清水:高いと思う。今、事実上、乗用8社だよね。これをトヨタグループ…と言っていいかどうかわからないけど、トヨタグループとホンダ・日産グループに分かれると、お互いホンダ家とトヨタ家の創業家の2極体制になると。これが切磋琢磨したら、類を見ない強い自動車産業になるのかなと思うんだけど。
ホンダだって1社じゃ立ち行かなくなる
高平:本田宗一郎さんの息子、孫たちはホンダには入っちゃいけないという決まりがありましたよね。創業家として尊敬されてはいるけれども、自分たちの子孫を役職に就かせない、そこからしてホンダとトヨタは全然違う。
清水:世襲をしなかったよね。でも今見ているとホンダは多分、単独じゃ厳しいよね。だって、中国でBEVがうまくいっていない。実はASEANもマイナス30%くらいシェアを落としている。インドは行ったはいいけど、今はもうマルチスズキ・トヨタ連合にやられている。アメリカ一極だよね。ヨーロッパはうまくいってない。日本で軽自動車売る。あと、アメリカ。で、あれだけのでかい投資をしているからそれを回収するには、今のホンダのビジネスモデルでは辛い。
高平:ホンダだってコロナ前の、つまりリーマンショックの後で四輪事業の利益率が低いということにだいぶ悩んで、その時からいろいろ改革を始めて、研究所と本田技研工業をシャッフルしてみたいな、そういうことをすでに始めていたから、今はまだ売上高とか日産よりだいぶ上回っているっていう風になっているけど、日産はその時、何にもしてなかったから。
清水:ホンダは技術はあるんだけど、商売下手。トヨタみたいに儲かるランクルみたいなクルマとアルファード・ヴェルファイアみたいなクルマがない。でも、日産と一緒だったらパトロールがあるから、それをもらってHONDAバッジで売るとか、エルグランドもあるし。嫌いだった商用車のプラットフォームがあるので。
高平:とはいえ、エルグランドなんてもう何年経っていますか。パトロールだって、あれはいわゆる旧日産車体。そういうのも全部切り捨てて、冷遇してきた結果が今の日産ですから。記者会見では我々の仲間の島下泰久さん(自動車ジャーナリスト)が“どこに惚れたんですか?”と切り込んだ質問をしていましたけど、三部さんも内田さんもふたりとも苦笑いしていた。“いや~、日産は伝統がある会社ですし…”って。三部さんは答えたくなさそうだったし、嫌々この場所にいるのかな?ってボクは思ったんですけど。
清水:ランクルとミニバンの話はどうなるかわからないところはあるけど、でも今、お互いにエンジンはシリーズハイブリッドでやっているんだよね。日産はe-POWER、ホンダはe:HEVで、ほとんどシリーズ領域だよね。だったらもうエンジンなんか完全に一緒になれる。軽自動車なんてホンダと三菱・日産の3気筒のボアストロークが違うから、それは一緒でいいじゃないかと。かなりシナジーはあると思うね。
高平:三菱と日産は実はかなり軽自動車比率が高い。日本で一番売れている軽自動車はホンダですからね。
清水:日産のディーラーは今、売るものがなくて北風が吹いているじゃない。ホンダは販売店が少ないから台数が伸びない。だったら、OEMで流してあげればいい。ホンダの2025年から出るe:HEVのヴェゼルとかプレリュードとか、いいものがある。
高平:技術側というか、実際に乗ってどうだ?っていう人たちから見ればいいところはあるんですけど、記者会見で多かったキャッシュフロー(会社におけるお金の流れ)とか PER(株価収益率)とか株式の時価総額とか、そういうものを見る経済系の記者の人たちはあまりそうは思っていないみたいですね。
CES2025で発表する「Honda 0シリーズ」
清水:日産も中国のEVがうまくいっていないのである意味、中国インパクトが両社を襲ってるわけだ。Honda 0シリーズだってつい最近プロトタイプを発表し、2025年1月7日から開催されるCES(アメリカ・ラスベガスにて開催)で発表するらしいけど、そのクルマだって本格的に市販して台数とか考えて利益として出てくるのは2030年頃だよね。だからこの4~5年は我慢。着実に、意地を捨て、ホンダと日産が手を組み、本当にお互いどこに協調領域=シナジーがあるかっていうことを、意地抜きでやっていったらいい会社になるんじゃないかなと思う。逆に言えば、もうそれしか生き延びる手はないと思う。ラストチャンスなのよ。
高平:確かにそうなんですけど、それでもやっぱり北風がヒューヒュー吹いてるような記者会見を見ていると、“人に言われて嫌々やっているんです…”っていうような雰囲気もする。だって、グループになったら三菱まで含めると年間800万台超で世界3位、売上高30兆円、利益3兆円。物凄い企業グループができる記者会見にはとっても見えませんでしたよ。まったく熱がない。
清水:でもさ、800万台/3兆円の利益って三部さんの口から出たこと?
高平: 800万台行くとは言っていないですけど、“売上高30兆円、利益3兆円、それを目標に掲げて…”という話を三部さんが言ったんです。と言っている割には、なんか他人事みたいだなと思って。熱意がないというか。
イギリスを見習って…と通産省は思っているのか?
清水:あの記者会見はやっぱりちょっとリークがあって、朝方いきなり記者たちに襲われているから、それに対応して記者会見をやらざるを得なかった。本当は年明けくらいにゆっくりやりたかったんじゃないかなと思う。
オレ思い出したんだけど昔、60年代のイギリスには、ブリティッシュ・レイランド(British Leyland)の傘下にローバー、オースチン…有象無象の自動車メーカーがいっぱいあったじゃない。それが国有化されて、その後マーガレット・サッチャーさん(第71代首相/任期:1979年5月4日~1990年11月28日)が民営化でまとめていったじゃない。ホンダもローバーを一回買って、ローバー用のストラットを研究所で作ったりしていたけどその後はうまくいかず。BMWはローバーのオフロードの技術を盗んで、MINIだけ取って10ポンドで売って、その後フォードに入ったり…、なんかもうグチャグチャだったよね。
高平:第一期がバブルで日本に資金力があった頃で、それから10年経ってバブルが崩壊してから21世紀に変わろうとする頃に、ダイムラー・クライスラーに象徴される世紀の合併。
清水:大西洋を挟んだ合併。今のイギリスって、MINIとかロールス・ロイス、ベントレーとかブランドは残っているよ。でも、民族資本はもうない。ドイツ、タタ、カタール。それは経産省から見たら民族資本は残したいよね
高平:残したいのかなぁ。イギリスはある意味そうやって生き延びているんだから、あれでもいいんじゃない?
清水:日本はそうはいかないよ。
高平:やっぱ日本の役所はそうは思わない。
清水:イギリス人はしたたかにそれができる。“資本はタタでいい。だけどマインドはブリティッシュネスだ!”っていうのは言える。でも、“日本ネス”ってないじゃない。だって大衆車しか作っていないんだから、ブランドとしてね。イギリスの1960年代の合従連衡見て、“こうなってはいけないんじゃないか…”っていうのをお役人は考えたんじゃないかな。
高平:本当に経産省がそういう風に絵を描いているんだとしたら、それはちょっと思い上がりだなっていう気もするんです。
清水:まあ、そうかもわかんないけどね。
高平:キミらは本当に世界のそういう動きをちゃんと見ているのか?と思って。もちろん凄い人もいるんですけど、昔の役人はもっと国家国民のためにっていう風に尽力していたけれど、それがだいぶ劣化してる人が多いですから、本当かな?と。
清水:オレ自身が霞ヶ関を意識しすぎているか(反省気味)。ただ今、トランプもみんな愛国主義になっているじゃない。そうせざるを得ないよね、隣人を信用できないもん。
高平:すでに来た道というか、第一次世界大戦の前とその後、第二次世界大戦の間、不景気になってなにかをすると、みんな保護主義になって自分たちの都合のいいように関税引き上げたりして、また戦争の時代になるっていうのを、何回もやっているのにまた同じことをトランプは言うんだなって。この人は勉強していないからしょうがないけど、周りの人はなぜ教えないんだ?と思うんですけどね。
清水:なるほど~。
高平:カナダ、メキシコなんてほとんどがアメリカ企業ですよ。そこに関税かけるなんて、アメリカの企業がダウンしちゃいますよ。それなのにああやって大統領になるというか、可能性がある度に同じことを言って、周りを威嚇すると。
清水:トランプの好きな言葉がふたつあって、TARIFF(タリフ/関税)、あとDRILL(ドリル)、地球にボンボン穴開けて天然ガス、石油を出す!
高平:グリーンランド(デンマーク領)を買うなんて言い出して。も~止めてよ!って。誰が吹き込んだのか知らないけど、この間までトランプはグリーンランドなんて知らないと思いますよ、多分。
三部さんはホンダになくて日産にあるものを引き出すべき
清水:世界をグルグルグルっと回っていくと、本当に日本の自動車産業には北風吹いているね。トヨタは結果的に今はいいんだけど、それ以外のホンダ、日産が単独で生きていけることの方が可能性的には薄いよね。
高平:21世紀になる頃、400万台ないとダメだって言われてみんなくっついたりしたじゃないですか。でも、400万台ありますよ、それでももうダメなんですよね。あのフォルクスワーゲンがヨーロッパで工場を閉めるって言ったのにやっぱり閉められないから、その代わりに人員削減するだとか。ボッシュも何千人かの人員削減をするとか。
清水:そうね、ミシュランだって工場1ヵ所閉めるし、みんな過剰なんだね、投資、生産が。
高平:中国に突っ込み過ぎたんですよ。あそこのバタフライエフェクトですよね。景気が変わると、いろんな世界的なメーカーが減産とか工場閉鎖とか強いられるのかと。それを考えると、日産がなくなってもしょうがないのかな?っていう気はするんですけど。
清水:別にボクは日産愛があるっていうワケじゃないけど、日産の底力をちょっと知る者として、ホンダにないものを持っていそうだなっていう気はすごくしている。三部さんが上手く日産の価値を引き出したら、東チームは勝てる。勝てるというか、西とうまく戦える。その切磋琢磨がないとトヨタ一強じゃダメなんだよね。トヨタにもプレッシャーを与えないと。
実は一番腹が座っているのは三菱という説
高平:三菱は?
清水:三菱はこの記者会見でね、加藤さん(加藤隆雄/三菱自動車工業株式会社 取締役 代表執行役社長 兼 最高経営責任者)、ボクはよく知っているんだけど、加藤さんは(三菱の)プロパーで、日産(から送り込まれた)じゃないですよ。凄くお喋りでフランクでいい人。
でも、 このスリーダイヤの文字見て! これこそ日本じゃないですか。重工、銀行、商事、電気。だからね、このホンダ・日産話のなかに三菱はちょっとオマケでくっついているような感じもするけど、ここはねぇ結構一番”頑固一徹”なんじゃないかなと。そんな簡単にホンダ・日産にねぇ。だって今、商事とか重工が株を持っているでしょ。
高平:三菱商事が20%の株を持っています。日産の次の大株主です。
清水:三菱は意外に“国民民主党”みたいなんじゃないかな。
高平:元を辿ればこのマーク、海援隊ですからね。
清水:陸・海・空でしょ。ダイムラーと一緒だよ。
高平:お殿様の家紋から取ったようなもの。丁度このホンダ・日産のニュースが流れたころにアウトランダーの試乗会に行っていて。現場にいた人たちは“いや~どうなるんでしょうね…”みたいなそういう感じ。
清水:昔さ、1990年の初めのころ、ホンダがSUV、RVを出せないで苦しんでいた時に、メインバンクが三菱銀行だからホンダは三菱に買われるんじゃないか?って言われていたじゃない。わずか27年前くらいの話。
高平:そうですね、ありました。でも、工場のラインが背の高いクルマにフレキシブル対応ができないからっていうところから、なんか繋がってくっついた話。三菱銀行がなぜホンダか?っていうのは、また昔の話になっちゃいますけど。記者会見ではなんかちょっと仲間外れにされているみたいで、可哀想だったな…と思って。
清水:いや、一番腹が座ってるんじゃない?
高平:そっか。もう何度もそういう経験をくぐり抜けてきているから。
清水:ダイムラー、なんちゃら、ナンチャラ! ふそうとも分かれているしね。トラックはダイムラーにやっちゃったし。
高平:しかも、ラインアップが少ない規模で、意外にちゃんと利益が出ているモデルがあるんですよね。
清水:だっていまだにデリカミニ、売れているらしいよ。
高平:でも日産に34%株持たれているじゃないですか。だからこっちが突っ込めば引きずられる可能性もあるし。
清水:最後、ルノーがどうするかだね。もう配当がないから日産の株価が上がったら、ルノーはペッと売っちゃうんじゃないの?
高平:売っちゃうでしょうね。
清水:ホンダは1兆円、自社株買いするしね。凄いね!
高平:それも凄いんですけど、外国の会社みたいですよね、あのレスポンス。もし三部さんが“用意しとけ!”って取締役財務担当に言っていたとしたら鋭い。
清水:だから、こんな記者会見のシナリオはもう昨日今日では書けない。ずっと書いていて、たまたまタイミングが年末になっちゃったっていうだけで、本当は年明けの賀詞交歓会の後ぐらいにやるはずだったのかも。
三部さんはCESには行かないっていう情報が入っていたんだよ。CESに行かないで、CESでHonda 0シリーズの重要な発表をするからニュースがアップデートされる。だからCES後、ちょっと落ち着いたらこの件の記者会見をやろうかな?と思ったところに、リークされてやらざるを得なかった。そんな感じだったのかな。
“A00”、“ワイガヤ”…第二の本田宗一郎を目指している三部氏
高平:ホンダと日産の歴史とか企業体質とか、今までの過去のモデルから話をすると、いろいろ上手くいかないんじゃないかな?って思う人も多いかもしれないですけど。
清水:ボクは研究所時代の三部さんの副社長、社長時代をよく知っているんだけど、 “第二の創業者”になりたいと思っていると思う。つまり、第二の本田宗一郎さんになりたいと。宗一郎さんはイノベーターなんだけど、マスキー法のCVCCエンジンで世界の自動車メーカーができないって言った排ガス規制をいち早くやって、アメリカで大成功する。その時に宗一郎さんが言った言葉は、“みんなができないんだから、一攫千金のチャンスなんだからやろうじゃないか!”と。ところが、一介の若いエンジニアが“社長、お言葉ですが、1/10になってもNOx出ています。本当にやらなきゃいけないことは、淀んだロスの空を子どもたちのために青い空にすることですよね!”って言って、宗一郎さんは“もう自分は社長辞めよう”って決心した…っていう話があるじゃない。これが“A00”と言われている話。その後、これが“ワイガヤ”(※夢や仕事のあるべき姿などについて、年齢や職位にとらわれずワイワイガヤガヤと腹を割って議論するHonda独自の文化)になったわけだよね。
そういう理念を三部さんは最後に持っている人。だからやっぱりA00を考えている。本当に今度は排ガス1/10じゃなくて0にしたいと。で、事故も0にしたいと。そういう意味で神が降りたのかなと。今のホンダだったらキャッシュもあるし技術もあるから、“排ガスエミッション0、交通事故0、2050年に2輪・4輪保有含めて死亡0”っていうことを明確に言っているよね。
高平:やれるといいですね。でも、そういうホンダでも今の規模、今のマンパワーっていうか資産だと、ちょっといろいろ手を出しにくい。
清水:だから、そのA00を達成するには今のホンダの規模ではできないから、日産を巻き込んで事業をもっと成長させて、利益を生んで、それをA00に投資していく。つまり“ゼロクラッシュ、ゼロエミッション”みたいな世界だね。それが、ホンダが目指すサスティナビリティなのかな…なんてオレは勝手に考えているんだけど。
アシュワニさん、カムバ~ック!
高平:現場同士は結構上手くいきそうな気がするんですけど、日産の、あの山の 8合目から上にいるような人たちは、全員山を下りてもらわないと。
清水:オレは、アシュワニさんが戻ればいいと思う。
まぁ~ちょっと今日は酔っぱらってはいないんだけど、言い過ぎたかもわかんないけど、ボクはホンダ・日産はやらざるを得ない。日本の自動車産業の競争力はトヨタ一強になったら、日本は茹でガエルになっちゃう。
高平:ボクは正直、最近の日産を応援するよりは、ホンダ大丈夫かな?っていう、ホンダは一所懸命いろいろ打ち出してやろうとしている時に、これまでやる余裕あるのかな?
清水:ネットを見ているとね、みんなホンダ愛はあるんだけど、日産に対してものすごい厳しいよね。別に日産がっていうよりもゴーンがそうさせたところがあって、ゴーンはいないのに未だに役員に外人がいっぱいいるんだよ、高い給料取っちゃって。チンピラ外人に母屋を乗っ取られたような会社ですよ日産は…な~んて言うと炎上しちゃうかもだけど!
高平:調べれば簡単にわかりますから読者の皆さん、ネットに投稿する前に、上(役員)の人たちの給料は全額公開されていますから、いくらもらってるか見ればいい。
清水和夫爆弾「タバレスが日産に戻ると…♪」
清水:最後の決め手ね、カルロス・タバレスさん(Carlos Tavares/元日産副社長→ステランティスCEOを2024年12月1日付で辞任)がステランティス辞めたじゃない?
高平:戻ってくるのかな?
清水:戻すしかないよ。
高平:なるほど。
清水:ホンダ・日産をうまくブリッジできるのはタバレスさんしかいない。アイツはカーガイだし、昔レースやっていたし、元日産の副社長だし。
高平:なるほど! それ、え~あるんですかね。
清水:世界のトップを見ていて、昔はヴォルフガング・ライツレとか大物がいたじゃない。今は誰がいる?っていったらやっぱりタバレス。ステランティス辞めて今、フリーランスだから。
高平:あれだって、2026年までやるはずだったのを繰り上げてスパッと辞めたんですよ。
清水:フランス革命でルノーとプジョーが一緒になる。間違いない!
高平:あそこは…一緒に作っているものとかありますけど…あそこはやっぱりならないんじゃないかなっていう気はします。
清水:そんなこと言っていられないと思うよ、ヨーロッパの状態見て。
高平:そうですね、確かにおっしゃる通り。
清水:だから早くチャッチャと内田さんは日産の膿を出して、退任して、最後にタバレスと交渉して日産に戻して。
高平:日産って執行役とか含めると50人以上いるんですよね。それってやっぱり、なんだかんだ言われながらも、トヨタは豊田章男さんが社長になって会長になって、その間にすごいシンプルにしたのと比べて、和夫さんが言ったように日産は有象無象が甘い蜜を求めて、自分たちだけ巣を作っちゃったっていう感じになっている。
清水:ステランティスで1年くらい前、各ブランドが“EV売れ売れ!”って言ってきたけど、実際は売れない。売れないのに上から売れって言われている。売れない限り報奨金も出さないとか、売れるクルマを回さないとか。はっきり言ってパワハラ状態が続いていたので、ディーラーの人たちが嘆願書を書いてタバレスに直接データを送ったんだって。そうしたらね、タバレスはすぐ動いた。
元々タバレスは上のほうに“そんなことするな!”って言っていたんだけど、真ん中にAPAC(Asia-Pacific/アジア太平洋)があるじゃない、そこがいいように日本をコントロールしちゃっていた。ディーラーは一番ストレスを受けるところだから。タバレスはそういうところは鼻が効くし、現場を大事にしている男なので。
高平:いいっすね!
清水:ボクはタバレス、アシュワニ、この辺が来たら面白いと思う。
高平:日産はやっぱり、こんなこと言っちゃ本当に“なんだよ!”って言われるかもしれないですけど、カーガイがいないですよね。
清水:アシュワニさんは2年前かな、日産・サクラが出てCOTY(2022-2023日本カー・オブ・ザ・イヤー)のイヤーカーをとった時、富士スピードウェイの北ショートコースでみんなで乗ってタイムアタックをやった。その時にアシュワニさんは自分でかっこいいレーシングスーツ作ってきた。で、マツダロードスターレース(メディア対抗レース)の話をしたら、“ソレ面白いから、富士スピードウェイでメディアみんなでサクラのワンメイクレースやろう!”みたいなこと言っていたんだよ。そのくらいアシュワニさんはクルマ好きだよね。
高平:ちょっとそれいいですね。1年後にその話を検証しましょう!
清水: 2025年、この話が落ち着いた時に、誰がポストウッチー(内田)になるか。
高平: COO、CEO、CFOとか全部含めて。
清水:ホールディング会社の社長は三部さんでいいんだけど、日産側が誰になるか、ホンダ側が誰になるか。
高平:期待しています。引き続き調査をお願いします!
清水:とにかく日産の最大の問題は、クルマ好きでない人、クルマにしっかりと乗らないエンジニアが出世してきたこと。40年くらい日産を見てきて、そう思うね。
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だいぶブッ込んだ濃~い話題が繰り広げられた、年末押し迫る日に行なった今回のクロストーク、いかがだったでしょうか? 年が明け、ホンダ・日産・三菱界隈の話が見えてきたころ、今回の予言的な話はどこまで的中していたのか検証してみよう。
【清水和夫 プロフィール】
1954年生まれ東京出身/武蔵工業大学電子通信工学科卒業。1972年のラリーデビュー以来、N1耐久や全日本ツーリングカー選手権、ル・マン、スパ24時間など国内外のレースに参戦する一方、国際自動車ジャーナリストとして活動。自動車の運動理論・安全技術・環境技術などを中心に多方面のメディアで執筆し、TV番組のコメンテーターやシンポジウムのモデレーターとして多数の出演経験を持つ。自身のYouTubeチャンネル「StartYourEnginesX」では試乗他、様々な発信をしている。2025年も引き続き全日本ラリー選手権に「SYE YARIS HEV」にて参戦決定。
【高平高輝 プロフィール】
大学卒業後、二玄社カーグラフィック編集部とナビ編集部に通算4半世紀在籍、自動車業界を広く勉強させていただきました。1980年代末から2000年ぐらいの間はWRCを取材していたので、世界の僻地はだいたい走ったことあり。コロナ禍直前にはオランダから北京まで旧いボルボでシルクロードの天山南路を辿りました。西欧からイラン、トルクメニスタン、ウズベク、キルギス、そして中国カシュガルへ、個人では入国すら難しい地域の道を自分で走ると、北京や上海のモーターショー会場では見えないことも見えてきます。モータージャーナリスト清水和夫さんをサーキットとフェアウェイ上で抜くのが見果てぬ野望。